スペイン

2017年5月15日 (月)

映画「ノー・エスケープ 自由への国境(Desierto)」

00 ガエル・ガルシア・ベルナル(Gael García Bernal)主演のスペイン語映画です。

監督はこれが長編2作目というホナス・キュアロン(Jonás Cuarón)。「天国の口、終わりの楽園。」の監督アルフォンソ・キュアロン(Alfonso Cuarón)の息子で、その弟である「ルドandクルシ」の監督カルロス・キュアロン(Carlos Cuarón)の甥です。父親が監督した「ゼロ・グラビティ」には脚本で参加しています。

メキシコ映画の重鎮である父親と叔父がプロデュースし、彼らとも関係が深いガエル・ガルシア・ベルナルが主演していることからも、多分に七光り的な背景を持つ作品だとわかります。

物語もシンプルで、メキシコから米国へ密入国を図った一団が、1人の男から銃撃されて逃げ惑うというもの。ある意味で「ゼロ・グラビティ」と似た着想とも言える、極限状況で繰り広げられるサバイバル映画です。違うのは宇宙空間ではなく砂漠だということで、原題もシンプルに“砂漠”というスペイン語の一語になっています。

映画の始まりは、荷台に15人の男女を積んだトラックが砂漠を走ってくるシーン。ふいに停車し、エンジンが故障していることがわかります。そこから歩いていくしかないのですが、密入国業者の若い方の1人が、砂漠は危険だからと躊躇するのを押し切って、皆で鉄条網を潜ります。

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2人組の密入国業者のうち、中年の方を演じているのはマルコ・ペレス(Marco Pérez)というメキシコ人俳優で、その昔「アモーレス・ペロス」に出ていたそうです。若い方はディエゴ・カターニョ(Diego Cataño)といって、この監督の長編第1作目「Año uña」でも主役を務めた盟友とのこと。ちなみに「Año uña」の主演女優エイリン・ハーパー(Eireann Harper)はホナス・キュアロン監督と結婚して一児の母となっており、本作ではアソシエイト・プロデューサーとしてクレジットされています。

15人が果てしなく広がる砂漠地帯を越えていくことになるのですが、遅れた1人を待ってあげた4人、つまり5人だけが置いて行かれる状況になります。遅れた1人を励ましていると、ふいに銃声が響き、砂漠の真ん中を歩いていた先行グループの1人が倒れます。そして次から次へと銃撃され、全員が射殺されてしまいます。

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1人の男が丘の上から狙撃しているとわかった5人は、直接狙われないように岩場に逃げ込みます。ここで恐いのは、誰が何のために銃撃しているかわからないこと。少なくとも、不法移民を捕らえようとしている警察や軍ではなさそうです。ということは、手を挙げて出て行っても、問答無用で撃たれる可能性が高いわけで、岩影に隠れながら逃げ延びるしかありません。

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しかし、敵は男だけではありませんでした。男はトラッカーと名付けられたジャーマン・シェパードを飼っていて、これが忠実に獲物を追うだけでなく、獲物を捕らえたり、とどめを差すこともできる犬なのです。

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早速1人が犠牲になり、岩場でもう1人が撃たれ、ガエル・ガルシア・ベルナルが演じるモイセス、ディエゴ・カターニョが演じるメチャス、そしてアロンドラ・ヒダルゴ(Alondra Hidalgo)が演じる紅一点アデラの3人が追われることになります。

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追う側の男、サムを演じたのは、TVドラマの「グレイズ・アナトミー」や「ウォーキング・デッド」で知られる他、映画「ウッドストックがやってくる!」にも出ていたジェフリー・ディーン・モーガン(Jeffrey Dean Morgan)。悪態をつく以外、ほとんど語らない難しい役を違和感なく演じています。

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観客の興味は、唯一のスターであるガエル・ガルシア・ベルナルが生き延びるか否かの一点に集約されますから、話を拡げにくい映画なのですが、淡々と追い続けるジェフリー・ディーン・モーガンの姿に不思議な説得力があるおかげで、単調にならず、緊張感を保ったまま1時間半弱を引っ張っていきます。

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恐怖の追いかけっこを繰り広げながら、うっすらと登場人物の背景を滲ませていく作品です。宣伝では、米国大統領に絡めて政治的なにおいを醸していますが、ほとんど政治色を感じさせません。何も考えず、シンプルなスリラーとして楽しんだ方が良さそうです。

公式サイト
ノー・エスケープ 自由への国境

[仕入れ担当]

2017年4月 3日 (月)

映画「クローズド・バル(El bar)」

00 久しぶりのスペイン映画です。鬼才アレックス・デ・ラ・イグレシア(Álex de la Iglesia)監督の最新作。このブログでも、2011年に上映された名作「気狂いピエロの決闘」を皮切りに、「刺さった男」「スガラムルディの魔女」、昨年の「グラン・ノーチェ!」までラテンビート映画祭で上映された作品をいくつかご紹介していますが、本作も独特の世界観あふれる1本です。シネマート新宿で開催されている「シネ・エスパニョーラ2017」で観てきました。

ストーリーは実に単純で、見ず知らずの8人の男女がマドリードのバルに閉じ込められてしまうというもの。といっても誰かに監禁されるわけではなく、店から出て行った客がどこからか狙撃され、その人を救出しようと出て行った客も撃たれてしまって、残された客は事情がわからなくて外に出られない状態におかれてしまうお話です。

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ちなみに舞台となったこのバル、スペインのABC紙によると、マドリードの中心にある El Palentino という店で、検索してみたら本作のポスターが飾られている店内の様子(google map)が写っていました。場所はカジャオ(Callao)からグランビアの北側の路地に入っていったあたり。飲食店がたくさんあるエリアですね。

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閉じ込められた客たちは、互いに疑心暗鬼になりながら、時間の経過とともにそれぞれの私生活が暴かれていきます。このあたりがいかにもイグレシア監督といった感じで、下世話な中に適度な社会性をもたせた絶妙な設定になっています。

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ふと気付くと、路上に倒れていた2人は跡形もなく消えています。そして客たちは、事件が起こる前にトイレに入ったまま出てこない客がいることに気付き、便器の傍らで倒れている男を見つけます。

その男のスマホの履歴から、アフリカで致死率の高い感染症に罹ったらしいとわかり、政府が秘密裏に自分たちを隔離したのではないかという結論に至ります。つまり、感染を拡大させないために、感染者に接触した人間すべてを抹殺する作戦です。

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道理で、TVで報道されないはずです。街の中心部で火災が発生しているので避難するようにというアナウンスがあったのみで、銃撃があったことも、感染者が出たことも、ニュースはまったく触れません。

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バルに残された客たちは一種の運命共同体ですから、力を合わせて危機を乗り越えるべきですが、そうはならず、各人のエゴがむき出しになって互いにぶつかり合っていきます。こういう巻き込まれ型のサスペンスを使って、人間の本質を暴いていく作風はイグレシア監督の十八番ですね。

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バルに残されたのは女性店主と2人の女性客、そしてバルの従業員男性と4人の男性客。女性客の1人がアルモドバル監督「私が、生きる肌」「アイム・ソー・エキサイテッド!」で知られるブランカ・スアレス(Blanca Suárez)。イグレシア監督とは「グラン・ノーチェ!」に続く2作目となります。

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もう1人の女性客が「抱擁のかけら」「ペーパーバード」のカルメン・マチ(Carmen Machi)。「アイム・ソー・エキサイテッド!」「グラン・ノーチェ!」でもブランカ・スアレスと共演していました。そして女性店主は「気狂いピエロの決闘」「スガラムルディの魔女」「グラン・ノーチェ!」などイグレシア作品の常連女優テレレ・パベス(Terele Pávez)。

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バルの従業員は「スガラムルディの魔女」に出ていたセクン・デ・ラ・ロサ(Secun de la Rosa)。中年の男性客2人はアレハンドロ・アワダ(Alejandro Awada)と「気狂いピエロの決闘」「刺さった男」のホアキン・クリメント(Joaquín Climent)。ホームレスのイスラエルが「スガラムルディの魔女」「グラン・ノーチェ!」のハイメ・オルドネス(Jaime Ordóñez)。

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そしてもう一人、若いひげ面の男性客ナチョを演じているのがマリオ・カサス(Mario Casas)。イグレシア作品は「スガラムルディの魔女」「グラン・ノーチェ!」に続く3作目ですが、「シネ・エスパニョーラ2017」の上映作品5本のうち、本作の他に「ザ・レイジ」「インビジブル・ゲスト」でも主演を務めている人気俳優です。

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最終的にお得意のドタバタになだれ込んでいくのですが、美人女優のブランカ・スアレスとベテラン女優のカルメン・マチに、そこまでやらせるのか、という無茶苦茶な展開になります。残りの上映回数も限られていますのでご覧になるのは難しいかも知れませんが、イグレシア監督のファンなら観ておきたい1本だと思います。

公式サイト
シネ・エスパニョーラ2017

[仕入れ担当]

2017年2月 5日 (日)

ブボバルセロナのモノリッツ スペインの伝統菓子トゥロンをアレンジしたチョコレート

今年も行ってきました♪西武池袋本店チョコレートパラダイス2017(会場マップ:PDF)。「世界をめぐる、スイートな旅」をテーマに各国のチョコレートをとり揃えています♪♪

今回のお目当ては、ブボバルセロナ(bubó BARCELONA)。以前、バルセロナのブボ・バルで美味しいタパスをいただいた思い出(詳しくはこちら)がありますが、スイーツを買うのは初めて♡

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下の写真のカラフルなチョコレート「モノリッツ」は、スペインの伝統菓子トゥロンをアレンジしたものだそう。ポップロックスと名付けられたプラリネは、パチパチとはじけるアメがコーティングされていて、口の中ではじける仕掛けに!ホワイトチョコでコーティングされたバレンシアオレンジとパッションのガナッシュは、絶妙な酸味と甘みで、とろけるような美味しさです!!

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ほかに、トマトのゼリーやレモンとバジルを組み合わせたボンボンショコラや、大粒のナッツが入ったチョコフルーツシリーズがあり♡ ちょうど昨日、表参道にオープンしたばかりの日本1号店はしばらく混雑していそうですが、ここチョコレートパラダイス2017では、ゆっくりと商品を選べますよ♥︎

会場は、ただいまモナドがイベント出店中の2階アクセサリー売場(ロフト側の南ゾーン)からエスカレーターで上ってすぐです。ぜひお立ち寄りください。

〜臨時休業のお知らせ〜
1月30日(月)から2月16日(木)まで根津の店舗をお休みいたします。通販や商品に関するお問い合わせはメール(shop@monad.jp)でご連絡ください。ご不便をお掛けいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。

[店長]

2016年11月 7日 (月)

映画「ジュリエッタ(Julieta)」

00 主人公の名前“Julieta”は“フリエタ”と発音します。彼女が、若い女性から声をかけられ物語が動き始めるのですが、この印象的なシーンの起点になるのが“フリエタ!”という呼びかけ。

このあたりがスペイン語の映画の厄介なところですね。原作となったアリス・マンロー(Alice Munro)の短編集“Runaway”の主人公の名前がジュリエット(Juliet)ですので、その絡みでこういう邦題になったのだと思いますが、なんとも中途半端な感じです。

とはいえ、久しぶりに原点回帰して母娘ものに取り組んだペドロ・アルモドバル監督(Pedro Almodóvar)、本領発揮といえるでしょう。前作「アイム・ソー・エキサイテッド!」や、直近のプロデュース作品「人生スイッチ」が今ひとつ響かなかったアルモドバル・ファンの方も、女性の心の機微を精緻に描いていくストーリーと、独特の色彩感覚にあふれた映像を心ゆくまで堪能できると思います。

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たとえばオープニング。揺れる赤い布のドレープを背景に、黄色をアクセントにした白文字のタイトルが現れ、カメラが引いていくとその赤い布がフリエタの服の一部だったことがわかります。続いてプリミティブな彫像のクローズアップ。センシュアルでスタイリッシュなアルモドバルの世界観が一気に拡がります。同時に、過去を捨てようと決心したフリエタの揺れる心が伝わってくる素晴らしい幕開けです。

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12年前に何も告げず行方をくらました愛娘アンティカ。彼女に対する思いに囚われ、苦悩を抱えてきたフリエタが新たな生活に踏み出そうとしていたその矢先、街角で偶然に出会ったベアから、コモ湖畔でアンティカと会ったと告げられます。ベアはその昔、アンティアの親友だった女性。アンティアは行くのを嫌がっていたキャンプでベアと親しくなり、青春のひとときを謳歌している最中に父親を失います。それが彼女の失踪に影響を及ぼしていることは想像に難くありません。

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ベアによると、アンティアには子どもが3人いて、母フリエタは今もマドリードに住んでいると語ったそう。それを聞いたフリエタは、彼女が戻ってきたときに、自分を探せなくなるのではないかという不安に駆られ、ポルトガルでの新生活をとりやめ、娘が失踪したときに暮らしていたアパートに部屋を借りて暮らし始めます。

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そのアパートでフリエタは、アンティアの父親ジョアンとの出会いから彼の死に至るいきさつ、ジョアンの女友だちアバとの関係や家政婦マリアンとの確執、アンティアが生まれてからギクシャクした自分の父母のことなどを分厚いノートに書き綴っていきます。映画の観客は、ノートの記されていくフリエタの半生を映像で追体験するわけです。

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過去と現在を行き来する関係で、現在のフリエタをエマ・スアレス(Emma Suárez)、過去を「情熱のシーラ」のアドリアーナ・ウガルテ(Adriana Ugarte)が演じ分けています。エマ・スアレスについては、カンヌ映画祭のフォトコールに、ベアトリス・パラシオス(BEATRIZ PALACIOS)のジュエリーを身につけて登場したというニュースをこのブログでご報告しましたね。

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ジョアンを演じたのは「スパニッシュ・アパートメント」に出ていたダニエル・グラオ(Daniel Grao)、アバを演じたのは「ブランカニエベス」に出ていたインマ・クエスタ(Inma Cuesta)。

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そして、これが地味なようで重要な役なのですが、家政婦マリアンを演じたのがロッシ・デ・パルマ(Rossy de Palma)。個性的な顔立ちなのですぐにわかると思いますが「神経衰弱ぎりぎりの女たち」「アタメ」など初期アルモドバル作品で活躍した女優さんです。

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その他、有名どころでは「トーク・トゥ・ハー」の準主役で「人生スイッチ」で音楽評論家を演じていたダリオ・グランディネッティ(Darío Grandinetti)がフリエタの現在のボーイフレンド役、「私が、生きる肌」に出ていたスシ・サンチェス(Susi Sánchez)がフリエタの母親役で出ています。

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あまり知名度はありませんが、「エル・ニーニョ」で主人公の仲間の姉アミナを演じていたマリアム・バシール(Mariam Bachir)が、フリエタの父母の同居人サナアの役で出ています。本作では引退した両親の隠居先であるアンダルシアの空気感が非常に魅力的に描かれているのですが、アラブ系の彼女を配し、隠居先を決めた理由が彼女に関係していることを匂わせているのでしょう。

それ以外にも、ジョアンやアバの地元である漁村(ガリシア州ア・コルーニャ県)や、アンティアを探しに行くピレネー山脈(アラゴン州ウエスカ県)の映像がとても美しく、今すぐ旅立ちたくなります。

またエンディングで流れるテーマ曲“Si no te vas”(もしあなたが去らなかったら、という意味)も良い感じ。もちろん、登場人物たち(下の写真はフリエタの母親)が着る衣装も洒落た小物もアルモドバルのセンスが炸裂していて、見応え十分です。

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公式サイト
ジュリエッタJulieta)(英語サイト

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2016年10月31日 (月)

ラテンビート映画祭「600マイルズ(600 Millas)」

00_2 2015年のベルリン映画祭で上映され、監督のガブリエル・リプステイン(Gabriel Ripstein)が初監督作品賞に輝いたメキシコ映画です。

主演はティム・ロス(Tim Roth)。4ヶ月ほど前にご紹介した「或る終焉」でも主役を務めていましたが、この時期、メキシコ映画に縁があったようです。物語はティム・ロス演じるATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)捜査員のハリスが、捜査対象である容疑者に捉えられ、アリゾナからメキシコまで連れ去られるというもの。ロードムービー的な作品です。

ハリスを誘拐するのは、密輸組織の新入りルビオ。国境に向かう途中、入国審査官の質問に滑らかに答えられるように、ずっと独り言でシミュレーションしているような気の小さな青年です。本当はこういう仕事に向かないタイプなのかも知れませんが、他に仕事がないので犯罪組織にかかわってしまうという点で、メキシコの今を象徴しているキャラクターといえるでしょう。

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そのメキシコ青年を演じるのは「闇の列車、光の旅」に出ていたクリスティアン・フェレール(Kristyan Ferrer)。ちょっと垢抜けない風貌が犯罪組織の下っ端役にぴったりです。巻き込まれて振り回されるティム・ロスよりも、物語を引っ張っていくクリスティアン・フェレールの方が主役なのかも知れません。

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ルビオの仕事は、米国内で買いあさった銃器をメキシコに密輸する運転手。彼の仲間が銃器店や展示会(Gun Show)で購入した銃器を、シートの下などに隠して国境を越えます。米国からメキシコへの国境越えは厳しくないようで、独り言シミュレーションのおかげもあって仕事はスムースに運んでいます。

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その仲間がATFに目を付けられ、ハリスがルビオの車を調べようとします。しかし、仲間がハリスを返り討ちにして、ルビオの車でメキシコの幹部のもとに運ぶことになります。なぜ捜査官を生きたまま運ぶことになったのか、よくわかりませんが、おそらく米国内で処理するのは危険だと思ったのでしょう。

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そこから、ルビオとハリスの600マイルの旅が始まります。ルビオは犯罪組織の末端にいるとはいえ、本質は純朴な青年ですので、会話を交わしているうちに段々と情が移ってきます。その心情の変化、関係性の変化を描きながら、メキシコが抱える闇を浮かび上がらせていく作品です。

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不条理だったり不可解だったりするタイプの映画ではありませんが、最後はちょっとオープンエンドな終わり方になっています。ネタばれにならない程度に書くと、2人が別れる場所を米国内とみるか、メキシコ国内とみるかで、2人の変化の帰着点が変わり、ハリスの人間性、ひいては米国とメキシコの関係性に対する印象が大きく変わってきます。

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そのあたりを含めて、メキシコがおかれている状況の難しさ、米国の銃社会が抱える病理などがバランス良く描かれているところがベルリン映画祭で評価された点だと思います。鋭さは感じませんが、じわっとくるものはあるのではないでしょうか。

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ラテンビート映画祭のFacebook

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2016年10月24日 (月)

ラテンビート映画祭「彼方から(Desde allá)」

00 ベネズエラの映画です。監督のロレンソ・ビガス(Lorenzo Vigas)は1967年生まれで、ベネズエラのメリダ出身。初の長編作品である本作で昨年、ヴェネツィア映画祭の金獅子賞を獲得しています。

原作は「アモーレス・ペロス」「21グラム」「バベル」の脚本家であり、「あの日、欲望の大地で」の監督であるメキシコ出身のギジェルモ・アリアガ(Guillermo Arriaga)。ロレンソ・ビガス監督のデビュー作「Los elefantes nunca olvidan」のプロデューサーでもあります。

そして主演は「トニー・マネロ」「NO」「ザ・クラブ」といったパブロ・ラライン作品の常連俳優アルフレド・カストロ(Alfredo Castro)と、新人のルイス・シルバ(Luis Silva)で、ほぼこの2人で展開していく作品です。

アルフレド・カストロ演じるアルマンドは、ベネズエラの首都カラカスで暮らす中年男性。歯科技工所を営んでいて暮らしぶりは裕福です。結婚はしてないようで、ときおりバス停などで若い男性に声をかけては、自宅に連れ込んでいます。彼の風変わりなところは、連れ込んだ男性に触れることなく、カネを渡して部屋の片隅から眺めること。映画祭で使われた英題“From Afar”は原題の直訳ですが、題名そのもの“遠くから”見ることが目的なのです。

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あるとき、街角にたむろしていた不良青年エルデルを誘い込みます。しかし、アルマンドの思い通りにはならず、結局、彼に殴られてカネを奪われてしまいます。それでも、というより、それだからかも知れませんが、急速にエルデルに惹かれていくアルマンド。彼の姿を求めて街を歩きまわり、見つけた彼にカネを遣って改めて関係を作ろうとします。

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最初はオカマ(maricón)と罵っていたエルデルも、次第に気を許すようになり、不思議な関係が築かれていきます。

2人に共通するのは、父親に対する屈折した感情。アルマンドは立派なビジネスマンである父親と疎遠な状態にありながらある種の憧憬も抱いていて、エルデルは暴力をふるった父親に憎しみと共感がないまぜになった複雑な気持ちを抱いています。

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大きく異なるのは経済状況。気前よくカネを遣うアルマンドは、この街では富裕な部類なのでしょう。対するエルデルは、狭い公営住宅で育ち、街の自動車工場で働きながら、ショボい犯罪を繰り返しています。それもあって性格面でも、穏やかなアルマンドと激情しやすいエルデルという対極にあります。

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この2人が接点を持つことでそれぞれが変わっていき、思いも寄らない方向に展開して、ある意味で衝撃的、ある意味で当然ともいえる結末を迎えます。そして、再度、映画の題が意味するところを考えることになります。

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ベネズエラといえば、長く続いたチャベス政権が終焉を迎え、政情不安と高いインフレ率、治安の悪さといったマイナス部分ばかり報道されていますが、本作では2人の貧富差を除いて、ベネズエラの社会問題には触れていません。2人の個の部分にフォーカスし、心の動きを丹念に追っていく、普遍性の高い人間ドラマです。

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ルイス・シルバが醸し出す雰囲気も大切な要素になっていますが、彼の演技も各地の映画祭で注目を集めたようです。これから大化けするかも知れません。

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ラテンビート映画祭「VIVA」

00 実はアイルランド映画なのですが、キューバを舞台にキューバ人俳優たちが演じています。ハバナで暮らす美容師の若者が、ドラァグクイーンになろうとして父親と衝突する物語。監督はダブリン出身のパディ・ブレスナック(Paddy Breathnach)です。

この監督の作品は初めてでしたが、映像が美しさが印象的でした。そして音楽。ナイトクラブが重要な舞台となる関係でいくつもの挿入歌が使われているのですが、これが映画の雰囲気にあっていて、とても心地良いものばかりです。ダブリン出身というと「はじまりのうた」や「シング・ストリート」のジョン・カーニー監督を思い出しますが、アイルランド人は音楽的センスに恵まれているのでしょうか。

主人公のヘススは、クラブに出演するドラァグクイーンたちの髪をスタイリングをしたり、カツラの手入れをして暮らしている18歳の青年。あまり実入りが良い仕事でもなさそうですが、近所の老女の髪を安く切ってあげたり、その孫娘に部屋を貸してあげたり、貧しいながらも周りに優しくする余裕はあるようです。

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実はヘスス、歌が好きで、ドラァグクイーンとしてクラブのステージにあがることを夢見ています。彼らを束ねている“ママ”(もちろん男性)に頼み込み、試しに歌わせてもらいますが、まったくダメ。もう一回やってダメだったら諦めるという約束で、必死に練習します。

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次の週のステージではその成果が現れ、お客さんの反応も上々。調子に乗ったヘススは、さらに盛り上げようと、客席にいた中年男性を誘惑するような仕草を見せた途端、その男性に殴られます。その男性は15年のあいだ刑務所に入っていた実の父親アンヘルだったのです。

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伝説的なボクサーだったアンヘル。ヘススは幼少時に会ったきりですから、顔などわかるはずはありません。人を殺したという噂もあるマッチョな性格で、息子がドラァグクイーンとしてステージに上がることなど許すはずがありません。

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ヘススの住処(アンヘルが育った住処でもあります)で一緒に暮らすことになるのですが、刑務所から出たばかりのアンヘルに収入はなく、ヘススの僅かな稼ぎが頼みの綱。ヘススとしては、ドラァグクイーンとしての成功に賭けてみたいものの、アンヘルが同居している限り不可能です。

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普通なら父子が衝突しそうなものですが、ドラァグクイーンを目指すような青年ですから、喧嘩はしません。そんなヘススを見かねたママが手を差し伸べても、それを断り、もっとひどい仕事をして生計を維持している始末です。

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アンヘルはアンヘルで、過去の栄光にすがり、ボクシングジムでトレーナーの職を得ようとしますが、15年もリングから離れていたのですから、受け入れられるはずかありません。ただでさえ乱暴なのに、やけ酒をあおって、自暴自棄になったります。

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そんな父子の暮らしを描いていくお話ですが、乱暴な父親もそれなりに息子を思っていて、嫌な気持ちになるような結末ではありません。ちなみに息子の名前ヘススを英語読みにすればジーザス(キリストのことです)、父親の名前アンヘルはエンジェルですから、それで結末をイメージできてしまう人もいるかも知れませんが・・・。

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ヘススを演じたのは「キング・オブ・ハバナ」で娼婦役だったエクトル・メディナ(Héctor Medina)。アンヘルを演じたのはベテランのホルヘ・ペルゴリア(Jorge Perugorría)。名作「苺とチョコレート」でゲイの芸術家ディエゴを演じて有名になった人で、その彼がマッチョな中年男性を演じるところにも面白さがあるのでしょう。

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そしてママを演じたのは、オムニバス映画「セブン・デイズ・イン・ハバナ」でジョシュ・ハッチャーソン主演の短編「El Yuma」に出ていたルイス・アルベルト・ガルシア(Luis Alberto García)。その監督であるベニチオ・デル・トロ(Benicio Del Toro)が、この「VIVA」のエグゼクティブプロデューサーを務めています。

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2016年10月17日 (月)

ラテンビート映画祭「The Olive Tree(El olivo)」

00 ルイス・トサルとガエル・ガルシア・ベルナルが共演し、アカデミー外国語映画賞スペイン代表に選ばれた「雨さえも―ボリビアの熱い一日」(邦題:ザ・ウォーター・ウォー)の監督、イシアル・ボジャイン(Icíar Bollaín)の最新作です。

脚本は前作同様、彼女の私生活のパートナーであり、ケン・ローチ作品の脚本家として有名なポール・ラヴァーティ(Paul Laverty)で、本作でも多分に政治的な題材を巧みなストーリー展開で楽しませてくれます。

今回のテーマは、題名そのもの「オリーブの木」。大切にしていたオリーブの老木を息子が売り払い、それ以来、言葉を話さなくなってしまった祖父を思いやる孫娘が、オリーブの木を取り戻そうとする物語です。

ロケ地はバレンシア州カステジョン(Castellón)のSan Mateu。この界隈にはオリーブの老木が多いそうで、ちょっと調べてみたら、世界最古とされる樹齢1700年のLa Farga de Arionや、樹齢1180年のLa Farga del Pou del Masもカステジョンにあるようです。

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ところが、スペインの不況でオリーブの老木が大量に伐採され、輸出されているそうで、それに触発されたポール・ラヴァーティが、オリーブ老木に強い思いを抱く祖父と孫娘の人間ドラマに仕立て上げたと、終映後に行われたティーチインでイシアル・ボジャイン監督がお話されていました。

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主人公のアルマは、オリーブ農家で生まれ育ち、今は近所の養鶏場で働いています。祖父に対しては優しい孫娘ですが、激情しやすい性格で、父親をはじめ周りの人と衝突しがち。それでも父の弟である叔父や同僚のラファとは仲良くしています。ちなみにこの叔父、映画の中でAlcachofaというニックネームで呼ばれていますが、これはスペイン語でアーティチョークのこと。アルマの親友もWikiと呼ばれていたり、妙なニックネームが多い映画です。

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この家には古くから伝わるオリーブの大木があり、根元が怪物のように見えることから、少女時代のアルマはモンスターと名付けて親しんでいました。祖父のラモンも、一家の象徴として老木を大切していて、二人はよくオリーブの木の下で時間を過ごしていました。

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しかし、アルマの父はオリーブの老木が高値で取引されていることを知り、低迷を続けるオリーブ農家をやめてレストランを開業しようと、二人が大切にしていた大木を伐採して売ってしまいます。ラモンは落ち込んで言葉を話さなくなり、認知症気味なのか、ときどきオリーブの木を求めて徘徊して家族を困らせるようになります。

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いなくなったラモンを探しに行くのは、いつもアルマの役目。おじいちゃん思いの彼女は、父親がオリーブを売ったせいでラモンがボケてしまったと思い込んでいて、過激な髪型をしてみたり、夜遊びをしてみたり常に父親には反抗的です。

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ラモンのことが心配でならないアルマは、ある日、オリーブを伐採した業者を訪ね、売り先を調べます。そして、あのオリーブの老木がデュッセルドルフのエネルギー会社のロビーにあることを突き止め、トラック運転手である叔父と同僚のラファに協力するよう説得します。

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結局、3人でドイツに向かうことになるのですが、問題なのは、オリーブの木が修道院にあり、手紙を送ったら返して貰えることになったと2人を騙したこと。実はエネルギー会社からはメールの返信すら来てなくて、まったくあてがないまま旅立つわけです。アルマの願いを叶えてあげようとする2人と、不安に押しつぶされそうなアルマの珍道中が続きます。

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途中、叔父が「あいつには9万ユーロの貸しがある」といって立ち寄った家の庭から“自由の女神像”を奪ったり、”ドイツ人は背が高くて英語がうまくて、スペイン人を見下している”という会話が交わされたり、さりげなく世相を反映させながら、ユーモラスに物語を運ぶあたりがポール・ラヴァーティなのでしょう。オリーブを取り返したいというだけのシンプルな話が、じわっと感動させる結末に繋がっていきます。

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祖父のラモンの存在感が際立ちますが、実は役者でなく、本物の農民だそう。刻まれたシワや佇まいがリアルなはずです。主人公のアルマを演じたのはTV女優出身のアナ・カスティージョ(Anna Castillo)。映画への出演が続き、これから期待の女優さんです。

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そして、叔父を演じたのが「マーシュランド」のハビエル・グティエレス(Javier Gutiérrez)。今回は陽気で気の良い叔父さん役ですが、あいかわらず味のある演技を見せてくれます。

ラテンビート映画祭のFacebook

※追記:2017年に一般公開が決まりました。
公式サイト
オリーブの樹は呼んでいる

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2016年10月11日 (火)

ラテンビート映画祭「スモーク アンド ミラーズ(El hombre de las mil caras)」

00 2015年のゴヤ賞で最多10部門を制し、このモナドのブログでも大絶賛(!)だった「マーシュランド」の監督、アルベルト・ロドリゲス(Alberto Rodríguez)の最新作です。

この邦題、多くの方が疑問に思ったのではないでしょうか。英題の“Smoke & Mirrors”は、マジックショーなどで煙や鏡を使って目くらましすることなのですが、それをカタカナに置き換えただけという、かなりダメなパターンですね。ちなみに原題は“千の顔を持つ男”という意味で、原作となったマヌエル・セルドン(Manuel Cerdán)の“Paesa: El espía de las mil caras”(パエサ:千の顔を持つスパイ)からとられています。

しかし、邦題がダメでも映画そのものは、さすがアルベルト・ロドリゲス!と思える質の高さ。前作はセビリアの気候風土にインスパイアされた創作でしたが、本作は実話ベースの作品で、1990年代に起きた政治事件をスリリングなサスペンスドラマに仕立て上げています。

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主人公であるフランシスコ・パエサ(Francisco Paesa)は事件後に姿を消し、1998年に姉妹から死亡広告が出されますが、2005年にパリでマヌエル・セルドンのインタビューを受けて生存が確認されます。本作はそこで彼が語ったことを軸に作られているのですが、千の顔を持つ手練手管の人物ですから、真実を語ったかどうか怪しいところで、映画の冒頭でも“これは脚色されたストーリーである”と敢えて宣言しているくらいです。

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その事件というのは、治安警察(Guardia Civil)のトップだったルイス・ロルダン(Luis Roldán)が公金を横領して国外に逃亡し、それをパエサが手助けしたというもの。スペインではロルダン事件(Caso Roldán)と呼ばれて、よく知られているそうです。

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Guardia Civilというのは警察というより軍に近い組織なのですが、なぜ、ロルダンがパエサの協力を求めたかというと、パエサはずっと国際的に暗躍してきた人で、ETA(バスク独立を目指すテロ組織)撲滅を目的に設立された反テロ組織であるGALに関与したり、自らの武器密輸ネットワーク通じてETAに発信器を仕込んだ地対空ミサイル2台を売りつけ、ETAに大きな打撃を与えたソコア作戦(Operación Sokoa)を主導したり、さまざまな政府の秘密作戦にかかわっていたからです。

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映画ではETAにミサイルを売りつけるシーンがさらっと描かれるだけですので、このような前提が日本人にはわかりにくいかも知れませんが、裏社会で生きてきた人物だと理解していれば問題ありません。映画は事件が終わって彼が姿をくらます直前の場面から始まり、その後、時間軸に沿ってロルダン事件をなぞっていく展開で、それをパエスの協力者だったパイロットのヘスス・カモエス(Jesús Camoes)が語るという構成になっています。

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主人公のパエサ(通称パコ)を演じたのは「BIUTIFUL ビューティフル」「私が、生きる肌」「エル・ニーニョ」などで要となる役を演じてきたエドゥアルド・フェルナンデス(Eduard Fernández)。本作で、今年のサン・セバスティアン映画祭の最優秀男優賞を受賞しています。

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相棒のヘスス役は「悪人に平穏なし」で主役の警官を演じてゴヤ賞を獲得したホセ・コロナド(José Coronado)、逃亡するロルダン役は「雨さえも」に出ていたカルロス・サントス(Carlos Santos)、ロルダンの妻の役で「EVA エヴァ」「プリズン211」のマルタ・エトゥラ(Marta Etura)が出ています。

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ヒトもカネも国際的に動いたこの事件、映画でもマドリードやパリといった欧州の都市のみならず、シンガポールやバンコクといったアジア各地が舞台になります。パエサはアジアに精通していたようで、2004年のEl Mundo紙によると、スカルノ死後のデヴィ夫人と交際していた時機もあったようです。

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El hombre de las mil caras
Latin Beat Film Festival: スモーク アンド ミラーズ

[仕入れ担当]

2016年10月 2日 (日)

ダリ展 国立新美術館

スペインが生んだ奇才、20世紀を代表する芸術家サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)の大回顧展です。月曜日の夕方に訪れると、観覧者は多いものの待ち時間なく入館することができました。

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少年時代を過ごした故郷フィゲラスやカダケスで制作した風景画をはじめ、マドリードのサン・フェルナンド王立美術アカデミーで交友を結んだ後の映画監督ルイス・ブニュエルの肖像画、アメリカ滞在中にココ・シャネルと手がけたバレエの舞台美術、スペインに戻った晩年にポルトリガトで取り組んだ古典芸術に回帰した絵画など、代表的なダリ・コレクション約250点が展示されています。

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ブニュエルと制作した約15分の短編映画「アンダルシアの犬」はシュルレアリスムの傑作といわれていますが、ストーリーがないうえ、思わず目を覆ってしまうような衝撃的なシーンもありますので要注意です。同じ映像作品でもウォルト・ディズニーとコラボした約7分のアニメーション「デスティーノ」は実に美しく、安心してご覧になれます。

このほかマドリードで上演された「ドン・ファン・テノーリオ」で舞台美術や衣装を担当するなど、演劇やファッション、企業の広告事業にも積極的にかかわったダリ。

中でも、ルネッサンスの芸術家に触発されて制作したジュエリーは見逃せません。ギリシャ神話をモチーフにしたペンダントトップはゴージャスで、溶けた時計や受話器をかたどったピンは、いまも新鮮な感覚で楽しめそうです。本展で紹介されているジュエリーは5点だけですが、いつかフィゲラスの美術館で網羅的に見てみたいと思っています。

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驚きの連続で何度でも観たくなる作品の数々です。会場のショップでもダリグッズが満載で、思いがけず時間を費やしてしまいます。

わたしは壁一面につくられた巨大ガチャで「謎めいた要素のある風景」のピンバッチを手に入れ、特設の「メイ・ウエストの部屋」で記念撮影してきました。

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ダリ展
http://salvador-dali.jp/
2016年12月12日(月)まで

[店長]

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