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2016年9月 5日 (月)

映画「リトル・ボーイ 小さなボクと戦争(Little Boy)」

00 毎年8月は、戦争や暴力について考えさせられる映画を観ているのですが(昨年一昨年)、今年はこの作品です。第二次大戦中の米国カルフォルニア州を舞台に、フィリピンに出兵した父の帰還を祈る少年の思いを描いていきます。

監督はメキシコ人のアレハンドロ・モンテヴェルデ(Alejandro Monteverde)。本作が長編2作目という新人で日本での公開作もないことからほとんど話題になっていないようですが、かなり質の高い映画です。戦争や平和を題材にしながらも正義を振りかざすことなく、子どもを主人公にしながらも安易なセンチメンタリズムに流されることなく、30代の監督とは思えないバランス感覚を感じさせます。多くの人が素直に受け入れられる作品だと思います。

陽光輝く西海岸のオハラという架空の街で暮らすバズビー家は、ジェイムズとエマの夫婦とロンドンとペッパーの兄弟の4人家族です。弟のペッパーは背が小さいことから同級生からリトルボーイと渾名されてからかわれていますが、仲のよい“相棒”でもある父親と空想の冒険を楽しみ、そんな父子をたしなめる現実的な母親と正義感溢れる兄に囲まれて幸せに暮らしています。

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時代は日米が開戦して間もない1940年代前半。徴兵年齢に達したロンドンが入隊検査を受けたところ、扁平足を理由に不合格になってしまい、代わりに父親が入隊することになります。父親が唯一の遊び相手だったペッパーは“相棒”を失い意気消沈。

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心配した母親が映画に連れていくようロンドンに頼み、上映後のショーで舞台に上げられたペッパーは、念力でボトルを移動させるマジックを成功させます。もちろんマジシャンのベン・イーグルが仕込んだトリックなのですが、自分の念力を信じたペッパーは、そのパワーで父親を呼び戻そうとします。

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そんなペッパーに教会の神父は、信仰心が篤ければマスタード粒ほどの力が山を動かすものだと説き、ペッパーが良い行いをするように教会に伝わるリストを渡します。そこには、飢えた人に食べ物を、家なき人に屋根を、囚人を励ませ、裸者に衣服を、病人を見舞え、死者の埋葬をなどと記されていましたが、司祭は“ハシモトに親切を”と付け加えます。

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ハシモトというのは、街で暮らしていた一人の日本人の名前。当時、敵性市民である日系人はマンザナーなどの収容所に入れられていましたが、米国に忠誠を誓うことで釈放される例があったようです。

父親の敵であるハシモトに強い抵抗感を覚えながらもハシモトに接触するペッパー。街の一部の人たちからはJap Loverと罵られますが、父親を取り戻すための善行ですから我慢しなくてはいけません。次第に交流を深め、ハシモトの協力を得ながら善行のリストを達成していきます。

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そんなとき、米国が日本に“リトルボーイ”と呼ばれる原爆を落としたと報道されます。戦争が終われば父親が帰ってくると信じていたペッパーは、自分の渾名と同じ名前の爆弾のおかげで終戦に向かうと大喜び。しかし、母親から、街が一つ消えたのよ、かえって憎しみを煽って捕虜が殺されるかも知れないと聞かされ、現実がそれほど単純でないことを知ります。

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そのシーンでペッパーが空想する広島の街は、子どもたちが手を繋いで輪になったまま黒こげになっている焼け野原。どこかで見たような気がすると思ったら、渋谷の“なかよし像”に似ていますね。

この映画は、監督とその友人であり、もう一人の神父役で出演しているエドゥアルド・ヴェラステーギ(Eduardo Verástegui)の2人が脚本を書いているのですが、執筆のきっかけは、広島に落とされた原爆が“リトルボーイ”と呼ばれていたことを知ったことだそう。熱心に研究したのか、ハシモトが語る小柄なサムライ“Masao Kume”の物語など、日本に対する思い入れが随所に感じられる作品です。

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とはいえ、決して米国を悪と断罪するわけではありません。一歩退いたところから、戦争は誰にとっても悲しいものとして、普遍性を持たせているところに好感が持てます。

またちょっと皮肉なユーモア感覚も楽しいところ。たとえば、ヴェラステーギ演じる神父が、ベン・イーグルの超能力などファンタジーだと切り捨てるシーンでは、その直後にカメラが壁にかけられた天地創造の絵に移動します。また、夫が不在のエマに、ペッパーの掛かり付け医師が言い寄ってくるのですが、そのドクターは太った男=ファットマンです。

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このようにいろいろな視点から楽しめる映画ですが、いちばんの見どころは何といってもペッパーを演じたジェイコブ・サルヴァーティ(Jakob Salvati)の演技でしょう。ウルウルした瞳が愛らしいだけでなく、信念を貫き通そうとする意思の力を感じさせる名演だと思います。

また母親のエマを演じたエミリー・ワトソン(Emily Watson)の演技力はいうまでもありません。旧くは「奇跡の海」、最近では「オレンジと太陽」の主人公、「博士と彼女のセオリー」の妻ジェーンの母親、「エベレスト 3D」のベースキャンプマネージャーなど、どんな人物像を演じてもハズレのない女優さんです。

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ちなみに監督のアレハンドロ・モンテヴェルデは、上で記したようにほとんど無名ですが、その妻のアリ・ランディー(Ali Landry)は1996年のミスUSAという有名モデルです。その関係か、ちょうど一年前、監督の父親と兄弟が身代金目当てで誘拐され、遺体で見つかるという痛ましい事件がありました。メキシコのセレブの大変さを垣間見た感じがします。

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公式サイト
リトル・ボーイ 小さなボクと戦争Little Boy

[仕入れ担当]

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