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2016年5月16日 (月)

映画「山河ノスタルジア(山河故人)」

00 「長江哀歌」「罪の手ざわり」で知られるジャ・ジャンクー(贾樟柯)監督が、自らの故郷である山西省の汾陽市(汾阳市)を舞台に撮った作品です。この2作にも出演した同監督作品の常連女優であり、妻でもあるチャオ・タオ(赵涛)が演じるタオを中心に物語が展開します。

カンヌ映画祭で脚本賞を受賞した「罪の手ざわり」は実際に起きた4つの事件を題材にしたオムニバス映画でしたが、本作は3つの異なる時代設定の3部構成。「罪の手ざわり」などと同じく、急速な経済発展を遂げる中国の歪みや、それに翻弄される市井の人々の姿を独特な視点で描き出していきます。

最初は1999年の物語です。汾陽の電気屋の娘で教師のタオ、炭鉱で働くリャンズー、起業家のジンシェンの3人は子どもの頃から一緒に遊んでいる幼なじみ。リャンズーもジンシェンも以前からタオに想いを寄せていたようですが、ジンシェンが気持ちを伝えたことで、3人の関係が変わり始めます。

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内気なリャンズーは、ジンシェンの自信に満ちた態度に気後れして何も行動を起こせません。一方、やり手のジンシェンは、リャンズーが働く炭鉱を買収し、彼を幹部に登用して懐柔しようとしますが、その意図を見抜いて拒絶するリャンズー。結局、タオはジンシェンを選び、傷心のリャンズーは汾陽を去ることになります。

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二人の間に生まれた息子に、米国通貨に因んでダオラー(到樂)と名付けるほど拝金主義のジンシェン。中国最古のレンガ塔、文峰塔ぐらいしか特色のない汾陽の町で暮らしていけるタイプではありません。

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続く2014年には、案の定、2人は既に離婚していて、ジンシェンはインターナショナルスクールに通うダオラーと共に上海で暮らしています。息子の将来を考えて親権を譲ったタオは、離婚時に分与されたガソリンスタンドを経営しながら汾陽で暮らしています。

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そんな折、タオの父親が急死し、葬儀に参列するため、小学生のダオラーが一人で帰郷してきます。久しぶりに再会した母子は当初ギクシャクしますが、手作りの蒸し餃子(麦穗饺子)を食べさせ、思い出の曲を聴かせることで、次第に心が繋がっていきます。

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ちなみに麦穗饺子というのは具の種類ではなく、麦穗のような形で皮を綴じた餃子のこと。中国人にとって、餃子は家庭の味、母の味なのでしょう。多くの中国映画で描かれているように、本作でも随所に餃子が登場し、その度のそれを囲む人々の関係が変化します。

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その後、別れ際にタオがダオラーに渡すのが家の鍵。「ここはあなたの家だからいつでも帰って来ていい」という気持ちを込めた贈り物です。ジャ・ジャンクー監督が「長江哀歌」で注目を浴び、あまり故郷に帰らなくなった頃、汾陽で一人暮らしをしていた母親から実家の鍵を渡された体験が本作の着想の源になったそうで、文字通りこの場面がキーになります。

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そして2025年。事業を軌道に乗せたジンシェンと、19歳になったダオラーはオーストラリアで暮らしています。インターナショナルスクールを出てオーストラリアに来たダオラーは、既に中国語が話せなくなっていて、父親の命令で中国語を習いに行っています。要するにこの父子は、お互いに得意な言語でコミュニケーションできなくなっているわけです。

ダオラーの中国語教師は、香港からカナダを経由して移住してきたミア。離婚協議でもめている彼女に関心を持ち、根無し草のように世界を渡ってきた彼女に共感を持ちます。そして、自分の母親ほどの年齢のミアに惹かれてきます。もちろんそこにあるのは、おぼろ気になってしまった実母の記憶です。

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この3つの物語は、最初はタオを巡る男女の三角関係、次がタオを軸にした父親の喪失と息子の帰還、そして最後が父子の相克とダオラーを愛する2人の母なるものという具合にテーマが変わっていきます。それらを繋ぐように共通して使われている音楽が、サリー・イップ(葉蒨文)の“珍重”と、ペットショップボーイズの“Go West”の2曲。“珍重”の英題“Take Care”が、終盤でミアが語る“The hardest thing about love is caring”というセリフと重なるようになっています。

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そして“Go West”はご存じのようにヴィレッジ・ピープルのディスコヒットのカバーで、西部開拓時代の言葉に引っかけて、西を目指そう、つまりゲイ・コミュニティが広がるサンフランシスコで自由になろうと歌ったもの。この曲で踊るシーンが映画のオープニングとエンディングにあって非常に印象的なのですが、その具体的な意味を説明しないあたりは、この監督らしさなのでしょう。いずれにしても、終映後しばらく“Go West”が耳に残ることは間違いありません。

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公式サイト
山河ノスタルジア

[仕入れ担当]

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