« キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展 | トップページ | 発表! モナドが選ぶ2014年のベスト映画 »

2014年12月29日 (月)

映画「サンバ(Samba)」

Samba0最強のふたり」のオリヴィエ・ナカシュ(Olivier Nakache)監督とエリック・トレダノ(Eric Toledano)監督のコンビが、再びオマール・シー(Omar Sy)を主演にして新作を撮ったと聞くと、人情とユーモア溢れるコメディ映画かと思ってしまいますが、これがまったく違います。

クスッと笑わせる小ネタが随所に散りばめられているとはいえ、気持ち良く笑いながらジーンと来るといった類の作品ではありません。ラブロマンスで味付けしている部分もあるのですが、これまたうまく着地していない感じ。そういった意味で、やや中途半端な作品になっています。

その理由はおそらく、この映画の原作“Samba pour la France”(フランスに捧げるサンバ)がとても重いお話だから。デルフィーヌ・クーラン(Delphine Coulin)が2011年に発表したこの小説、邦訳はおろか英訳も出ていませんので、不法滞在者を支援した経験を下敷きにして書いたということ以外、詳しいことはわかりません。

Samba4

ただ、この方のブログを読む限り、コメディでもラブロマンスでもないことは明らかです。オマール・シー演じる不法滞在者のサンバは、かなり過酷な体験を経てフランスに辿り着く上に、ときの政権の都合に翻弄されて苦渋をなめるわけで、どう考えても笑えるお話ではなさそうです。

また映画では、シャルロット・ゲンズブール(Charlotte Gainsbourg)演じる支援組織の女性アリスがサンバと惹かれ合う流れになるのですが、小説のアリスは単なる語り手のようで、サンバの関心は映画にも登場する黒人女性、親友の恋人でバルバスで美容師をしているグラシューズに向かうらしく、確かにその方が自然な感じがします。

Samba5

そういったわけで、この原作をラブコメ路線で撮ること自体に無理があったようで、実際に映画を観ると、ちょっとモヤモヤしたものが残るかも知れません。

Samba6

映画は、浮ついた結婚式のシーンで幕開け。新郎新婦にナイフを入れられ、厨房に運ばれていくケーキを追うカメラが、銘々の皿を用意しているパティシエの脇を抜けて、洗い場で残飯を捨てながら食洗機に皿を並べている黒人に行き着きます。これが主人公のサンバで、終業後、厨房の管理者らしき白人から書類を受け取り、地下鉄2号線のローム(Rome)駅へ。

ホームでサンバの背後に「追憶のローマ」のポスターがあったような気がしたのですが、もしかすると駅名に引っかけた小ネタだったのかも知れません。この映画、こういうわかりにくいネタを使う傾向があって、シャルロット・ゲンズブールが、自分はセックス依存症なんだと冗談を言ったりするのも、彼女の出演作を観てない人にはピンときませんよね。

Samba1

それはさておき、その後、サンバは不法滞在者の収容施設に入れられてしまいます。そこで出会うのが、彼らを支援している組織のマニュとアリスです。

アリスは大企業に勤めていたものの、仕事のしすぎでバーンアウトしてしまい、病院で治療を受けた後、リハビリ的に支援活動をしているという設定で、精神的に不安定な感じがシャルロット・ゲンズブールにぴったり。というか、彼女をキャスティングするために、そういう設定にしたのでしょう。

ちなみにマニュを演じたイジア・イジュラン(Izïa Higelin)は活躍中のミュージシャンで、異母兄に懐かしのアルチュール・アッシュ(Arthur H)がいます。

Samba3

司法手続きを経て収容施設から出たサンバは、警察沙汰になるようなトラブルを起こしたら強制送還になるということで、同郷の叔父からは、地下鉄の無賃乗車もダメ、夜中に繁華街を通るのもダメと釘を刺され、もちろん正規の職業には就けませんから、身分確認が甘い日雇いの仕事で喰いつなぎます。

Samba7

そこで出会うのが、自称ブラジル人のウィルソン。サンバは彼から仕事を紹介して貰ったり、偽造の就労許可証を斡旋して貰ったりします。その後、叔父から借りた許可証で仕事を得たりして、毎日、別人を装って働いているうちに自らのアイデンティティが曖昧になっていってしまうというのが、おそらくこの映画のテーマです。

Samba8

そのウィルソンを演じているのが「預言者」「ある過去の行方」のタハール・ラヒム(Tahar Rahim)。誰が見てもアラブ系に見えると思うのですが、後ほど、仕事にありつくためにブラジル人を装っているという種明かしがあり、彼もアイデンティティを喪失した一つのパターンとして描かれるわけです。もちろんアリスも自分を見失った1人です。

Samba9

このように、知名度ある出演者たちを何とか映画のテーマに繋げようと工夫しているのですが、強引にラブコメ路線に展開させていることもあって、映画のアイデンティティも曖昧になってしまったような・・・。

そんな中で、陽気なキャラクターで期待通りの演技を見せているのが、オマール・シー。次作は、これまでの善人役とはうって変わって、フレンチ・マフィアの役だそうです。

公式サイト
サンバSamba

[仕入れ担当]

« キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展 | トップページ | 発表! モナドが選ぶ2014年のベスト映画 »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/510287/60880494

この記事へのトラックバック一覧です: 映画「サンバ(Samba)」:

« キャプテン・クック探検航海と『バンクス花譜集』展 | トップページ | 発表! モナドが選ぶ2014年のベスト映画 »

フォト