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2015年10月26日 (月)

映画「ボーダレス ぼくの船の国境線(Bedone Marz)」

00 昨年の東京国際映画祭で「ゼロ地帯の子どもたち」という題で上映されて評判を集めた作品です。監督はアミルホセイン・アスガリ(Amirhossein Asgari)。短編1本しか経歴のない新人監督が素人俳優を使って撮った地味な作品ですが、じわっと心に染み入る良作だと思います。

映画の舞台はイラン×イラク国境の川。主人公は打ち捨てられた廃船で1人で暮らす少年です。

年の頃は10代前半でしょうか。川魚を獲って乾魚にしたり、貝殻でアクセサリーのようなものを作ったり、淡水パールを集めたりして、それを売ったお金で生活しているようです。

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少年がそれらを売りに行く側の川岸はただの草地ですが、対岸には鉄条網が張り巡らされ、廃船はそちら側の川岸で接しています。ですから、廃船から陸地に向かうためには船底から出て、川を泳いで渡らなければなりません。逆に言えば、廃船が鉄条網と川でいずれの陸地からも隔離されているおかげで、少年がそこに隠れて暮らしていけるのでしょう。

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あるとき、人の気配を感じて船内を探ると、1人の少年兵と出くわします。追い払おうとするのですが、少年兵は銃を携えていて、逆に脅されてしまいます。結局、少年兵の望み通り、廃船を真ん中で仕切って分け合うことになります。

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主人公の少年と、乗り込んできた少年兵は、互いに言葉が通じません。そこで観客は、主人公がペルシャ語、少年兵がアラビア語を話していることに気付き、それぞれがイラン人とイラク人だと知ることになります。

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引き続き牽制し合っているものの、互いの存在に慣れてきた頃、鉄条網の向こうから大きな爆音が響いてきます。少年兵は慌てて廃船から飛び出すと、鉄条網の向こうに消え、ほどなく乳児を抱えて戻ってきます。おそらくイラク領土が米軍に空爆され、家や家族を失った赤ちゃんを連れ帰ったのでしょう。

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それを見た主人公の少年は、粉ミルクを買ってきて少年兵に与えます。関係が改善したわけではありませんが、弱い者を助けるという行いが互いの心の壁を取り払ったわけです。ようやく安定した暮らしが始まるのかと思いきや、またもや闖入者が現れます。そして、その闖入者を含む3人の関係を描写していくことで、戦争や家族について静かに伝えていきます。

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登場人物の3人はそれぞれ言葉が違いますので、互いに会話できません。観客は、それぞれが語っていることを字幕で理解できますが、登場人物たちは身振り手振りでコミュニケーションするしかありません。それでも互いに理解し合おうという気持ちさえあれば、どこかで結びつくことができるというのがボーダレスという題の含意なのだと思います。

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2人が出会ったとき、少年兵は廃船の中央に縄を張り、主人公の少年は青いペンキで甲板を塗って、各自の領域を示します。そのようにしてボーダーを設けることの無意味さ、不自然さを粛々と語っていく映画といえるでしょう。

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主役を演じたアリレザ・バレディ(Alireza Baledi)はアラブ系のイラン人だそう。まったく演技経験がなかったそうですが、彼が醸し出す雰囲気がこの作品のリアリティを支えている感じです。強い意志を秘めた視線や佇まいが記憶に深く刻まれました。

公式サイト
ボーダレス ぼくの船の国境線Borderless

[仕入れ担当]

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