スペイン

2018年1月 3日 (水)

ビルバオ・グッゲンハイム美術館 アート・アフター・ダーク

昨日も登場したビルバオ・グッゲンハイム美術館正面の「パピー(Puppy)」です。ライトアップされた夜の顔は、また違った感じですね。

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この美術館では、月に一度、面白いイベントを催しています。その名も「アート・アフター・ダーク(Art after Dark)」。

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毎月、いずれかの金曜日に開催されるイベントで、夜が更けてからアートを楽しもうというコンセプトのもと、夜22時から深夜1時までオープンしています。

ちょうど、ビルバオ滞在と重なったので出掛けてみました。

エントランスの仮設カウンターで飲物も売っていて(と言っても種類はありません)、館内でお酒を飲むことができます。

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23時近くなるとDJが登場し、クラブさながらの盛り上がりをみせます。

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地元の若者にも人気のようで、たくさんの人たちが続々とやってきて楽しんでいました。

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昼間と同様に、作品も鑑賞することができます。

ジェニー・ホルツァー(Jenny Holzer)のインスタレーションは、夜の美術館にぴったり。

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リチャード・セラ(Richard Serra)の巨大な作品「The Matter of Time」は圧巻です。人がいないとサイズ感がわかりにくいかも知れませんが、うずまきの高さは4m以上あります。

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こちらは「パピー」と同じアーティスト、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)の作品「チューリップ(Tulips)」です。美術館の裏手に置かれています。

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現地でもチケットは買えますが、人気DJのイベントだと早々に売り切れてしまうそうですので、事前に美術館のウェブサイトで購入しておく方が安心かもしれません。
https://aad.guggenheim-bilbao.eus/

さて、ビルバオと言えば、芸術だけではありません。お腹が空いては、芸術鑑賞もできません。美食の街ビルバオも堪能してきましたよ。

街中に点在するバルを立ち飲みで巡るのも楽しいし、テーブルに着いてしっかり食べるのも美味しい。下の写真はホセリート(Joselito)の生ハムを自慢げにずらっと提げたLa Viña del Ensanche の店内です。

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まずはバスク豚。

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ツナ(マグロですね)をSUSHI風にした創作料理も。

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アスパラの天ぷらもさくさくっと美味しかった。

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シンプルなエビのプランチャも、

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柔らか煮のようなタコのガリシア風も、

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鰯のオイル漬けも、

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こんなにアーティスティック! まるでお皿が一枚のキャンバスのようです。

地元の名物は微発砲酒のチャコリですが、飲めない人にはモストと呼ばれる甘めのブドウジュースもあります。

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芸術も美食も、どちらも楽しめるビルバオ。地元出身のスティーブ・モノ(Steve Mono)創業デザイナー、ゴンサロさん曰く、バスクと日本は料理人の交流が盛んなので、日本人好みの食べ物が多いそうです。どうりで何を食べてもおいしいはず。スペイン旅行の訪問先に是非とも加えたいエリアです。

近いうちに、サン・セバスチャンや周辺地域の味覚もご紹介したいと思います。

[仕入れ担当]

2018年1月 2日 (火)

あけましておめでとうございます

戌年の今年の年賀状は、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)の「パピー(Puppy)」の写真にしました。

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スペイン北部の街、ビルバオ(Bilbao)にあるビルバオ・グッゲンハイム美術館(Museo Guggenheim Bilbao)の入り口近くに鎮座しています。

昨秋、パリの展示会へ行く前に立ち寄ったとき撮りました。波打つダイナミックな建物が有名過ぎるビルバオ・グッゲンハイム美術館は、ご存知、フランク・ゲーリー(Frank Gehry)の設計です。

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ビルバオはスティーブ・モノ(Steve Mono)の創業デザイナーであるゴンサロさんの出身地です。また、このブログでも記していますが、ヘレナ・ローナー(Helena Rohner)はビルバオ・グッゲンハイム美術館のためのエクスクルーシブなコレクションを制作しています。なので、モナドにも縁のある街なのです。

色とりどりの花々をまとったパピーに小鳥たちもやってきました。

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六本木ヒルズの巨大蜘蛛が、ここにもいました。ルイーズ・ブルジョワ(Louise Bourgeois)の作品「ママン(Maman)」。

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スペイン北部屈指の港湾都市だったビルバオ。鉄鋼や造船で栄えた街が時代の趨勢で衰退したものの、芸術と美食で都市再生に成功した例として有名ですよね。そして、その立役者になったのが、このビルバオ・グッゲンハイム美術館。シンボル的存在です。

実際、ビルバオの街はきちんと整備されていてコンパクト、とても歩きやすく感じました。

美術館近くの川沿いはゆったりとした遊歩道があり、芝生の上をトラムが走り、トラムの線路のすぐ横に自転車道、その向こうに自動車道と歩車分離されています。おかげで子どもや老人が安全に行き交い、観光客がのんびり歩いてまわれます。

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ちょっと座っておしゃべりしたり、休んだりできるように、街中にベンチが置いてあるのですが、浮浪者に占拠されている様子も目にしませんでした。

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というわけで、ビルバオには初めて行ったのですが、とても気に入りました。

さて、明日は、このグッゲンハイム美術館で催されている面白いイベントについて書いてみたいと思います。

[仕入れ担当]

2017年12月 8日 (金)

ブボ バルセロナ 世界一のチョコレートケーキ「シャビーナ」

慌ただしい12月、寒さも増してきて無性に甘いものが欲しくなり、、、スペイン発のパティスリー bubó BARCELONA に出掛けてきました♪

バルセロナにある bubó は、ジョイドアート(joid’art)ヘレナ・ローナー(Helena Rohner)マラババ(Malababa)の直営店もある旧市街のオシャレなエリアにありますが、日本第1号店は今年2月に表参道にオープン。1階ブティックでは、ショーケースにずらりと並んだケーキやチョコレート、ヴィエノワズリーが購入できます。

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2階カフェでいただいたのは、パティシエの世界大会で世界一のチョコレートケーキに輝いた「シャビーナ(xabina)」と釜炒りのオーガニックほうじ茶。店名をデザインした可愛らしいデコレーションで、食べるのが惜しくなります。

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天然のバニラシロップをしみ込ませたスポンジ生地や、オリーブオイルを使ったケーキ生地を濃厚なチョコレートムースでサンドし、つやつやのグラサージュショコラでコーティングしたケーキです。甘さを引き立てるシナモンや爽やかなクローブなどスパイスをきかせた大人の味で、お呼ばれしたときの手土産にも良さそう♪

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帰り道は、7年ぶりに表参道全域でライトアップしているイルミネーションを楽しんできました♪♪

bubó BARCELONA 表参道本店
http://www.bubojapan.com/
営業時間:11:00~20:00

[店長]

2017年11月27日 (月)

映画「エンドレス・ポエトリー(Poesía Sin Fin)」

00 3年前に日本公開された「リアリティのダンス」の続編です。もちろん監督は御年88歳の巨匠、アレハンドロ・ホドロフスキー(Alejandro Jodorowsky)。監督の自伝的作品の第2弾ですので、前作を観ていないと背景も流れもわからないと思います。また、ホドロフスキーの他の作品を観ている方が楽しめると思います。

前作はトコピジャでの暮らしが中心でしたが、本作は12歳のときに移住したサンティアゴを舞台に展開します。共産主義者だった父親は商店主としてユダヤ人らしいカネの亡者になり、母親は相変わらず歌で会話し、一人息子のアレハンドロ(要するに監督の子ども時代)は父親に怯える気弱な少年のままです。

映画の始まりは両親が経営する商店で万引きの見張りをするように言われていたアレハンドロが、遅刻して父親から叱責される場面。続いてアレハンドロが万引きの男女を見つけ、足蹴にする父親に促されて一緒に蹴りを入れる場面。

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そして父親がその女性を店頭に引きずり出し、公衆の面前で服を脱がして辱めるという展開になるのですが、その万引き犯というのが2人とも侏儒。日本人の感覚だと、障碍を持つ人にそんな酷い仕打ちを、と思ってしまいますが、これがホドロフスキーの世界ですね。よく言えば、すべての人に平等、悪く言えば、誰に対しても容赦ありません。

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息子たちの扱いも同様です。前作と同じく父親ハイメ役が実の長男ブロンティス・ホドロフスキー(Brontis Jodorowsky)、その子どもであるアレハンドロ役は末子アダン・ホドロフスキー(Adan Jodorowsky)なのですが、アダンにも全裸で演技させていて、そのおかげで18禁になっています。

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ついでに記しておくと、監督の現在の妻であるパスカル・モンタンドン=ホドロフスキーが衣装担当で参加しているのですが、彼女は1972年生まれなので1979年生まれのアダンとは7歳差。妻と息子がほとんど同世代ということになります。ちなみに監督は1929年生まれですから40歳以上離れた夫婦です。

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万引き犯が落としていった籠に詩集を見つけ、それを読みふけるアレハンドロ。父親からは医者になるように命じられていて、本当は生物学の本を読まなくてはいけません。しかし、文学はオカマ(maricón)がやることだと全否定されながら、詩の魅力に取り憑かれていってしまいます。

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ここで彼が読む詩はフェデリコ・ガルシア・ロルカの「夢遊病者のロマンセ(Romance sonámbulo)」。“Verde que te quiero verde”で始まる有名な詩ですね。カルロス・サウラの映画「フラメンコ×フラメンコ」の冒頭(Youtube)でも使われていました。

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その後も親と衝突するのですが、最終的に家を出て、従兄弟リカルド(Ricardo)の紹介でセレセダ姉妹(hermanas Cereceda)の芸術コミューンで暮らすことになります。

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カフェ・イリスで赤毛の詩人ステラ(Stella Díaz Varín)に魅了され、彼女に触発されて“La víbora(蛇女)”を書いたニカノール・パラ(Nicanor Parra)と知り合ったり、後にチリを代表する詩人になるエンリケ・リン(Enrique Lihn)と親友になったり、芸術家としての基盤が作られていった時期です。ステラとの出会いが1949年といいますから、アレハンドロが20歳の頃のお話ということになりますね。

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ちょっと面白いのが、映画「ネルーダ」同様、パブロ・ネルーダを甘ったるいとけなしているところや、前作で父親ハイメが暗殺に失敗したイバニェスが帰還してくる場面でハーケンクロイツがはためくところ。そこかしこでホドロフスキーの立ち位置が見え隠れします。

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また、ホドロフスキーの母親サラと、ホドロフスキーが惹かれる詩人ステラを、一人二役でパメラ・フローレス(Pamela Flores)が演じているあたりも興味深いところです。マザコン的な嗜好を示しているのか、単なるギャラの節約なのか、ちょっとわかりませんが・・・。

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撮影はクリストファー・ドイル(Christopher Doyle)。出演者に特にスターがいるわけではありませんが、芸術コミューンの一員で、合体ダンスのパフォーマーとして登場する女性は伊藤郁女(Kaori Ito)という、その世界では知られた日本人ダンサーだそうです。

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公式サイト
エンドレス・ポエトリーPoesía Sin Fin

[仕入れ担当]

2017年11月22日 (水)

ロエベ クラフトプライズ 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3

スペイン王室御用達のメゾン LOEWE が2016年に設立した「クラフト プライズ」は、伝統的なクラフトマンシップと革新的なデザインを支援し、さまざまな職人たちの作品を広めることを目的としたアートコンペティションです。今年春に大賞が発表された第1回の応募総数は3,900を越え、その中からファイナリストとなった26名の作品を 21_21 DESIGN SIGHT ギャラリー3 で紹介しています。

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本展のポスターになっているのは、第1回大賞を受賞したエルンスト・ガンペールによる《Tree of Life 2》という作品。嵐により根元で折れてしまった樹齢300年を超えるオークを切り出した木製の器です。家具づくりの内弟子を経て、木材旋盤加工の熟練工となったあと、ドイツとイタリアに自らのスタジオをオープンした工芸家で、木材を生かしたデザインとオーガニックな仕上げで国際的に人気を集めています。

下はメキシコ先住民族の末裔が営む工房、アステサニアス・パニクアによる《Tata Curiata》。黄金色に輝く小麦の藁、数百本を美しく織り上げ、戦いと火を意味する太陽神をモチーフにし、クラフトと神話を融合させた作品で特別賞を受賞しています。

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こちらは、アーティストからアルチザンになったスペイン・カディス生まれのファティマ・トコーナルの作品《Dreamers》です。身につけられるポートレートとして、ニッケルとシルバーメタルにエナメルワークを用いたジュエリーコレクションを手掛けています。

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このほか陶芸、金属、家具、テキスタイル、ガラス、ペーパーアートなど、職人のアイデアとスキルが融合した多種多様な作品がご覧になれます。

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お持ちのスマートフォンで、カタログにあるQRコードを読み込むと、LOEWE のLINE@につながり本展のオーディオガイドがご利用になれます。作品ひとつひとつの詳しい解説がお聞きになれますので、会場においでの際はイヤホンも持参されると良いかも知れません。

LOEWE FOUNDATION CRAFT PRIZE
http://craftprize.loewe.com/
2017年11月30日(木)まで

[店長]

2017年11月 6日 (月)

映画「ゴッド・セイブ・アス(Que Dios nos perdone)」

00_2 一昨年のワールド・エクストリーム・シネマで上映されたスペイン映画「マーシュランド」が予想外の大当たりでしたので、この「ゴッド・セイブ・アス」もかなり期待して観にいきました。夜の上映だったせいかも知れませんが、観客は10人もいなかったと思います。それも納得という気がしないでもない作品です。

スペイン本国ではまずまずの評価で、2016年ゴヤ賞で主演男優賞、同年のサン・セバスティアン映画祭で脚本賞を受賞しています。ちなみに今年の脚本賞は先週ご紹介した「家族のように」でしたが、それに比べて展開やセリフが平凡で、悪くはないけど今ひとつ、という1本でした。

いわゆるバディムービーで、2人の刑事、粗暴なハビエルと緻密なルイスが難事件を解決していくミステリーです。その事件というのが老女の連続殺人なのですが、これが恨みや物取りではなく暴行殺人、つまり被害者である高齢の女性たちは強姦されて殺されているというところに特殊性があります。

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最初の事件の捜査では、被害者と交際していた男性を探したりするのですが、それが連続殺人であることが判明し、老女に異常な感情を抱いている人物という犯人像が示されます。しかし、被害者同士には繋がりがみられませんので、特定の老女を狙った事件ではありません。僅かな物証と、猫に餌を与えたのではないかという曖昧な手がかりしかないなか、2人の刑事は推理を進めていきます。

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バディムービーですから、主人公たちも個性的です。ハビエルは暴力が原因で妻と別居し、今は娘と2人暮らし。少し前に署内で同僚刑事を殴って片目を失明させたことが映画の冒頭で示されます。アンガーマネジメントできない性格は、この捜査の過程でもたびたび表面化してトラブルを引き起こしますが、熱血漢らしい情熱で犯人に迫っていきます。

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対するルイスは、吃音がある関係でコミュニケーションを避けるタイプ。よく片付いた部屋で独り暮らしており、共用部の清掃に来る女性をドアスコープからのぞき見たりする屈折した性格です。刑事としては緻密に証拠を積み上げていくタイプで、過去の類似事件の膨大な資料を洗い直したりしていきます。

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2人の捜査にはいろいろと邪魔がはいり、遅々として進みません。一旦は、犯人らしき人物を見つけるのですが、地下鉄オペラ駅を封鎖するという大捕物を演じた揚げ句、取り逃がしてしまいます。

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また、この映画の舞台となっている2011年夏のマドリードはローマ法王の訪問を控えており、警察上層部はこの猟奇的事件を闇に葬ろうと圧力をかけてきます。なおこれは、2011年8月16日から21日までマドリードでワールドユースデー(World Youth Day Madrid 2011)が開催され、この公費支出に関する反対運動が盛り上がったという事実を絡めて描いている部分です。

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ハビエルが警察から追い出されてしまったり、私生活で問題が発生したりといろいろありますが、結局はスペイン映画らしく教会に行き着き、そこから謎が解き明かされていきます。原題の“神様お赦しください”はそのあたりに因んで付けられたのでしょう。しかし、それだけで終わらせないところがこの監督の持ち味かも知れません。

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本作でハビエル(Javier Alfaro)を演じてゴヤ賞に輝いたのは「私が、生きる肌」で事件の鍵となる家政婦の息子を演じていたロベルト・アラモ(Roberto Álamo)。ルイス(Luis Velarde)を演じたのは、イグレシア監督の「気狂いピエロの決闘」「刺さった男」、アルモドバル監督の「ボルベール」「アイム・ソー・エキサイテッド!」の他、「マーシュランド」で被害者の父親、「静かなる復讐」で主役ホセを演じていたアントニオ・デ・ラ・トレ(Antonio de la Torre)。出演作ごとに雰囲気をがらっと変えて登場するスペインの人気俳優です。

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監督を務めたロドリゴ・ソロゴジェン(Rodrigo Sorogoyen)は1981年生まれの若手で、2008年に「8 citas」でデビューし、2013年の「Stockholm」がゴヤ賞にノミネートされて注目を集めた人。「チコとチカ(¿Chico o chica?)」などで知られる映画監督アントニオ・デル・アモ(Antonio del Amo)の孫だそうです。

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公式サイト
ゴッド・セイブ・アスQue Dios nos perdone

[仕入れ担当]

2017年10月30日 (月)

ラテンビート映画祭「家族のように(Una especie de familia)」

00 こちらも「ネルーダ」「サマ」と同じくアルゼンチン映画です。今年のラテンビート映画祭は、直前に上映中止になったり、上映日が変更になったりして思うように作品を選べず、結局3作だけの観賞、それもすべてアルゼンチン映画となってしまいました。

本作はディエゴ・レルマン(Diego Lerman)監督の第5作目。先月開催されたサン・セバスティアン映画祭(Festival Internacional de cine de Donostia-San Sebastián)のコンペティション部門で脚本賞を受賞しています。

2014年の最優秀映画賞に「マジカル・ガール」を選んだこの映画祭、今年度の栄冠はジェームズ・フランコ監督・主演の米国映画「The Disaster Artist」に輝きました。ちなみ贈られるコンチャ・デ・オロ(金の貝殻賞)は、サンティアゴ巡礼の目印と同じくホタテ貝のデザインです。

この映画祭にはドノスティア賞という功労賞が設けられていて、今年はリカルド・ダリン、モニカ・ベルッチ、アニエス・ヴァルダが選ばれた関係で、街中いたるところに彼らの写真が飾られていました。どんどんメジャーになってきたリカルド・ダリンと、じわじわ復活を遂げたモニカ・ベルッチはこれからも注目ですね。下はサン・セバスティアンの素敵なお花屋さんのショーウィンドウに並べられていた2人の写真です。

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話が逸れてしまいましたが映画「家族のように」のお話です。

物語は、新生児を養子にしようと試みて翻弄される女医が主人公。これも巻き込まれ型サスペンスというのでしょうか。さすが脚本賞を受賞しているだけあって、何かに絡め取られるようにドツボに嵌っていく展開が自然です。

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オープニングは夜の街道沿いに佇む女医マレナで、何に躊躇しているかといえば、自分が貰い受けることになっている子どもが産まれるという知らせを受けて、現地に赴くべきか否か決めかねているのです。結局、アルゼンチン北部のミシオネスに向かうことにします。

マレナは女医ですから一種のエリートで、首都ブエノスアイレスでそれなりに裕福な生活をしています。それに対してミシオネスという地域は、パラグアイとブラジルに挟まれた僻地で、住民たちの生活もみるからに厳しそう。その顕著な経済格差が、闇の養子縁組を成り立たせているようです。

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アルゼンチンの法律のことはわかりませんが、どうやら新生児を養子縁組することはできないようです。しかしマレナには、成長した子どもを養護施設から迎えるより、産まれて間もない赤ちゃんを貰いたいという強い思いがあるようです。

現地の病院でコスタス医師から迎えられたマレナは、まだ若いマルセラと対面します。既に2人の子持ちのマルセラは3人目を妊娠しており、養子に出すことに対するストレスのせいか身体的にも精神的にも不安定です。少しハラハラさせますが、無事に赤ちゃんが生まれ、その赤ちゃんを一時的に世話してくれる人も見つかって、ひと安心。

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と思いきや、マルセラの夫が出稼ぎ先のブラジルで問題を起こし、刑務所に入れられたという話が親族から伝えられます。つまり、これからのマルセラの生活を支えるために、いくらか出して欲しいという要望です。

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エリートにとって出せない金額ではないようですが、元もと赤ちゃんの対価を払うつもりはない上に話そのものも眉唾ものです。また、これは闇の取引ですから、この先さらなる要求が続くかも知れません。そう簡単に承諾できない話です。

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とはいえ、新生児を抱いてしまったマレナに、赤ちゃんを手放す気持ちは毛頭ありません。結局、別居中の夫に相談して捻出してもらうことになります。それでハッピーエンドに進むと思わせておいて、また新たな困難が立ちはだかるのですが、この先は観てのお楽しみです。

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主役を務めたバルバラ・レニー(Bárbara Lennie)はスペイン・マドリード出身の女優。このブログでは店員役で出た「私が、生きる肌」や麻薬捜査官役で出た「エル・ニーニョ」もご紹介していますが、強く印象に残るのはゴヤ賞の主演女優賞に輝いた「マジカル・ガール」のバルバラ役でしょう。

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その夫、マリアノを演じたクラウディオ・トルカチル(Claudio Tolcachir)は「失われた肌」にも出ていたというブエノスアイレス出身の俳優、コスタス医師を演じたダニエル・アラオス(Daniel Aráoz)は「ル・コルビュジエの家」で強面の隣人を強烈な個性で演じていたアルゼンチン・コルドバ出身の俳優です。

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[仕入れ担当]

2017年10月23日 (月)

ラテンビート映画祭「サマ(Zama)」

00_2 先週の「ネルーダ」に続き、こちらもアルゼンチン映画です。作家アントニオ・ディ・ベネデット(Antonio Di Benedetto)が1956年に執筆した同名小説を、ルクレシア・マルテル(Lucrecia Martel)という女性監督が映画化しました。

非常に地味な作品ですが、エグゼクティブプロデューサーにガエル・ガルシア・ベルナル(Gael García Bernal)やディエゴ・ルナ(Diego Luna)といったラテン映画界の有名人が名を連ね、また原作が去年初めて英訳され、2017年のNational Translation Awardに選ばれたこともあって若干の注目を集めたようです。

ちなみに本作は来年3月の米国アカデミー賞(第90回)外国語映画賞にアルゼンチン代表として出品されます。

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物語の舞台は18世紀末の南米。スペインのコレヒドール(Corregidor:地方行政官)として僻地(原作ではパラグアイのアスンシオンだそう)に派遣されたドン・ディエゴ・デ・サマ(Don Diego de Zama)は、任期が終わってこの地を離れ、妻子に再会できる日を心待ちにしています。しかし国王からの通知はなかなかは来ません。何度もレルマ(Lerma)への異動願いを出しているのですが、それも上司である総督が握りつぶしているようです。

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映画の幕開けは、川辺に佇み、どこか遠くに思いを馳せるサマ。その後、現地人女性たちの沐浴を覗き、それが見つかって追われたりしますが、サマにとっても、映画の観客にとっても、その程度の刺激しかない日常が淡々と描かれていきます。

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仕事に対する熱意などありませんので、ただただ義務を果たすのみの毎日ですが、上司と部下の間で板挟みになるなどサラリーマン的な苦悩も抱えます。また現地の女性と関係したり、人妻に思いを寄せたり、ある意味、単身赴任らしい暮らしをしながらも、この地を離れたいという思いは募るばかりです。

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いよいよ我慢も限界に達し、ここを離れたい一心で、地元の悪党ビクーニャ・ポルトを征伐する小隊に加わります。この小隊に参加するまでの日常を描いた部分が前半で、小隊と共に原野に入り、正体不明のビクーニャ・ポルトを探し求める話が残りの半分という感じで2時間近く続きますので、かなり悠長な展開となります。寝不足のときに観る映画ではありません。

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サマをはじめ役人たちは白人ですが、現地人は山岳民族っぽい人たちで、後半、ビクーニャを追って原野を抜けると、鳥のような仮装をした一団が現れたり、身体を朱に染めた一団が現れたり、民族に対する知識がある方ならディテイルを楽しめるかも知れません。

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また、サマたち西洋人の風俗も不思議です。たとえば現地人の訴えを聞くときは、英国の裁判官のような白いカツラを被ります。きちんと被ればそれなりに威厳を醸すのかも知れませんが、規則で決まっているから取りあえず被るといった様子で斜に被ったりしますので、彼らのやる気のなさが一目でわかります。また、朱のブロケードの制服やトリコーンハット(三角帽)、赤く染めた爪など、歴史や文化を知っていればリアルなのかも知れませんが、私にはピンときませんでした。

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この映画をわかりにくくしている最大の原因は、時間の流れがはっきりしないことでしょう。原作小説では、1790年、1794年、1799年の3つの年を描いているそうですが、映画では説明がありませんので、半年間ぐらいの出来事のように思えてしまいます。最初の場面から中盤に至るまでに4年の歳月が流れていると知って観れば、現地女性との関係や、2人の総督との関係も腑に落ちるのではないでしょうか。

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前半は陰湿な人間関係、後半は姿が見えない敵といった具合に、全編通して心をザワザワさせる内容ですが、強い陽射しをとらえた映像と明るく楽しげな音楽のおかげで、ゆったりした印象が残る作品です。しかし、ぼんやり観ているとエンディングにちょっとエグい場面がありますので要注意です。

[仕入れ担当]

2017年10月16日 (月)

ラテンビート映画祭「ネルーダ 大いなる愛の逃亡者(Neruda)」

00_2 2015年の「ザ・クラブ」でベルリン国際映画祭の審査員グランプリを受賞し、今年は初の英語作品「ジャッキー」で話題をさらったパブロ・ラライン(Pablo Larraín)監督の作品です。2012年の「NO」に出演したガエル・ガルシア・ベルナル(Gael García Bernal)が再び主役的な人物を演じています。

主役的な、というのは、本作はタイトル通り、チリの左派政治家であり、詩人としてノーベル文学賞を受賞したパブロ・ネルーダ(Pablo Neruda)の逃亡を描いたものですが、作品の本質は彼を追う警官ペルショノーの心情の変化にあるから。そのペルショノーを演じるのがガエルであり、全編を通じたナレーションもガエルによるペルショノーの内なる声です。

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ですから序盤でネルーダを批判するナレーション、たとえば“共産主義者は労働を嫌う”などと語られると少し混乱するかも知れませんが、それはガエルの声で、後ほど明らかになっていくガエルの役どころに結び付けられれば腑に落ちます。

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ペルショノーは官憲としてネルーダを追うわけですから、立場としてはビデラ政権側です。また警察幹部だった父親(と信じる男性)の銅像が署内にあることから、おそらく父親も反共に近い立場だったと思われます。しかし、スペイン語にも hijo de puta という son of a bitch そのままの言葉がありますが、彼自身の出自を鑑みると、父親に憧れて警察に奉職したとはいえ、そこには複雑な感情があって当然でしょう。

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共産主義者のスターであるネルーダですが、実際は貴族趣味で、酒と女を欠かさない享楽的な男です。そんな彼に批判的だったペルショノーが、だんだんと心惹かれていってしまう姿を通じて、ネルーダの人となりと魅力を描いていく映画とも言えます。

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また、映画の作り手であるラライン監督も複雑です。

映画の中盤、政治犯収容施設の責任者としてピノチェトが登場しますが、ラライン監督の両親は共にピノチェト派の政治家。つまり、この映画で描かれている時代に続いて樹立される左派政権をクーデターで倒した軍事政権の家庭で育ったわけで、共産主義の嘘くささを熟知すると同時に、右派政権による文化破壊も知っています。映画監督としては芸術や著述を擁護する立場でもあります。そのような背景をもつ監督が、アンビバレンツな感情に揺れる警官ペルショノーの視点から物語を紡いでいくのは自然なことなのかも知れません。

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序盤でネルーダが逃亡を余儀なくされるまでの経緯が説明されますが、基本的にネルーダがどういう人物か知っている観客に向けて作られている映画です。その上、この監督の過去の作品をご覧になった方ならおわかりのように、さりげなくシニカルなユーモアを織り込んできます。たとえば映画の冒頭で描かれるトイレの会議のように、真面目なのか冗談なのか図りかねる場面が多々あり、全編を通じて一筋縄ではいかない作品です。

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物語そのものは非常にシンプルで、逃げるネルーダと追うペルショノーを淡々と描いていくだけです。ただ1つ仕掛けがあって、ネルーダが立ち去った場所に小説が残されており、それを置いていくネルーダと、見つけて読みふけるペルショノーの間に奇妙な結びつきが生じます。そのうち、ネルーダを追っているのか、小説の続きを追っているのか曖昧になり、最後はたった1人でネルーダに迫うことになります。

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エンディングは史実通り、逃げ切ったネルーダがパリに到着し、ピカソに受け入れられるシーン。この後、イタリアに逃げて映画「イル・ポスティーノ」で描かれた暮らしを始めることになります。

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ちなみに作中で何度も読み上げられる、Puedo escribir los versos más tristes esta noche で始まる詩は、ネルーダが19歳で発表した詩集「20の愛の詩と一つの絶望の歌(Veinte poemas de amor y una canción desesperada)」の20番目の詩です。全編はチリ大学のサイト(こちら)などで読むことができます。

公式サイト
ネルーダ 大いなる愛の逃亡者Nerudafacebook

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2017年8月 7日 (月)

映画「静かなる復讐(Tarde para la ira)」

00 スペイン映画界の最高賞、ゴヤ賞で今年の最優秀作品賞、助演男優賞、脚本賞、新人監督賞を獲った作品です。その新人監督というのがラウール・アレバロ(Raúl Arévalo)。「雨さえも」で劇中劇の役者、「アイム・ソー・エキサイテッド!」で客室乗務員、「マーシュランド」で若手刑事を演じていたスペインの人気俳優です。

原題は“復讐には遅い”という意味で、父親と婚約者が犯罪に巻き込まれた男が、その8年後、刑を終えて出所した運転主役から仲間の居所を聞き出して復讐する物語。英題“The Fury of a Patient Man(忍耐強い男の憤怒)”で言うように、既に逃げ果せたと思っていた犯罪者たちに積年の怒りをぶつけていきます。

映画の幕開けは2007年8月のマドリード。路肩に駐められた車の後部座席から運転者を撮っているのですが、手持ちカメラのせいで画面が揺れ、気分が悪くなりそうです。と、思っていると、黒い覆面をした男たちが走ってきて、その1人が助手席に乗り込みます。急発進する車。しかし既に警察車両が先回りしていて逃げられそうにありません。覆面の男が車を降りた後も逃げようと爆走する運転者ですが、何かにぶつけて横転し、警察に捕まってしまいます。

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続いてバルの軒先でカードゲームに興じる主人公ホセたち。店で働いているアナはオーナーのフアンホの義理の妹で、シングルマザーのように見えますが、服役中の夫クーロが近く出所する予定だとわかります。彼女とホセは親しいようで、夜中にネットでチャットをする間柄です。

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ちなみに、このCarrascoという店名のバルは、実際にマドリード南西部のウセラ地区にあった店だそうです(→google map)。街の中心から離れていますので観光客が訪れるような場所ではありませんし、現在はヘアサロンに変わってしまったようですが、このうらぶれた風情の店が登場人物たちの鬱屈した状況をうまく伝えています。

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そのうち、冒頭で映し出された場面は宝石店強盗事件で、逃走用の運転手役だったクーロのみが逮捕されて8年の刑期を務めたことがわかってきます。そしてホセは強盗事件の被害者の家族であり、アナがクーロの妻だと知ってこのバルに通っていることもわかってきます。つまり、事件で婚約者を失ったホセが、その復讐を目論み、捕まらなかった実行犯を捜すためにアナに近づいたわけです。

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出所したクーロはアナの家に戻ってきますが、2人はしっくりいきません。クーロと口論になったアナは、幼い息子を連れて、しばらくホセの田舎の家で過ごすことにします。もちろんクーロは妻子を捜しますが、ホセは2人を誘拐したとクーロを脅迫して仲間の居場所を吐かせます。そしてクーロに案内させて犯人たちの元に赴き、復讐していくというお話です。

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スペイン映画でスリラーというと、複雑な仕掛けやホラー的な要素を散りばめた作品も多いのですが、本作はいたってシンプルです。最初の部分で、時間軸が飛んだり登場人物の関係性がわかりにくかったりする以外、とても明瞭なストーリーですので、脚本賞受賞作だと知って観ると逆に戸惑ってしまうも知れません。おそらく、プロットの進め方ではなく、会話の妙に対する受賞なのでしょう。

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主人公のホセを演じたのは、「気狂いピエロの決闘」で準主役のセルヒオ、「マーシュランド」で被害者の父親を演じていたアントニオ・デ・ラ・トレ(Antonio de la Torre)。そして彼に巻き込まれるクーロをルイス・カジェホ(Luis Callejo)、その妻アナをルス・ディアス(Ruth Díaz)が演じており、ルイス・カジェホは本作での受賞で今後の出演作が目白押しのようです。

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適度な緊張感が心地良く、音楽も良いので、スペイン映画好きの方ならきっとお気に召すと思います。ただ、本作はカリコレ2017の特別上映ですので、これ以降の上映は8/8(火)15:30、8/9(水)10:00、8/14(月)12:30の3回しかありません。割と混みますのでネット予約で座席を確保してからお出かけください。

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公式サイト
静かなる復讐

[仕入れ担当]

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