カルチャー

2017年8月16日 (水)

ボストン美術館の至宝 展 東京都美術館

アメリカ・ボストン美術館がコレクションする古代エジプト美術、中国美術、日本美術、フランス絵画、アメリカ絵画、版画・写真、現代美術から選りすぐりの傑作品80点を出展し、収集した人物や作品にまつわるストーリーと合わせて紹介しています。

Boston_1

砂岩でつくられたツタンカーメン王の頭部から、エジプト南部で出土した金と紅玉髄の首飾り、陳容の九龍図巻、モネの睡蓮、ゴッホのルーラン夫妻、アンディ・ウォーホルのジャッキー、サム・テイラー=ジョンソンのサイレントフィルムまで、見どころは数々あるのですが、やはり!一番は日本初公開となる英一蝶の「涅槃図」で決まりではないでしょうか。先月観たタイ展(こちらで紹介)で涅槃像が自分の守護仏と知り贔屓目でみているのかも知れませんが、、、それを差し引いても必見です!!

この仏画を入手し美術館に寄託したのはアーネスト・フランシス・フェノロサ氏。彼は1878年に来日し東京大学で哲学などを講じるかたわら、日本美術の研究や収集に没頭し、岡倉天心らと共に東京美術学校の設立にも尽力した人物です。

作品の高さは2.9メートル、幅は1.7メートルととても大きく、亀裂や汚れ、糊離れなどの劣化もひどかったため、アメリカでも25年以上前に1度公開されたきり展示されることが無かったそう。本展のために1年がかりで解体修理を行い、その様子を映像で紹介していますが、再現した色を6ヶ月もかけて乾燥させたことに驚きました。

悟りに入る釈迦を中心に、嘆き悲しむ菩薩や羅漢を鮮やかな色で描いています。手前には、仰向けにひっくり返った白象や寝転がる獅子、猿やイノシシの親子、スズメやトンボ、カニまで歩いていて、登場人物が多く観飽きることがありません。

Boston_2

夏休みで混雑していますが、時間をとってじっくり観てみてください。日中よりも夕方あたりに行かれると人が少なめ(展覧会Twitter情報)で良さそうです。

ボストン美術館の至宝 展
http://boston2017-18.jp/
2017年10月9日(月・祝)まで

[店長]

2017年8月14日 (月)

映画「夜明けの祈り(Les innocentes)」

00ココ・アヴァン・シャネル」「美しい絵の崩壊」のアンヌ・フォンテーヌ(Anne Fontaine)監督が、第二次大戦後のポーランドで実際に起こった事件を題材にして撮った作品です。

時代は1945年12月。フランス赤十字(Croix Rouge)の医師として、ポーランドから帰還するフランス軍兵士の治療にあたっていたマチルドのもとに1人のポーランド人修道女が駆け込んできます。

ポーランド語で必死に窮状を訴えますが、フランス人のための施設ですので、追い払うしかありません。しかし、雪の中に座り込んで悲嘆に暮れている修道女を見ているうちに憐憫の情がわいてきて、一緒にベネディクト会の修道院に向かうことになります。

01

院内の一室に案内されると、そこで苦しんでいたのは臨月の女性。身寄りのない女性を受け入れたと院長が説明しますが、もちろんそれは嘘で、彼女も修道女であり、侵攻してきたソ連軍が修道院で陵辱の限りを尽くした結果なのです。ロシア人兵士の規律のなさはポーランドに限ったことではなく、この時代、ドイツやオーストリア、ハンガリー等でも略奪や暴行を繰り返していたようですが、この映画の論点はそこではありません。

04

信仰にすべてを捧げた修道女にとって貞潔は破ることのできない誓いの一つ。不可抗力とはいえ、子どもを身ごもることは許されないのです。妊娠している7人の修道女は信仰と現実の狭間で苦しむことになります。また後半では、修道院の対面を守るため、院長がさらに大きな罪を犯していたことも描かれます。カトリック教会の隠蔽体質は「スポットライト」をはじめ、このところ映画で頻繁に取りあげられているテーマですね。

02

そういった複雑な事情を背景に、医師として何よりも生命を重んじるべき立場にあるマチルドが、どのように修道女たちの信頼を得て、どのように彼女たちを救済していくかが描かれていきます。

05

この映画で印象的なのが、修道女たちが賛美歌を歌う場面。映画の冒頭をはじめ、何度も映し出されるシーンなのですが、まさに本作の原題であるイノセントそのもの。静謐で清らかな空気感が修道女の内に秘めた苦しみを際立たせます。

07

そしてその端正な映像を撮っているのが「神々と男たち」「ハンナ・アーレント」「めぐりあう日」等で撮影監督を務めたカロリーヌ・シャンプティエ(Caroline Champetier)。カラー映像なのに、モノクロ映画を観ているような味わいがあります。

08

女性を主人公にしたポーランドの映画というと「イーダ」を思いだしますが、修道院長(matka przełożona)を演じたアガタ・クレシャ(Agata Kulesza)はイーダの叔母役だった人。現実主義的な人間を演じているという点で、ある種の共通項が見出せるかも知れません。

17

また準主役的な修道女マリアを演じたアガタ・ブゼク(Agata Buzek)は、「イレブン・ミニッツ」の鳩が飛び込んでくる場面でベッドにいたポーランド人女優。修道女でありながらプラグマティックな考え方を併せ持つ重層的な人物像を好演しています。

14

その他の修道女たちもポーランド人が演じていますが、主役のマチルドを演じたルー・ドゥ・ラージュ(Lou de Laâge)や同僚医師を演じたバンサン・マケーニュ(Vincent Macaigne)はフランス人です。ルー・ドゥ・ラージュは、不満げな表情がどことなくレア・セドゥを彷彿させる売り出し中の女優。

13

原作は、実際に赤十字の医師としてポーランドで働いたマドレーヌ・ポーリアック(Madeleine Pauliac)の報告をベースに、その甥のフィリップ・メニヤル(Philippe Maynial)が執筆したもの。なぜ本人が書いていないかといえば、マドレーヌは1946年2月13日、つまりこの映画で描かれている時期の2ヶ月後に自動車事故で亡くなっているからです。実話ベースの映画とはいえ細部は創作だそうで、実際に報告されていたのは、おそらくソ連兵の暴行による修道女の妊娠の部分だけではないかと思います。

15

ですから、同僚医師のサミュエルがユダヤ系(Samuel Lehmanという役名がアシュケナジムをイメージさせます)で、家族がホロコーストの犠牲になったという部分には脚色がありそうです。

09

しかし、そのおかげでポーランド人修道女たちが彼に対して微妙な表情を浮かべたり、コミュニストであるマチルド(実際のマドレーヌもレジスタンスです)と意見が食い違ったり、細かいシーンに当時の社会状況が滲み出ていて、映画としての深みや面白みが増したと思います。やや明るい兆しの見えるエンディングで、さらっと触れている「次の戦争」にも絡めているのでしょう。

10

公式サイト
夜明けの祈りLes innocentes

[仕入れ担当]

2017年8月13日 (日)

ポイントリズムワールド ーモネの小宇宙ー 展 ポーラ・ミュージアム・アネックス

日本の “KAWAII文化” を独自の世界観で発信し続けている増田セバスチャンのインスタレーション展です。ポーラ美術館が所有するクロード・モネの《睡蓮の池》18連作のうちの1点をモチーフにしています。

Pointrhythmworld_1

会場内を埋め尽くしているのは、世界中から集めたという約2トン分のキラキラするものやフワフワしたもの。ビーズやボタン、レース刺繍や毛糸のほかに、バービー人形に履かせるような靴や子どもの頃遊んだ色とりどりのスーパーボールなどもあり、こんなモノまで!という楽しい発見があります。

さらに展示中央奥には Virtual Reality ART の仕掛けも♪
VRアーティストの吉田佳寿美氏が3D空間に描いた蝶は、観覧者の動きにあわせて羽ばたきます。透明スクリーンのあるポイントに立ったら、恥ずかしがらずに大きく手を振ったり動いてみてください。

新しいモネの世界に入り込み、幻想的な異空間に浸れます。

Pointrhythmworld_2

ポイントリズムワールド ーモネの小宇宙ー 展
http://www.po-holdings.co.jp/m-annex/exhibition/
2017年9月3日(日)まで

[店長]

2017年8月10日 (木)

日本の家 展 東京国立近代美術館

1945年以降の個人住宅を分析し、未来のくらしに繋げていく展覧会です。さまざまな世代の建築家56組による75の住宅建築を細かく13のテーマに分けて紹介。模型、図面、写真、映像などの資料400点以上が並びます。

Thejapanesehouse_1

見どころは下の写真、実際に上がって観ることができる展示作品です。清家清設計《斎藤助教授の家 1952年》の一部実物大模型で、あらゆる資料を手がかりにして、素材や色彩など可能な限り忠実に再現。横に大きく広がった開口部とフラットな空間構成で開放感をもたせた、理想的な小住宅だと思います。

Thejapanesehouse_4

ほかにも、建物のコンセプトを明確に伝える模型が数多く展示されています。さまざまな素材をつかって表現された小さな家々を覗き込んでいくことで、次第に未来のくらしのイメージがふくらんできます。

Thejapanesehouse_2

この春に開催された「日本、家の列島」展(こちらで紹介)でも言われていたように、日本の住宅建築は世界的に高く評価されています。個人宅の設計機会がない海外の建築家とは格段にレベルが違うそうです。少子化や高齢化、晩婚化・未婚化など現代日本の課題に対してさまざまな家族像を提案をしていく今後の日本建築に期待したいと思います。

Thejapanesehouse_3

会期中は、大人から子どもまで楽しめるという「けんちく体操」や、東京のど真ん中にテントを張って一晩過ごせるという「アーバンキャンプ」など、面白そうなイベントも盛りだくさんです。

日本の家 1945年以降の建築と暮らし 展
http://www.momat.go.jp/am/exhibition/the-japanese-house/
2017年10月29日(日)まで

[店長]

2017年8月 7日 (月)

映画「静かなる復讐(Tarde para la ira)」

00 スペイン映画界の最高賞、ゴヤ賞で今年の最優秀作品賞、助演男優賞、脚本賞、新人監督賞を獲った作品です。その新人監督というのがラウール・アレバロ(Raúl Arévalo)。「雨さえも」で劇中劇の役者、「アイム・ソー・エキサイテッド!」で客室乗務員、「マーシュランド」で若手刑事を演じていたスペインの人気俳優です。

原題は“復讐には遅い”という意味で、父親と婚約者が犯罪に巻き込まれた男が、その8年後、刑を終えて出所した運転主役から仲間の居所を聞き出して復讐する物語。英題“The Fury of a Patient Man(忍耐強い男の憤怒)”で言うように、既に逃げ果せたと思っていた犯罪者たちに積年の怒りをぶつけていきます。

映画の幕開けは2007年8月のマドリード。路肩に駐められた車の後部座席から運転者を撮っているのですが、手持ちカメラのせいで画面が揺れ、気分が悪くなりそうです。と、思っていると、黒い覆面をした男たちが走ってきて、その1人が助手席に乗り込みます。急発進する車。しかし既に警察車両が先回りしていて逃げられそうにありません。覆面の男が車を降りた後も逃げようと爆走する運転者ですが、何かにぶつけて横転し、警察に捕まってしまいます。

02

続いてバルの軒先でカードゲームに興じる主人公ホセたち。店で働いているアナはオーナーのフアンホの義理の妹で、シングルマザーのように見えますが、服役中の夫クーロが近く出所する予定だとわかります。彼女とホセは親しいようで、夜中にネットでチャットをする間柄です。

05

ちなみに、このCarrascoという店名のバルは、実際にマドリード南西部のウセラ地区にあった店だそうです(→google map)。街の中心から離れていますので観光客が訪れるような場所ではありませんし、現在はヘアサロンに変わってしまったようですが、このうらぶれた風情の店が登場人物たちの鬱屈した状況をうまく伝えています。

20

そのうち、冒頭で映し出された場面は宝石店強盗事件で、逃走用の運転手役だったクーロのみが逮捕されて8年の刑期を務めたことがわかってきます。そしてホセは強盗事件の被害者の家族であり、アナがクーロの妻だと知ってこのバルに通っていることもわかってきます。つまり、事件で婚約者を失ったホセが、その復讐を目論み、捕まらなかった実行犯を捜すためにアナに近づいたわけです。

03

出所したクーロはアナの家に戻ってきますが、2人はしっくりいきません。クーロと口論になったアナは、幼い息子を連れて、しばらくホセの田舎の家で過ごすことにします。もちろんクーロは妻子を捜しますが、ホセは2人を誘拐したとクーロを脅迫して仲間の居場所を吐かせます。そしてクーロに案内させて犯人たちの元に赴き、復讐していくというお話です。

08

スペイン映画でスリラーというと、複雑な仕掛けやホラー的な要素を散りばめた作品も多いのですが、本作はいたってシンプルです。最初の部分で、時間軸が飛んだり登場人物の関係性がわかりにくかったりする以外、とても明瞭なストーリーですので、脚本賞受賞作だと知って観ると逆に戸惑ってしまうも知れません。おそらく、プロットの進め方ではなく、会話の妙に対する受賞なのでしょう。

07

主人公のホセを演じたのは、「気狂いピエロの決闘」で準主役のセルヒオ、「マーシュランド」で被害者の父親を演じていたアントニオ・デ・ラ・トレ(Antonio de la Torre)。そして彼に巻き込まれるクーロをルイス・カジェホ(Luis Callejo)、その妻アナをルス・ディアス(Ruth Díaz)が演じており、ルイス・カジェホは本作での受賞で今後の出演作が目白押しのようです。

16

適度な緊張感が心地良く、音楽も良いので、スペイン映画好きの方ならきっとお気に召すと思います。ただ、本作はカリコレ2017の特別上映ですので、これ以降の上映は8/8(火)15:30、8/9(水)10:00、8/14(月)12:30の3回しかありません。割と混みますのでネット予約で座席を確保してからお出かけください。

18

公式サイト
静かなる復讐

[仕入れ担当]

2017年8月 6日 (日)

ダミアン・ハースト Treasures from the Wreck of the Unbelievable 展

今年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で話題をさらったダミアン・ハースト(Damien Hirst)の Treasures from the Wreck of the Unbelievable 展。5月末にイタリアに行く機会があり、幸運にも立ち寄ることができました。

場所は、フランソワ・ピノー氏が率いるピノー財団の2つの現代アート美術館、パラッツォ グラッシ(Palazzo Grassi)とプンタ デッラ ドガーナ(Punta della Dogana)。この2館で1人のアーティストの展覧会を同時開催するのは初めての試みだそうです。

Twu_damien_hirst_01

フランソワ・ピノー氏については言わずもがなですが、グッチやサンローランなどのラグジュアリーブランドを保有するフランスの Kering グループ(元PPR)の元会長で、世界的に有名なアートコレクター。ちなみにパラッツォ グラッシは、息子のフランソワ・アンリ・ピノー氏と女優のサルマ・ハエックの出会いの場所だそうで、ハリウッドセレブやシラク前仏大統領などそうそうたる面々を招待しての豪華な結婚披露宴(パリに続く2回目!)も行われました。

今回ブログでご紹介するのは、そのパラッツォ グラッシに続いて安藤忠雄氏が2009年に現代美術館へと再生させたプンタ デッラ ドガーナ。

Twu_damien_hirst_02

上の写真はサンマルコ広場の鐘楼から撮ったものですが、大運河の向こうに見える三角形の建物で、15世紀に建てられた「海の税関」だったそう。wikipediaにはピノー氏がヴェネチア市との33年間の契約にサインしたとありますので、正確には定借ということになるんでしょうね。

Twu_damien_hirst_03

古い煉瓦壁と木の梁に、安藤忠雄氏のホールマークである打ちっ放しコンクリートが美しく調和しています。

Twu_damien_hirst_04

ピノー氏は安藤忠雄氏がお気に入りのようで、ルーブル美術館とポンピドー・センターの間に位置する「ブース・デ・コマース」(商品取引所)の建物も、この二人のタッグで美術館に改修し、2019年初めに開業予定だそう。

Twu_damien_hirst_05

さて、本題の展覧会です。目録の冒頭に、ウィリアム・シェークスピア「テンペスト」からの引用があります。

Twu_damien_hirst_06
(わだつみの五尋の底、臥すは父、骨は珊瑚、目は真珠。朽ちゆくものみな、海のめぐりうけ、尊きものに成りかわる)

エアリアルが歌う有名な詩句で、この一節に触発された芸術家は多いようですが、ダミアン・ハーストの手にかかると壮大です。

Twu_damien_hirst_07

2000年前にインド洋に沈んだとされる難破船が2008年に発見され、その財宝を海底から引き揚げ、考古学的遺物として展示したという虚構のストーリーを展開。今流行の(?) "フェイク" も、ここまでやるか、というほどの徹底ぶりです。

Twu_damien_hirst_09

2000年もの間、海底に眠っていた感じを出すために、わざわざ彫刻に珊瑚やフジツボなどの海底の生き物を付着させ・・・

Twu_damien_hirst_08

それらしく見せるために、発掘された装飾品、武器や武具などが、大英博物館などで見られるような演出で展示されています。

Twu_damien_hirst_10

さらに驚いたことに、海底での発掘作業を撮影した記録映像まで上映。

Twu_damien_hirst_11

写真でスケール感をお伝えできないのが残念ですが、1階の巨大な展示物は圧巻です。どれだけお金がかかって、会期終了後、これらの作品はどうなるのだろう?と、庶民はただただ不思議に思ってしまいます。

クリスタルのメデューサもあれば・・・

Twu_damien_hirst_13

ゴールドのチャーミングな頭像もあります。目録もひとつひとつの作品に考古学的な解説がついている凝りようで、脱帽としか言いようがありません。

Twu_damien_hirst_14

中には、さすがに2000年前にはなかったよね、と思うようなものも展示されていますが。The Collector and Friend というタイトルがなんともアイロニカルです。

Twu_damien_hirst_12

難破船「アンビリーバブル号」の財宝のめくるめく世界・・・ここまでの展覧会ができるアーティストというのは、そうそういないのではないでしょうか。久しぶりに芸術のパワーというか、アーティストの執念と執着を強く感じた展覧会でした。

Twu_damien_hirst_15

今年の12月3日まで展示されています。この夏、この秋にイタリアへ行かれるご予定のある方は、チャンスがあれば、ぜひ行かれてみてください。

もうひとつのパラッツォ グラッシの方も必見です。ぜひ2館ともご覧ください。

ダミアン・ハースト
Treasures from the Wreck of the Unbelievable 展
2017年12月3日まで
ヴェネチア:Palazzo Grassi、Punta della Doganaの2館で開催
http://www.palazzograssi.it/

[仕入れ担当]

2017年7月31日 (月)

映画「甘き人生(Fai bei sogni)」

00 イタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ (Marco Bellocchio)監督の新作です。といっても私それほど熱心なファンではないのですが、本作は「愛の物語にイタリアの歴史が映し出される」というキャッチコピーがとても魅力的だったので観に行きました。トリノを舞台に現代史が描かれるといえば、赤い旅団などが登場するスリリングな展開をイメージしてしまいます。

しかしこれは大きな勘違いで、実際はイタリア人ジャーナリスト、マッシモ・グラメッリーニ(Massimo Gramellini)の自伝小説の映画化。少年時代に母をなくし、心を閉ざしたまま大人になったマッシモが、エリザという女性との出会いを通じて変化していくお話です。要するに、ママが何より大切というイタリア男の喪失感を描くもので、トリノの歴史は背景の一部でしかありません。赤い旅団は同監督の「夜よ、こんにちは」でしたね。

02

イタリア映画にはよくあることですが、本作も文化的背景を知らないとピンとこない部分が多々ある映画です。その上、原作小説がイタリア国内で100万部を超えるベストセラーになったそうで、観る側が作者(=主人公)の背景を知っているという前提で作られています。マッシモの半生を追うだけにならないように時間軸を入れ替えたりしている分、若干、わかりにくくなっている部分もありますので、サイト等で基礎知識を仕入れてから観た方が楽しめるかも知れません。

01

幕開けは、マッシモと母親が部屋で踊っているシーンで、いかに母と息子の仲が良かったかを伝えます。そして夜中、ベッドで寝ているマッシモの毛布を直し、「Fai bei sogni(良い夢を)」と声をかけて寝室から出て行くシーン。その直後に警察が来る騒ぎになり、後日、神父から君の母親は天に召されたと伝えられます。

13

それに続いて家に棺が運び込まれ、葬儀が行われるのですが、知識のある人なら、教会で葬儀が行われなかったことの意味、つまり教義に反する自死であったことがわかるそうです。

20

なかなか母親の死が受け入れられないマッシモを、自宅の目の前にあるスタジアムに連れ出す父親。同じ地元チームでも、超メジャーなユヴェントスFCではなく、トリノFCの試合に行くあたりが地元愛です。母親が亡くなった日が1969年12月31日ですから、その年ならコッパ・イタリアで準優勝、翌年ならコッパ・イタリアで優勝していますので、きっとその頃のエピソードなのでしょう。

07

大人になったマッシモ。サッカー愛が実ってスポーツジャーナリストとなり、イタリア最大の新聞であるラ・スタンパで働きます。

9歳で母親を喪ったマッシモですから1990年代には40代の働き盛りです。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争時のサラエボへ派遣され、記事が話題になったりしたようですが、そのPTSDでしょうか、帰国後にパニック障害になり、治療を受けた病院で女医のエリーザと出会います。

04

彼女との会話で、父親が心筋梗塞だと説明していた母の死因に疑問を抱き、父親の死後、トリノの旧宅を売るために家財道具の処分に戻った際、真実を知ることになります。そしてエリーザとの関係を通じて、30年間抱えてきた母の喪失感と折り合いを付けられるようになっていくという物語です。

12

母親との思い出で心の友でもあるTVドラマの怪物ベルフェゴール(Belphégor)や、エリーザの高飛び込みを始めとするさまざまな落下シーンが象徴的に使われます。

11

ちなみに少年マッシモが窓から落とすのはナポレオンの胸像。なぜナポレオンか、というと、サルディーニア王国の事実上の首都だったトリノの歴史(プロンビエールの密約とかガリバルディの時代)と関係ありそうですが、コレクションしていた父親とそれを放擲したマッシモ少年の意識の違いを象徴するものと受け取って良いでしょう。

また老いた父親と再会する場面はスペルガの悲劇(Tragedia di Superga)の慰霊祭だそうで、飛行機墜落によるトリノの悲劇をマッシモの個人的悲劇に重ね合わせているようです。

05

このようにさまざまな意味づけを重層的に織り込んだ作品ですので、すべてを理解することは難しいかも知れませんが、凝った映像と巧みな展開、出演者の見事な演技を楽しむだけでも満足できる作品だと思います。

09

成長してからのマッシモを演じた「フォンターナ広場」「ローマに消えた男」のヴァレリオ・マスタンドレア(Valerio Mastandrea)の他には、女医エリーザを演じた「アーティスト」「ある過去の行方」「あの日の声を探して」「シークレット・オブ・モンスター」のベレニス・ベジョ(Bérénice Bejo)、少年マッシモの友人エンリコの母を演じた「ココ・アヴァン・シャネル」「風にそよぐ草」「ヴィオレット」のエマニュエル・ドゥヴォス(Emmanuelle Devos)といった実力あるフランス女優が出演しています。

10

公式サイト
甘き人生

[仕入れ担当]

2017年7月27日 (木)

深海 2017 展 国立科学博物館

太陽の光が届かなくなる水深約200メートルから、水圧でたんぱく質さえ壊れてしまい魚が住めないとされる水深約8400メートルを超える世界にまで迫る展覧会です。

Shinkai2017_1

浅い海から落ちてくる生物の遺骸や排泄物を餌にしている深海の生物たち。数少ない獲物を捕るための工夫や生きるための努力を積み重ね進化し続けています。

深海で暮らす生物の90%以上が光るそうです。自力で光るものと、ほかの生物の力を借りて光るものがいて、光る理由には獲物をとらえる、助けをよぶ、敵から隠れるなどがあります。クロカムリクラゲは敵に襲われると体から光の粒をまき散らし、それを囮にして逃げるそう。

会場では、貴重な発光シーンがたくさん見られます。撮影の際、白い光をつかうと多くの生物がストレスを感じて自然体で撮れなかったため、深海の生物が感知できない赤い光を使用。暗闇で美しく怪しく光る映像に目を奪われます。

また生物や資源調査のために活躍している船舶や機器にも注目です。

下の写真は、無人深海探査機「江戸っ子1号」。東京都と千葉県の町工場が中心となって共同開発し、2013年には日本海溝の水深7800メートル付近で生物のハイビジョン撮影に成功しています。

Shinkai2017_2

こちらは、有人潜水調査船「しんかい6500」の1/2模型。

Shinkai2017_3

3人の乗組員が入れるコックピットは、わずか直径2メートルの狭いスペースです。

Shinkai2017_4

深海研究が本格的に始まったのは19世紀末から。まだまだ謎に満ちた世界、興味は尽きません。

深海 2017 展
http://shinkai2017.jp/
2017年10月1日(日)まで

[店長]

2017年7月24日 (月)

映画「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ(The Founder)」

00_2 ハンバーガーチェーン・マクドナルドの「創業者」であるレイ・クロック(Ray Kroc)を描いた映画です。なぜ「創業者」とカギ括弧に入れたかといえば、最初にハンバーガーショップ・マクドナルドを始めたのはマクドナルド兄弟で、彼らが考え出したやり方を広めてフランチャイズチェーンを築き上げたのがレイ・クロックだからです。

物語はミルクシェイク製造器の冴えないセールスマンだったクロックが、マクドナルド兄弟を説得して内部に入り込み、業容を拡大していくというもの。ビジネスマンの半生記というと、老人の自慢話のようなウンザリさせられるものも多いのですが、この映画はかなり楽しめると思います。

02_2

その理由の1つが、マクドナルドをオープンに描いているから。本作はマクドナルドから協力を得ていませんので、まったく宣伝臭がないばかりか、誹謗中傷と誹りを受けそうなエピソードまで平気で取りあげています。

01_2

そしてもう1つが、クロックがとんでもない人間だから。エゴが強くて独善的で、まったく共感できない小悪党です。起業家の映画でいえば「スティーブ・ジョブズ」や「ソーシャル・ネットワーク」も主人公を“イヤな奴”として描いていましたが、ジョブズやザッカーバーグが信念を押し通す身勝手な人間だとすれば、クロックは小賢しく立ち回ることで生き抜いてきたセコい人間。

03

そのあたりを躊躇なく描ききっているところが、この映画に説得力と躍動感、ある種のリアリティを与えているのだと思います。

05_2

クロックの胡散臭さを際立たせる話として、彼は寝る前にクラランス・フロイド・ネルソン博士(Dr. Clarence Floyd Nelson)という架空のモチベーショナル・スピーカーが録音した"The Power Of The Positive"というレコードを聴きます。これでヤル気を奮い立たせ、ぱっとしないセールスマン稼業を続けてきたわけです。

マクドナルドの経営に参画し、フランチャイズ化に成功すると、レコードの語りそのままを関係者の前で語り始めます。その〆は“franchise, franchise, franchise”の三唱。元マイクロソフトCEOスティーブ・バルマーの“Developers, Developers, Developers”と同じノリですが、業者に対する気持ちは皆無で、自分中心の性格は変わりません。

04_2

そのレイ・クロックを演じたのが「バードマン」のマイケル・キートン(Michael Keaton)で、醸し出す雰囲気がクロックのイカサマっぽいキャラクターにぴったりです。そしてその最初の妻エセルを演じたのがローラ・ダーン(Laura Dern)。このところ「ザ・マスター」「きっと、星のせいじゃない。」「わたしに会うまでの1600キロ」とよく見かける女優さんですが、今回も作り笑いが貼り付いたような表情で幸の薄そうな役をリアルに演じています。

06_2

最初の妻と書いたのは、レイ・クロックは3度結婚していて、映画では3番目の妻になるジョーンとの関係が描かれますが、中継ぎ的にジョン・ウェインの秘書だったジェーンという女性とも結婚しています。簡単に言えば、ジョーンと再婚したくてエセルと離婚したものの、ジョーンが離婚したくないと言い出したので諦めてジェーンと再婚。その後、ジョーンの気が変わって離婚したので、慌てて自分も離婚してジョーンと再婚という流れ。当然とも言えますが、女性に対する倫理観もゼロです。

そして最終的に兄弟からマクドナルドを奪い取るという暴挙に出ます。マクドナルド兄弟が、高品質の商品を短時間で提供するために創り上げた高効率オペレーションを、その核となる部分だけ頂戴して、品質よりコスト重視の事業展開を始めるのです。一例として、ミルクシェイクの原料を生乳から粉ミルクに変えて光熱費削減を図ろうとする逸話が出てきます。

07

そのきっかけになるのが、上記のジョーンとその夫ロリー・スミスがフリーザーの電気代がかかって大変だと言ったこと。そしてジョーンがコスト削減策として示すのがパウダー状のミルクシェイク・ミックスで、マクドナルド兄弟は生乳しか認めないと反対しますが、クロックがそれを押し通したことで、彼らの関係もマクドナルドの経営姿勢も変化していきます。

08_2

ということで、マクドナルド成功の裏側を描いた本作、ハンバーガー好きでなくても楽しめる1本だと思います。ちなみに、監督を務めたのは「しあわせの隠れ場所」「ウォルト・ディズニーの約束」のジョン・リー・ハンコック(John Lee Hancock)で、エンディング近くに記者の役でカメオ出演しています。

09

公式サイト
ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツThe Founder

※プレス用資料もポテト型
20

[仕入れ担当]

2017年7月23日 (日)

タイ 展 東京国立博物館

タイの仏教美術を紹介する展覧会が上野・東京国立博物館で開催中です。日タイ修好130周年を記念して、美しい仏像や名品、日本との関わりを紹介しています。

Thailand_1

古くは5~6世紀に創られた立像から、インド神話に登場する7つの頭を持った蛇神ナーガが仏陀を風雨からお守りしている坐像、右半身がヒンドゥー教の男神シヴァで左半身はその妃パールヴァティーを表したクメール文化の坐像彫刻、優しい微笑みをたたえながら優雅に歩みを進める遊行像までバラエティーに富んでいます。

タイの人たちは自分の生まれた曜日を知っていて、曜日毎に違う姿の守護仏を拝むそうです。第一会場の最後に、生まれた曜日や守護仏、ラッキーカラーが分かる展示がありますので調べてみてください。

ちなみに火曜生まれのわたしは、守護仏が涅槃像でラッキーカラーはピンクでしたので、日本人で初めて上座仏教の僧侶となった釈興然(しゃくこうねん)が、タイから持ち帰ったという仏陀涅槃像を拝んできました。

Thailand_2

ほかに、仏塔に納められていた黄金の数々も見どころです。
14世紀半ばから400年もの長きにわたり国際貿易国家として栄えたアユタヤ王朝で創られた、黄金に宝石を象嵌した舎利塔や、王権の象徴となる冠、靴、象のミニチュアなど、優美な装飾にみとれてしまいます。

Thailand_3

7月28日(金)、29日(土)、8月25日(金)、26日(土)は、「トーハク BEER NIGHT!
午後4時から8時30分まで、タイ展会場:平成館の前庭にビールやタイ料理の屋台が並ぶビアガーデンがオープンします♪ 根津のモナドからもお散歩がてら行けますので、ぜひ遊びにいらしてください♪♪

タイ ~仏の国の輝き~ 展
http://www.nikkei-events.jp/art/thailand/
2017年8月27日(日)まで

[店長]

より以前の記事一覧

フォト