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2018年10月15日 (月)

映画「クレイジー・リッチ!(Crazy Rich Asians)」

00 ハリウッド映画ながら、監督はじめスタッフもキャストもすべてアジア系で製作され、全米で大ヒットしたという作品です。王道を往くロマンティックコメディらしい朗らかな笑いと、風刺の効いたひねくれた笑いをバランスよくミックスした佳作だと思います。

主人公はニューヨーク大学経済学部で教鞭をとる29歳のレイチェル・チュー。スタンフォード大学とノースウェスタン大学で学び、新進気鋭の教授として活躍している米国生まれの中華系女性です。物語は彼女が交際中のシンガポール人、同じ大学の歴史学部教授ニコラス・ヤンから、幼なじみの結婚式に一緒に出席しようと誘われたことで動き始めます。

レイチェルは中国本土から移民してきたシングルマザーの娘で、母親は中華料理店の住み込みからスタートして現在は不動産仲介業をしています。ニック(ニコラス)についてはオックスフォード大学ベリオールカレッジ出身だと知っている程度で、実家については話したことがなかったのですが、実は東南アジア屈指の富豪の家系。レイチェルはそれをジョン・F・ケネディ空港に着いて初めて知ることになります。

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プロローグで、幼いニックと親族がロンドンの名門ホテルから邪険に扱われ、一族がそのホテルを買収してしまう場面が描かれますので、映画の観客も原作小説の読者も彼らのCrazy Richぶりについて予備知識を与えられているのですが、主人公のレイチェルは何も知らない状態からのスタート。シンガポール航空のファーストクラスを皮切りに、ニックの幼なじみコリンとその婚約者アラミンタ、ニックの祖母シャン・スー・イー、母親エレノアと接するごとに自分が置かれている立場の難しさを目の当たりにしていくわけです。

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地元では資産目当ての女性たちが虎視眈々とニックを狙っています。一族は団結して彼におかしな女性が近づかないように警戒しています。そういった状況ですから、素性がはっきりしないレイチェルが、ことある毎に厳しい視線に晒され、苦境に立たされるのも致し方ありません。

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そんなレイチェルをシンガポールで支えるのがスタンフォード大学の同級生で現在は地元で家業を手伝うペク・リン。「オーシャンズ8」で掏摸のコンスタンス役だったオークワフィナ(Awkwafina)が演じていて、非常にいい味を発揮しています。

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彼女の実家であるゴー家は不動産開発業者として成功した成り金で、在星邦人が“金持ちの華人”と聞いてイメージするファミリーそのもの。母親もばりばりのシングリッシュで喋ります。それに対してニックの実家は想像を絶する資産家という設定で、特に原作小説だとちょっとわかりにくいところです。

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どうわかりにくいかというと、小説は実在のブランドや場所などで補強された壮大なホラ話なので、その誇張の大きさが実感できないと楽しめない感じというのでしょうか。

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たとえばニックの祖母の豪邸があるタイサールパーク。送っていったペク・リンが、門衛のグルカ兵とその広大さに驚愕するシーンです。

シンガポール植物園の西側ギャロップロード(Gallop Rd)からタイサールロード(Tyersall Rd)に入ったあたりの古びた門を通ると、数キロ進んだ先に宮殿のような屋敷が見えてくることになっているのですが、実際の植物園は東西が数百メートルしかありませんので、そんなに進んだら反対側に出てしまいます。要するにありえない世界、一種のシャングリラなのです。小説第2章のエピグラフで“私はこの目で見てきたことの半分も語っていない。なぜなら誰も私を信じないだろうからだ”というマルコポーロの言葉を引いていますが、彼に匹敵する大風呂敷ですので、ホラ話の境界線がわからないと、笑い飛ばすところで感心してしまいモヤモヤした気分になります。

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その点、映画は実写で作られているおかげで、すべて現実的な範囲に収められています。深く考えず、観た通りそのままを楽しめるという意味で、小説より映画の方がエンターテイメントとして良い出来だと思います。

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また大筋では原作に沿った映画ですが、エンディングがすっきりした結末に変えられているところも良い点だと思います。クライマックスの麻雀シーンは映画で加えられた部分で、エイミー・タン「ジョイ・ラック・クラブ」へのオマージュだそうですが、それに呼応させるようにレイチェル・チューがカードゲームを使った講義をする場面を冒頭に置いています。その関係で彼女の専門がゲーム理論に変えられているのですが、原作では経済発展(Economic Development)が専門で、そのあたりをクリス・アキノ(Kris Aquino)演じるインタン王女とマイクロファイナンスに関する会話をさせることでさりげなく織り込んでいるあたりもうまいと思いました。

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ついでに言えば、ニックのいとこのオリバー。ロンドンのクリスティーズで働く古美術専門家というポッシュなキャラクターから、映画ではゲイのスタイリストという設定に変えられていて、レイチェルを助けるという役割は一緒ですが、大幅に明るいイメージになっています。演じているのはニコ・サントス(Nico Santos)というフィリピン系の俳優だそうで、彼とオークワフィナの存在感がいろいろな部分で効いてきます。

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主人公のレイチェル・チューを演じたのはコンスタンス・ウー(Constance Wu)。原作ではウォン・カーウァイの映画に出ていた日本人俳優に似ているとされている(たぶん金城武のこと。木村拓哉ではないでしょう)ニコラス・ヤンを演じたのはヘンリー・ゴールディング(Henry Golding)。華人ではなく、英国人とイバン族のハーフだそうです。

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有名どころではニックの母親エレノア役でミシェール・ヨー(Michelle Yeoh)が出ています。ワイヤーアクションのない彼女を見たのは「宋家の三姉妹」以来でしょうか。彼女はマレーシアのイポー出身の華人ですから、物語の設定としてはぴったりのバックグラウンドですね。

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そしてニックの祖母シャン・スー・イーを演じたリサ・ルー(Lisa Lu)。「ラストエンペラー」や「ジョイ・ラック・クラブ」にも出ていたベテランです。このブログでは2011年の主演作「再会の食卓」をご紹介しています。

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公式サイト
クレイジー・リッチ!Crazy Rich Asians

[仕入れ担当]

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