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2017年12月29日 (金)

映画「希望のかなた(Toivon tuolla puolen)」

00 アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)監督らしい、ユーモラスでちょっと切ない映画です。昨年のベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞しています。

物語のベースにあるのは前作「ル・アーヴルの靴みがき」と同じく移民問題。ご存知のように欧州各国でシリアスな政治課題になっているわけですが、それを肩の力が抜けた脚本とキャストで見せていきます。

紛争が続くアラブ地域から流れ込む難民と、彼らのせいで自分たちが損をしていると思う住民。このところ保守政党「真のフィンランド人(Perussuomalaiset)」の躍進もあって、監督の地元である本作の舞台、ヘルシンキでも移民排斥を叫ぶ人が目立ってきているという背景があるようです。

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主人公は故郷のシリアから逃げてきたカーリド。貨物船の石炭に隠れてフィンランドに着き、警察で難民申請しますがすぐには結論が出ず、しばらくシェルターで暮らすことになります。そこで出会ったイラク人のマズダクとの会話や、難民認定の面接官への受け答えから、カーリド一家が住んでいた住居が爆撃されたこと、生き残った妹と二人でトルコ経由で逃げたが途中ではぐれてしまったこと、元々はアレッポのエンジニアだったことなどがわかってきます。

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もう一人の主人公、ヴィクストロムはヘルシンキで暮らす中年男性。アル中の妻を見限って家を出ると同時に、洋服のセールスマンをやめてレストランを開業しようとしています。アパレルから飲食業への転向というあたりが今っぽいですね。

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在庫を売り払った現金をポーカー賭博で増やして居抜きの店を買うのですが、前のオーナーは給料不払いのまま逃げてしまうし、従業員のモラルも低いし、問題山積状態からのスタートです。

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ある日、厨芥を捨てに店の裏手に行ったところ、そこで寝ていたカーリドと出会い、ちょっとモメながらも彼を雇い入れることになります。そうして、ひとクセある既存従業員たちにカーリドが加わり、レストラン再興を目指してドタバタの日々が始まります。寿司屋に業態転換するシーンなど、日本人ウケしそうなネタも満載です。

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カウリスマキ監督の作品ですから、ストーリーはある種の寓話性を帯びた展開となりますが、セリフは現実を見据えた鋭い言葉の連続です。たとえば、難民認定の面接官から“どうやって見つからずに国境を越えたのか?”と訊かれて、“彼らは自分たちのことを何も見てないから”と答えるあたり、難民問題が無視され、置き去りにされている状況に対する当てこすりでしょう。

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また、カーリドがネオナチのゴロツキから暴力を振るわれたり付け狙われたりするのですが、その一人が発するセリフが“このユダヤ野郎め”です。要するに、アラブ人とユダヤ人の違いもわからず、自分たちが攻撃している理由もわからないまま、ただただ鬱憤晴らしをしているだけ。愚かさゆえにまともな職に就けず、卑屈なゴロツキになっているのですから、無知なのは当然かも知れませんが、何ともやりきれない気分に包まれます。

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もちろんそんな登場人物ばかりではありません。カーリドを受け入れるヴィクストロムは、妹が発見されたという連絡を受けて旅立とうとするカーリドに対し、不法移民の身分で国境をいくつも超えるのは危険だと諭します。それでもどうしても行くというカーリドに言う言葉が、“私は君より年齢が多い、電話を1本かけさせてくれ”。自分がこれまで培ってきたものを提供しようと申し出て、それが問題の解決に繋がっていくのです。他人の力になれる経験を積み重ねた、立派な年の取りかたですね。

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主人公カーリドを演じたのはシェルワン・ハジ(Sherwan Haji)。シリアで育ち、2008年にダマスカスの大学を出た後にフィンランドに移り、2015年に英国で博士号を取得したという努力家で、本作でダブリン国際映画祭の男優賞を獲っています。

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ヴィクストロムを演じたのは「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」「過去のない男」「白い花びら」といったカウリスマキ作品にも出ていたというサカリ・クオスマネン(Sakari Kuosmanen)。元もとはミュージシャンだそうです。

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ミュージシャンといえば、音楽はカウリスマキ作品の大切な要素の一つですが、本作でも古くさいロックの演奏シーンが効いています。レストランのジュークボックスから流れる曲も壁に貼られたジミ・ヘンドリックスのポスターもいい感じ。こういうユルさが、シリアスな内容にもかかわらず、温かい気持ちにさせてくれる由縁でしょう。

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その他のキャストとしては、取引先の洋品店の店主役で「ル・アーヴルの靴みがき」で主人公の妻を演じていたカティ・オウティネン(Kati Outinen)、レストランの従業員役でイルッカ・コイヴラ(Ilkka Koivula)、ヌップ・コイブ(Nuppu Koivu)、ヤンネ・ヒューティライネン(Janne Hyytiäinen)の3人、カーリドの妹ミリアム役でニロズ・ハジ(Niroz Haji)が出ています。

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公式サイト
希望のかなたThe Other Side of Hope

[仕入れ担当]

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