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2015年10月19日 (月)

映画「マーシュランド(La isla mínima)」

00 2015年のゴヤ賞で、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞など10部門を総なめにしたスペイン映画の話題作です。監督はセビリア生まれのアルベルト・ロドリゲス(Alberto Rodríguez)でおそらく本作が日本初公開。今回も通常のロードショーではありませんが、ワールド・エクストリーム・シネマ2015と題した特別企画で期間限定上映されています。

時代は1980年。舞台はセビリアの南西、グアダルキビール川に沿って広がる湿地帯。その小さな集落で16歳と15歳の姉妹が失踪し、憲兵隊の要請でフアンとペドロという二人の刑事が現地に赴きます。

あまり協力的でない父親からの事情聴取後、二人にこっそり封筒を渡す母親。そこには裸の少女が映ったネガが入っていて、失踪した姉妹に秘密があり、単なる家出ではないことが示唆されます。

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案の定、廃屋の井戸で姉妹の持ち物が見つかり、ほどなく無残な状態で遺体が発見されます。拷問された形跡から変質者の犯行が疑われる中、湿地帯の住人たちに接触していきます。両親を始めとして、誰にも裏がありそうで、なかなか真実に辿り着けません。

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捜査の過程で、失踪した少女たちと親密だったキニに行き着きます。姉妹の前に謎の死を遂げた少女とも接点があった美青年です。また、現地の記者と取引し、ネガの秘密が少しずつ解き明かされていきます。

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なかなか入り組んだストーリーで簡単には説明できないのですが、事件に直接関係する大きな二つの闇は、貧困による売春の常態化と幼児性愛者の存在です。そこに麻薬の取引、フランコ時代の亡霊ともいうべき暴力の記憶、資本家と労働者の貧富差、旧態依然とした権力構造といった地域性や時代性が絡み合い、この多元的な物語が成り立っています。

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歴史的にみると、1975年にフランコが死去し、78年に新しい憲法が公布されて民主化が始まるわけですが、実質的にフランコ派の影響力が弱まるのは80年代に入ってから。つまり映画で描かれているのは、まだフランコ独裁体制の枠組みが残っていた政治的過渡期で、社会的にも経済的にも混迷を極めていた時代。スペイン南部の貧困問題や警察をはじめとする官僚の腐敗などが、この物語の背景に共通認識としてあるのです。

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また、舞台が湿地帯であることもポイントでしょう。オープニングで使われている写真はエクトル・ガリード(Héctor Garrido)の写真集“Armonía fractal de Doñana y las marismas”からの引用だそうですが、フラクタル状の地形に封じ込められた閉鎖的な土地柄が、全編を通して不穏な空気を醸し出しています。同じように、湿地帯に住む人々の鬱屈した心情をベースにしていた米国映画「ペーパーボーイ」やアルゼンチン映画「偽りの人生」を思い出しました。

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主人公の2人の刑事を演じたのは、ハビエル・グティエレス(Javier Gutiérrez)とラウル・アレバロ(Raúl Arévalo)。

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失踪した少女の父親役は「気狂いピエロの決闘」などイグレシア作品の常連であるアントニオ・デ・ラ・トレ(Antonio de la Torre)、母親役は本作で新人女優賞に輝いたネレア・バロス(Nerea Barros)。ラウル・アレバロとアントニオ・デ・ラ・トレはアルモドバル監督「アイム・ソー・エキサイテッド!」でスチュワードと機長の役で共演していましたね。

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キニを演じたヘスス・カストロ(Jesús Castro)は「エル・ニーニョ」主演で人気上昇中の若手俳優。憲兵役のヘスス・カロッツァ(Jesús Carroza)も同作の3人組の1人です。彼が被っている帽子の後ろの日よけが、アンダルシアの熱い陽射しを思い起こさせ、土地柄を知る人の気分を盛り上げます。

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エンディング間際、ネガに映った腕まくりした人物に新たな疑惑が湧き起こります。その後、フアンが言う「すべて解決だな」のひと言に、歴史の向こうに葬り去った独裁政権の闇を思うのは、ちょっと考え過ぎでしょうか。いずれにしても、一筋縄ではいかない映画です。

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公式サイト
WORLD EXTREME CINEMAマーシュランドMARSHLAND

[仕入れ担当]

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