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2016年2月 1日 (月)

映画「サウルの息子(Saul fia)」

00 ナチスの強制収容所を舞台にした作品です。昨年のカンヌ映画祭でグランプリを受賞し(最優秀賞のパルムドールは「ディーパンの闘い」)、今月末に発表される米アカデミー賞でも外国映画賞が確実視されている話題作。監督はハンガリー人のネメシュ・ラースロー(Nemes Jeles László)*で、本ブログとしては「悪童日記」以来のハンガリー映画となります。*ハンガリー人の名前は日本人と同じく姓名の順ですので欧米ではLászló Nemesと表記

時代は1944年10月。主人公のサウルはアウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所で働くゾンダーコマンド(Sonderkommando)です。

ゾンダーコマンドというのは欧州中から送られてくるユダヤ人やロマの処刑を手伝い、死体処理を担う労働者で、収容者の中から選ばれたユダヤ人が従事していました。つまりナチスの手伝いをするユダヤ人ということですが、これも一時的なもので、何ヶ月か働いた後には処刑されていたようです。

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その頃のアウシュヴィッツ=ビルケナウは、後に絶滅収容所と呼ばれたように、大量殺戮を行うための殺人工場と化していました。映画に登場するゾンダーコマンドたちの背中には赤いバツ印が付けられていますが、これはユダヤ人であることを示す印でも、処刑される人たちと区別する印でもありません。逃亡したとき、背後から銃撃しやすいように背中に描いた標的なのです。これを見ただけでも、人間性より合理性が重視される世界だとわかります。

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そこで働くゾンダーコマンドたちも、貨車で運ばれてくる人たちをガス室に送り込み、死体を焼いて、遺灰をビスチュラ河に流すというルーティン業務を繰り返すのみ。処理する死体を部品(Stücke)と呼んでいたように、視界に入る犠牲者たちに感情移入することもありません。心を閉ざしたまま、ただ機械のように働き続けるのです。

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そのような心理を、本作ではピントの合わない映像で表現していきます。冒頭、ピンボケ画像から人影が現れ、だんだんと近づいてきて顔のクローズアップになります。それが主人公のサウルなのですが、それから後は、サウルの顔越し、肩越しにぼんやり見える映像と音だけで収容所の風景を描くようになります。

ですから、裸にされてガス室に送られる人たちも、ぼんやりとした肌色のものが流れていくだけ。その肌色のものを積み上げて運び、ガス室の床をタワシでこするサウルたちを見せることで、そこで何が行われたか観客に想像させる作りになっているのです。

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この映画は横幅の狭いスタンダードサイズで撮られていますので、サウルの顔が映り込むと、残りの部分はほんのわずかになってしまいます。つまり、ほとんど見えないわけで、その上、ピンボケのぼんやりとした映像ですから、観客は欠けている情報を自分の頭の中で作り上げるしかありません。これが生々しい情景を見せつけられるよりずっと恐いのです。この映像体験が、ユダヤ人虐殺を扱った他の数多の映画と大きく異なる部分だと思います。

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ある日、ガス室で生き残った少年が運び出されてきます。すぐにサウルの前で薬殺されるのですが、サウルはその少年を自分の息子だと言い張り、教義の則った埋葬をしてやろうと考えます。復活を信じるユダヤ教で火葬は禁忌ですから、せめてラビ(聖職者)がカディーシュ(頌栄)を唱える傍らで土葬してやりたいと奔走するのです。しかしゾンダーコマンドというのは明日をも知れぬ身。周囲の人たちは、サウルの気持ちを理解しつつも実現できるとは思っていません。

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それでもサウルは、解剖室に置かれた少年の死体を盗み出し、危険を冒してラビを捜しまわります。収容所でシステマティックに働き、システマティックに殺されていく人間たちと、死んだ少年に少しでも人間としての尊厳を与えてやりたいと願うサウル。両者のまったく逆の価値観をサウルを軸に描いていく映画です。

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主人公のサウルを演じたルーリグ・ゲーザ(Röhrig Géza)は、ブタペストで生まれ、ポーランドやエルサレムで暮らし、ニューヨークでタルムード(律法)を学んだというユダヤ系の文学者だそうです。

ネメシュ・ラースロー監督も、収容所で犠牲になった親族がいるというブタペスト生まれのユダヤ人。彼がこの映画を作ろうと思ったきっかけは、パリにあるショア記念館(Mémorial de la Shoah)が刊行している“Des voix sous la cendre”(灰の下の声:英訳は"From Beneath The Ashes"や“The Scrolls of Auschwitz”など)を読んだからだとインタビューで答えています。

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上に記したようにゾンダーコマンドたちは殺されてしまいますので、内部事情を知る人はほとんど残りませんでした。しかし彼らは自分たちが見聞したことを紙に書き留め、瓶詰めにして土中に埋めていたのです。そのメモが後に発掘され、まとめられたのがこの書籍。ショア記念館は映画の考証にも協力していて、本作を紹介する資料(PDF)にはゾンダーコマンドたちが秘密裏に撮影した収容所の写真なども掲載されています。そういった写真はwikiにも掲載されています。

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ちなみにショア(Shoah)というのはヘブライ語でホロコーストという意味。ついでに記せば、映画の後半ではゾンダーコマンドたちの脱走計画とサウルの埋葬計画が交錯して物語に緊迫感を与えるのですが、この部分は史実と整合していて、1944年10月に収容所内のクレマトリウム4(Krematorium 4)と呼ばれる施設がゾンダーコマンドの武装蜂起によって破壊されています。

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そんなわけで、決して楽しい気分になれる映画ではありませんが、処刑の恐怖で人々を屈服させようとする集団や、それから逃げてきた人々が社会問題化しているこの時代、観ておくべき映画のような気がします。

公式サイト
サウルの息子Saul fia

[仕入れ担当]

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