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2018年7月30日 (月)

映画「悲しみに、こんにちは(Estiu 1993)」

00 2017年のベルリン映画祭で新人賞(GWFF Best First Feature Award)を受賞し、ゴヤ賞でも各賞に輝いた作品です。カタルーニャ出身の女流監督、カルラ・シモン(Carla Simón)の長編デビュー作。昨年のラテンビート映画祭で上映予定だったものが中止となり、今は渋谷の単館のみですが、ようやく日本でも観られるようになりました。

3年前に他界した父親に続いて母親も亡くなり、孤児となった6歳の少女フリダが叔父夫婦に引き取られて、バルセロナからジローナの田舎に移ることになるというお話です。

映画の大部分がフリダの日常を捉えた映像で、全般的にまったりと進んでいくのですが、エンディングで一気に引き込まれることになります。というか、このシーンを撮りたくてこの映画を作ったのだろうと思うほど、最後の一瞬に感動が凝縮されている作品です。

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原題はカタラン(カタルーニャ語)で“1993年の夏”という意味。少女フリダのひと夏の経験を描いた映画なのですが、ポイントの一つがこの1993年という年。映画の冒頭で母親が肺炎で死んだことを訝しむ会話が交わされますので、勘の良い方ならすぐ気付くと思いますが、少女の両親はおそらくエイズで亡くなっています。映画の中では具体的な病名を示さず、たとえば転んで出血をしたフリダの扱いなどで、それとなく伝えます。

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90年代前半は「BPM ビート・パー・ミニット」でも描かれていたように、エイズに対する理解と周知が不十分で、わからないものに対する恐怖心が差別を生んでいた時代です。さらに、本作の主人公はバルセロナの都市部からジローナの山村に移り住むことで、都会と田舎の情報格差にも直面することになります。田舎の人の方が保守的で、未知のものへの忌避感が強いのは世界共通の傾向でしょう。

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ジローナと言われてもピンとこないかも知れませんが、マドリードを東京、バルセロナを大阪に喩えれば、京都や奈良のような位置付けの古都で、モナドの取り扱いブランドであるジョイドアート(joid’art)の本社もここにあります。

街の中心はそれなりに賑わっていますが、少し外れると途端に人の気配がなくなる田舎らしい地域で、2011年のゴヤ賞に輝いた「ブラック・ブレッド」は、ジローナの山奥の閉鎖性と森に住む精霊の伝説をフランコ政権下の闇に絡めて描いた秀作でした。

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ちなみに、少し前に話題になったカタルーニャ独立運動の中心もこの界隈で、カルラ・シモン監督の出身地であり、本作のロケ地にもなっているラス・プラナス(Les Planes d'Hostoles)に向かう街道沿いに、カルラス・プッチダモンの故郷アメール(Amer)があります。この映画の中でも、フリダの新学期の準備を手伝っている叔母が“国語というのはカタランのことよ”と言い添えるシーンや、村祭りでフリダがサニェーラ(カタルーニャ旗)を振るシーンが描かれています。

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フリダを引き取ることになる叔父エステバは、妻のマルガ、娘のアナの3人家族。両親と姉(フリダの祖父母と母)がバルセロナ在住であることから、どうやら田舎暮らしに憧れて当地で暮らし始めた人のようです。リゾート施設のようなプール併設のカフェで働きながら、自宅の畑でキャベツやレタスを育て、夜はジャスを聞いたりギターを奏でたりして、ゆったりと暮らしています。

それに対してフリダは、母親の入院中から祖父母と叔母に甘やかされて家事をしたこともありませんし、家の中にハエがいることさえ不快です。その上、猫アレルギーで蕁麻疹が出るのですが、両親の病気の一件がありますので村の診療所で何度も血液検査を受けることになり、ここでの暮らしがイヤで仕方ありません。

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それでも、村の子どもたちの遊びに加わるなど彼女なりに努力して、少しずつ田舎暮らしを受け入れていきます。エステバとマルガはひたすら愛情を注いでくれますし、アナとも仲良しになりました。母親や都会が恋しいと思う反面、自分が置かれている状況もわかっています。わがままな子どものフリダと、社会性のある賢いフリダが相克している感じです。

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わがままな子どものフリダは、ときに残酷なイタズラをして周りの大人たちを困惑させます。アナにイジワルしたり、祖父母が訪ねてきたときに一緒に帰りたがったり、祖母がくれたパジャマが気に入らなくて捨てようとしたり……。

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田舎暮らしに馴染めない自分が、田舎の人たちから嫌われているのではないかという疑念も消えません。表面的には明るく振る舞いながら、内面的にはギリギリ一杯一杯なところで踏ん張っているわけです。

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そんな難しい演技をこなしたのが、オーディションで選ばれたライア・アルティガス(Laia Artigas)というバルセロナ出身の少女。そしてアナを演じたパウラ・ロブレス(Paula Robles)。この2人の演技が映画の成功の9割以上を占めていると思います。

都会育ちの少女のちょっと小賢しい部分と、田舎育ちの少女の地に足の付いた強さが、さまざまな場面で対照的に描かれ、映画の面白さの核になっています。これは演技というより個性なのでしょう。素晴らしいキャスティングです。

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叔父エステバを演じたダビド・ヴェルダグエル(David Verdaguer)、叔母マルガを演じたブルーナ・クッシ(Bruna Cusí)、祖父アヴィを演じたフェルミ・レイザック(Fermí Reixach)、祖母を演じたイザベル・ロカッティ(Isabel Rocatti)など、主にカタルーニャやバレンシアで活躍する俳優たちが出演しています。ダビド・ヴェルダグエルは本作でゴヤ賞の助演男優賞を受賞しました。

公式サイト
悲しみに、こんにちはSummer 1993

[仕入れ担当]

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