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2018年7月 2日 (月)

映画「男と女、モントーク岬で(Rückkehr nach Montauk)」

00 ドイツの巨匠フォルカー・シュレンドルフ(Volker Schlöndorff)監督の新作です。代表作「ブリキの太鼓」も3年前に観た「パリよ、永遠に」もナチス絡みでしたし、彼の妻が撮った「ハンナ・アーレント 」もそうでしたが、本作はドイツ現代史とはほとんど関係ありません。パウル・クレーの天使の絵画が出てきたり、登場人物たちがベルリン出身だったりするあたりにドイツとの繋がりがみられますが、舞台はニューヨークで会話もほぼ英語です。

映画は非常に凝ったタイトルバックに続いて、ドイツ人の小説家マックスがエア・ベルリン(去年破綻しましたね)でJFK空港に到着するシーンでスタート。彼のNY滞在中の出来事が1日目、2日目と順を追って描かれていきます。

まず初日は小規模の朗読会。長いモノローグのように聞こえますが、すぐに自作の朗読だったことがわかります。その小説のモチーフと、自らの実らなかった恋愛が重なり、映画で描かれる物語の背景説明になっています。

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マックスにはニューヨーク在住のクララという恋人がいて、周囲に妻だと紹介しますが、結婚はしていないようですし、もちろん一緒に暮らしているわけではありません。どうやら仕事を通じて知り合い、彼が版元に紹介してそこのインターンとして働いているようです。もしかするとドイツの出版社でマックスを担当していた編集者なのかも知れません。パーティ会場で同僚から“次作は君が主人公だね”と言われるあたりがちょっとした仕掛けになっています。

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ニューヨークでの担当編集者はリンジーで、彼女がプロモーションの仕切りからマックスの秘書的な役割まで果たしています。当然、マックスとクララの関係も知っていて、うまく公私のバランスを取りながらマックスの世話をしています。後々、2人の関係をクララが疑うシーンがあり、それでマックスが見境なく編集者に手を出すクズだとわかりますが、少なくとも序盤ではそういう雰囲気はありません。

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朗読会の終了後、マックスがむかし世話になったウォルターという資産家と再会し、この邂逅が17年前の記憶、小説のモチーフになっているレベッカとの思い出を蘇らせます。ウォルターから彼女の話を聞いたマックスは、連絡を取って欲しいとリンジーに頼みます。建前は翌日の朗読会への招待ですが、実はその会場になっている図書館は彼らの思い出の場所で、そこでレベッカと会うことがマックスにとって独りよがりな演出なのです。

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結局連絡がつかず、マックスはリンジーの案内でレベッカのオフィスに赴くことになります。大手の法律事務所らしい現代的なビルですが、かたやマックスは“骨董品屋のような身なり”で場にそぐわない雰囲気です。対する17年振りの彼女は、成功している弁護士らしく非常に洗練されています。その姿に憧憬を抱いたのか、好奇心をかきたてられたのか、レベッカに対する思いを新たにするマックス。リンジーが持っていた新刊本を渡すなど自己アピールに余念ありません。

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しかしレベッカの気持ちは醒めています。当然、朗読会にも現れません。そこで諦めるのが普通でしょうが、マックスはパーティの酒で酔ったまま、アポなしで彼女の自宅に訪れてしまいます。モニターで見たレベッカは無視を決め込みますが、一緒にいた友人のレイチェルが応答してしまい、マックスを自宅に迎え入れることに。これまた彼女の成功を象徴するような豪勢な部屋で、眺望だけでなく内装も家具も高級感あふれています。彼女の収入について訊ねるマックスの目に羨望が滲みます。

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その後いろいろあって、レベッカとマックスは思い出のモントーク岬に向かうことになります。その前に“骨董品屋のような身なり”を変えようと洋服を買いに行くくだりがあり、その店では丈直しをしないようでリンジーのアパートで裾上げしてもらうのですが、そこで彼女の部屋の狭さに驚き、家賃が1500ドルと聞いてさらに驚愕します。また終盤でクララの部屋を訪ねる場面があるのですが、そこも1階のケバブ屋のにおいが染みついた狭い部屋。彼女たちの部屋とレベッカの部屋の差は、マックスが住む世界とレベッカが住む世界の差でもあり、2人が会わなかった17年間に彼らがしてきたことの差なのです。

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レベッカと交際していた頃、マックスはプラトンの「饗宴」を諳んじたそうです。現在もクララから“物識りなところが好き”と言われています。日本にも“薔薇”と漢字で書いて見せて女性を口説くとうそぶいていた小説家がいましたが、要するにインテリジェンスを纏ってロマンティシズムを振りまく享楽主義者なのです。レベッカも若気の至りでそんなマックスに惹かれたわけですが、経験を積み重ね、大人になった今、その本質がはっきり見えるようになっています。

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マックスもそれに気付いていて、インタビューアから“最近は政権に対して保守的になったようだが”と問われ、“私は樹木ではない、動き回る動物なので常に立場が変わる”と答え、続けて経済的価値よりも文化的価値を強調しつつ自らをピノキオやドンファンやドン・キホーテに喩えてみせます。裏からみれば、刹那的に生きてきた結果、老いて守りに回りたくても、すがれるのは文化の香りしか残っていないという挫折感。彼の言葉や行動の端々に現れる経済的コンプレックスの根っこです。また終盤で描かれるウォルターから絵画を贈られる場面でも、芸術の本質的価値と金銭的価値についてマックスに自問させ、生き方の選択を暗に示します。

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ということで、表面的には過去の実らなかった恋に身を焦がすロマンティックな中年作家の物語ですが、本質的には既に取り返しのつかないところまで来てしまったことに未熟な男が気付く物語です。そういう意味で、いろいろな経験を経た大人向きの映画だと思います。

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主役マックスを演じたのは「ドラゴン・タトゥーの女」「メランコリア」「孤島の王」のステラン・スカルスガルド(Stellan Skarsgård)。彼のダメ男ぶりもリアリティがあってとても良かったと思いますが、やはりレベッカを演じたニーナ・ホス(Nina Hoss)の巧さが際立っていました。「東ベルリンから来た女」「あの日のように抱きしめて」をご覧になった方ならおわかりのように、微かな表情の変化で演技できる女優さんです。本作では撮り方の妙もあって、マックスが仰ぎ見てしまうような圧倒的な存在感をみせつけます。

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資産家ウォルターを演じたのは「預言者」「サラの鍵」「パリよ、永遠に」のフランスの名優ニエル・アレストリュプ(Niels Arestrup)。ほぼ英語の本作で彼だけはフランス語を交えて演じます。その他、クララ役はドイツ人女優のスザンネ・ウォルフ(Susanne Wolff)、リンジー役はイシ・ラボルド=エドジーン(Isi Laborde-Edozien)、レイチェル役は「アルバート氏の人生」に出ていたブロナー・ギャラガー(Bronagh Gallagher)が演じています。

公式サイト
男と女、モントーク岬でReturn to Montauk

[仕入れ担当]

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