カルチャー

2018年2月25日 (日)

ルドン - 秘密の花園 三菱一号館美術館

19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家オディロン・ルドンの展覧会です。“植物” をテーマに、オルセー美術館やニューヨーク近代美術館などから集めた約90点の作品で構成されています。

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キャリアの前半に多く描かれたのは “黒” の作品。友人と旅したスペインの風景を描いたエッチングや、人間の頭部をもつ植物を描いたリトグラフなど、ルドンが最も本質的な色だと語っているモノクロームの世界で表現されています。

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色彩豊かなパステル画を描き始めたのは、結婚後、家族が増えてからだそう。
鮮やかな青が印象的な三菱一号館美術館所蔵の《グラン・ブーケ》は、ルドンのパトロンとして作品を収集していたロベール・ド・ドムシー男爵が、ブルゴーニュ地方に居を構えるにあたり依頼した装飾画の1つです。

天井高さが4メートル以上もある城館の大食堂に飾られたもので、暖炉や扉、庭に開かれた大きな窓に合わせて計16点の絵画が制作されました。本展では、ナナカマドの赤やミモザの黄色を鈍い発色で表現したオルセー美術館所蔵の15点を含む16点が一堂に揃います。

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ほかに植物学者のアルマン・クラヴォーなどルドンに多大な影響を与えた人物たちを紹介する貴重な資料や、ルドンの下絵で制作されたゴブラン織りの衝立や肘掛け椅子など装飾プロジェクトのコーナーも必見です。

ルドン - 秘密の花園
http://mimt.jp/redon/
2018年5月20日(日)まで

[店長]

2018年2月19日 (月)

映画「欲望の翼(阿飛正傳)」

00 ウォン・カーウァイ(王家衛)監督がアートディレクターを務めた展覧会のドキュメンタリー「メットガラ ドレスをまとった美術館」を観て、この監督の作品をまた劇場で観てみたいと思っていたら、タイミング良く、Bunkamura でデジタルリマスター版の上映が始まりました。

この監督にとって2本目の作品ですが、実質、これでデビューしたといって良いでしょう。本作が1991年の金馬奨で監督賞に輝き(作品賞は「牯嶺街少年殺人事件」)、次作「恋する惑星」で世界に知られるようになります。

あまりにも有名なセリフ「1960年4月16日3時1分前、君は僕といた(一九六零年四月十六號下午三點之前的一分鐘你和我在一起)」のシーンで始まるこの映画、ご存知のようにストーリーそのものは大したことありません。

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養母レベッカに育てられ、実母に会いたいと願っている不良青年(阿飛)ヨディが、サッカー場の売り子スーを口説き落とし、ダンサーのミミに乗り換えて、最後は実母がいるフィリピンに旅立つというお話(正傳)。そこにヨディの幼なじみサブと警官タイドが絡んできますので、一種の青春群像劇なのかも知れません。

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ベースになるのはヨディとスーとミミの三角関係なのですが、この3人を演じる役者が最大の見どころでしょう。ヨディ役をレスリー・チャン(張國榮)、スー役をマギー・チャン(张曼玉)、ミミ役をカリーナ・ラウ(刘嘉玲)というこれ以上望めないような配役です。

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さらに、サブ役をジャッキー・チュン(张学友)、タイド役をアンディ・ラウ(刘德华)、レベッカ役をレベッカ・パン(潘迪華)が演じた上に、意味不明なチョイ役でトニー・レオン(梁朝偉)が登場するという超豪華版。

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そしてもう一つの見どころが、ウィリアム・チャン(張叔平)の美術と、クリストファー・ドイル(Christopher Doyle)の撮影。どのシーンを切り取っても絵になります。

特にクリストファー・ドイルの映像は、足元から仰ぐように撮ったり頭上から俯瞰で撮ったりと撮り方も多様ながら、技術的にもフィルターで色を変えたりコマ落とししたり当時としては画期的でした。

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いま観ても、顔が画面に入りきらないほど寄ったり、手持ちカメラでズームしたりといった、あの独特の映像にはシビレます。これを観たことが呼び水になり、改めてウォン・カーウァイとクリストファー・ドイルの世界が堪能したくなって、思わず4枚ほど買い込んでしまいました。同じことを思う人も多いようで、Bunkamura では「ブエノスアイレス」と「花様年華」の特別上映(→詳細)があるそうです。

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初公開時、私はこの作品で初めてレスリー・チャンを観て“色気のある俳優さんだな”と関心をもったのですが、この後の出演作「さらば、わが愛/覇王別姫」で彼の凄さに驚愕することになります。

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この頃から香港映画が急激に開花し、マギー・チャンも本作や「ロアン・リンユィ 阮玲玉 」で一線に躍り出たと記憶しています。彼女はその後フランスへ渡り、オリヴィエ・アサヤス監督と結婚していた時期もありました。カリーナ・ラウはそのままトニー・レオンと結婚しましたね。

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マギー・チャンもカリーナ・ラウも最近は見かけなくなってしまいました。レスリー・チャンはご存知のようにマンダリンホテルから飛び降りてしまいましたので、もういません。日本にも多くのファンがいた関係で、日比谷公園には彼を偲んで有志が寄贈したベンチがあります。

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そういったわけで、旧作にもかかわらず、やたら混んでます。私が行った回は Bunkamura の広い方の劇場が最前列までほぼ満席でした。事前予約が必須です。

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公式サイト
欲望の翼 デジタルリマスター版

[仕入れ担当]

2018年2月18日 (日)

ヘレンド展 パナソニック汐留ミュージアム

ハンガリーの南西、オーストリアとの国境近くの村で創設された磁器ブランド、ヘレンド(Herend)を紹介する展覧会です。黎明期に作られた貴重なクリームウェアから、2002年に日本の美濃で開かれた陶磁器コンペティションで賞を獲得した真っ白な酒器作品まで約230点がご覧になれます。

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重点的に紹介されているのは、東アジアから着想を得たデザインです。つまみや取っ手に唐子をかたどったシュガーポットやティーカップ、魚の背ヒレをひねると魚の口からお湯が注がれるサモワールなど、大小さまざまな器が並びます。

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こちらは、ヘレンドを代表する透かし彫りのような装飾が施された二重の器壁をもつティーセット。焼成前の柔らかな状態でレースのような透かし模様をくり抜き、乾かないうちに内側の素地と張り合わせて制作されるそう。

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カーネーションやザクロ、チューリップの絵柄を描いた「ハンガリアン・ナショナル文様」とよばれる民族的な装飾もあります。19世紀末に催された建国1000年祭で確立されたもので、以来、ヘレンドの重要なモチーフとなっています。

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西洋と東洋の美術を取り入れた色鮮やかなペイントと、緻密な造形技術で制作されるヘレンドの魅力に惹き込まれます。

ヘレンド展 皇妃エリザベートが愛したハンガリーの名窯
https://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/18/180113/
2018年3月21日(水)まで

[店長]

2018年2月15日 (木)

アラビアの道 サウジアラビア王国の至宝 東京国立博物館

古代から多くの人や文明が行き交ったアラビア半島の歴史と文化に触れられる展覧会です。モナドでご紹介しているスペインの文化にも大きな影響を与えているアラブ世界を覗いてきました。

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馬や鷲をかたどったアジア最初といわれる石器から、香料交易で富を築いた人々の黄金の葬送用マスク、サウジアラビア王国の初代国王となったアブドゥルアジーズ王の遺品など400点あまりの貴重な文化財が並びます。

特にカリグラフィーや幾何学模様にみられるイスラーム美術は必見です。17世紀オスマン帝国のスルタンから贈られた巨大な扉《カァバ神殿の扉》や王家の墓碑、コーランの写本に美しく刻まれています。

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ライオンの顔をしたドアノッカーや足のカタチをした椅子の脚、青銅でつくられたランプなど精巧な工芸品も見逃せません。

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下の写真は、銀製のアンクレットです。インパクトある造形ですが、どうやって着けるのでしょう??

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ほかにルビーをあしらった護符や黄金のネックレス・イヤリングなど眩いばかりのジュエリーもご覧になれます。

2月の週末17日(土)、18日(日)、24日(土)、25日(日)の日中、会場となる表慶館前にアラビア遊牧民のテントが設置されますので、ぜひ立ち寄られてみてください♪

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2月 11, 2018 at 9:32午後 PST

テント内には茶器や香炉、毛織物や伝統衣装などが展示されていて、さっぱりした飲み口のカルダモンやサフランなどのスパイスをきかせたアラビックコーヒーと甘いデーツ(ナツメヤシの実)を楽しみながら寛ぐことができます♪♪

アラビアの道 サウジアラビア王国の至宝
http://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=1886
2018年3月18日(日)まで

[店長]

2018年2月13日 (火)

映画「ローズの秘密の頁(The Secret Scripture)」

00 「マイ・レフトフット」「父の祈りを」「ボクサー」のジム・シェリダン(Jim Sheridan)監督が久しぶりにアイルランドを舞台に撮った作品です。原作はダブリン生まれの劇作家セバスチャン・バリー(Sebastian Barry)が書いた同名小説で、2008年にコスタ賞(旧ウィットブレッド賞)を受賞しています。

原題になっている“秘密の聖書”というのは、半世紀近くにわたって精神病院に収容されている主人公ローズが、自分の記憶を書き留めてきた聖書のこと。人々の虚偽の供述で入院させられ、電気ショックによる治療で何が事実で何が作り話か曖昧になりつつあるローズにとって唯一の記憶の拠り所です。

映画の幕開けは、ヨブ記(The book of Job)のJobの部分をペンで上書きしてRoseに変えているシーン。まさにこの物語を端的に表現している部分で、幸福に暮らしていたローズが、まるでヨブのように悪魔の仕打ちを受けてすべてを失ってしまうお話です。老いたローズが収容されている聖マラキ(St. Malachy)病院の取り壊しが決まり、転院前に診察が必要だということで送られてきたグリーン医師がローズの過去を蘇らせます。

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第二次大戦初期、アイルランド北部の町スライゴに疎開してきたロザンヌ(愛称ローズ)。叔母が経営する禁酒ホテル(temperance hotel)で給仕の仕事に就きますが、その美貌が災いし、地元の男たちにつきまとわれます。その中で彼女が心惹かれたのが酒屋のマイケル。しかし彼は町で“英国寄り”と言われていて、ローズはマイケルと会話を交わしただけで脅迫めいた忠告を受けます。

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それに対して、一方的にローズに熱を上げているのがゴーント神父。カソリックがマジョリティである当地ではある種の権力者でもあります。教会主導の禁酒ムーブメントに呼応している叔母は当然カソリックですが、ローズはプロテスタントです。そんな立場でそんな彼女を追い回す神父は、とち狂っているとしか言いようがありません。

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狭い町ですから噂が噂を呼びます。映画「ブルックリン」で、アイルランドに帰国した主人公が風評にさらされ“ここがどういう場所か思い出したわ”と吐き捨てる場面がありますが、ローズも悪い噂をたてられ、給仕の職を失い、町外れの小屋で暮らすようになります。

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そんなある日、英国空軍のパイロットとしてドイツ軍と闘っていたマイケルの飛行機が小屋の近くに墜落します。落下傘で脱出したマイケルを地元の反英派が追いますが、ローズが小屋に匿って難を逃れ、2人だけの密かな暮らしが始まります。そして誰も列席者のいない結婚式。そのまま幸せに暮らせれば良いのですが、もちろんそんなわけにはいきません。

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神父は、ローズが"nymphomania(色情狂)"であるという報告書を提出し、叔母の承諾を得て精神病院に収容してしまいます。この時代、精神病院は教会の附属施設ですから、神父としては自陣に引きずり込んだようなものですが、ローズの心はマイケルから離れることはありません。その後、ローズが妊娠していることがわかり、物語が大きく動いていきます。

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老いたローズを演じたのが、「アンコール!!」のマリオン、「大統領の執事の涙」の女主人、「フォックスキャッチャー」のジョンの母親などを演じて作品に深みを与えてきたヴァネッサ・レッドグレイヴ(Vanessa Redgrave)。本作でも強い意志を秘めた頑なな老婆を好演しています。

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そして若い頃のローズを演じたルーニー・マーラ(Rooney Mara)。以前も「キャロル」での演技と美しさをべた褒めしましたが、今回も持ち前の透明感ある美しさを余すところなく発揮しています。聖職者を狂わせてしまう美貌の持ち主という設定も、彼女なら納得できます。

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マイケルを演じたのは「シング・ストリート」のお兄ちゃん、ジャック・レイナー(Jack Reynor)。髪を短くしていますが、愛嬌のある顔立ちをみて思い出しました。

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ゴーント神父を「恋のロンドン狂騒曲」に出ていたテオ・ジェームズ(Theodore James)、グリーン医師を「ハンナ」のエリック・バナ(Eric Bana)が演じています。

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物語の仕掛けにすぐ気付きますので、感動的なクライマックスというわけにはいかないかも知れませんが、一つひとつのエピソード、一人ひとりの演技は十分に満足できるものだと思います。このような重厚な作品でアイルランドの歴史や空気感に触れるのもたまには良いでしょう。

公式サイト
ローズの秘密の頁

[仕入れ担当]

2018年2月12日 (月)

神聖ローマ皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展 Bunkamura ザ・ミュージアム

16世紀末から17世紀初頭にかけてローマ皇帝となったハプスブルク家のルドルフ2世。芸術文化を愛し、天文学や科学、占星術や錬金術などにも関心を持ち、世界中から絵画や工芸品、天文道具や鉱物、動植物などあらゆるものを徹底的に収集した史上最強のコレクターとして知られています。

ウィーンからプラハに宮廷を移した後、その膨大な数の絵画や彫刻など美術品を、自分の居室から直接観に行けるよう部屋を増設・改装したそうです。そんな皇帝のプライベートミュージアムを垣間見ることができる展覧会です。

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動物園や植物園を所有していたというルドルフ2世、およそ60もの果実や野菜、花で皇帝の肖像画を描いた《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》のジュゼッペ・アルチンボルドや、幻想的な風景の中の動物たちを描いた《2頭の馬と馬丁たち》のルーラント・サーフェリーといった宮廷画家たちを寵愛していました。

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展覧会のエピローグで紹介されている美しい工芸品はため息ものです。
《象の形をしたからくり時計》は、時が来ると象の目が動き、背中に乗った兵隊たちがくるくると回ったそう。

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ほかにメノウやアメシストで飾られた《蓋つきの杯》やカルセドニーでつくられた《匙》、ダチョウの脚をかたどった《貝の杯》などがご覧になれます。ルドルフ2世が築き上げた “驚異の部屋” へ出掛けてみてください。

神聖ローマ皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/18_rudolf/
2018年3月11日(日)まで

[店長]

2018年2月 9日 (金)

フランク ホーヴァット写真展 シャネル・ネクサス・ホール

1940年代にフォトジャーナリストとしてのキャリアをスタートしたフランク・ホーヴァット。今年90歳になる巨匠が撮り続けた、美しく輝く女性の一瞬を切り取った写真58点が並びます。

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1950年代から80年代末にかけて発表したファッション写真は、それまでのような型にはまったものでなく、突発的な演出でモデルの素を引き出し、無防備でさりげない表情を活かしてモードを表現。後世に大きな影響を与えました。

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ヨーロッパ全土をはじめ、インドやパキスタンなど広く旅したホーヴァット氏が、いまでも続けている私的な写真プロジェクト、ストリート写真を集めたシリーズや風景、肖像画を探究した作品などもご覧になれます。

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ネクサス・ホールでの展覧会は会場構成も楽しみにしているのですが、企画内容に合わせてシャネルのデザインチームが手掛けるそうです。今回は女性を多面的にとらえてきたホーヴァット氏の写真を多角的に観られるよう、スリットを入れた黒い壁を迷路のように設置しています。

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正面からじっくり鑑賞したあと、背伸びしたり、しゃがんだりして、壁のスリットからご覧になると、また違った感覚が味わえるかも知れません。

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フランク ホーヴァット写真展
http://chanelnexushall.jp/program/2018/un-moment-dune-femme/
2018年2月18日(日)まで

[店長]

2018年2月 7日 (水)

映画「アバウト・レイ 16歳の決断(3 Generations)」

00 エル・ファニング(Elle Fanning)がトランスジェンダーの少女を演じて話題になった映画です。当初は2016年1月の公開予定だったものの、本国で上映延期になったため日本でも急遽キャンセルとなり、2年遅れでようやく公開されました。

娘の決断に揺れる母親役にナオミ・ワッツ(Naomi Watts)、その母親役にスーザン・サランドン(Susan Sarandon)という鉄壁のキャステングに、「リトル・ミス・サンシャイン」や「サンシャイン・クリーニング」をヒットさせている Big Beach の制作。カンヌでの反応も良かったようで、ワインスタイン・カンパニーが600万ドルで買い付けたと報道されていましたが、トロント映画祭の直後に急に全米公開をとりやめたので、同社が配給した「キャロル」や「ヘイトフル・エイト」とオスカー争いにならないようにタイミングをズラしたと噂されていました。

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そんな紆余曲折を経てようやく陽の目を見たこの作品、原題は最初の公開予定時に付けられた“About Ray”から、制作時のタイトルだった“3 Generations”に戻されています。邦題は2016年のままですが、内容的には、主人公レイの物語というより、祖母、母、娘の三世代を描いた家族の物語です。

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映画の始まりは、男性として生きていくためにホルモン治療を受けようとするレイが、母マギー、祖母ドリー、その恋人フラニーと並んで医師から説明を受けている場面。16歳のレイが治療を受けるためには保護者の承諾が必要なのです。

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それまで少女ラモーナとして扱われてきたレイは、転校を機に、心の性と身体を合わせたい思ってます。しかし、母マギーは承諾書にサインする勇気を持てません。レイの決心が、思春期にありがちな一時的な心の迷いではないかという不安を拭えないのです。もしここでサインしてしまったら、ラモーナに戻りたくなっても、そのときは女性の機能が働かない可能性があります。

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また、別れた夫クレイグとの関係もあります。夫といっても結婚していないのですが、ラモーナの出生届で父親となっている以上、両親の承諾というと彼のサインが必要になるのです。しかし、訳あって何年ものあいだ接触なく、住所を調べるところから始めなくてはいけません。その上、急に訪ねていって簡単に説明できるような話ではありません。

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祖母のドリーはマギーを産んだ後でカミングアウトしたレズビアンで、現在は恋人のフラニーと暮らしています。自分の時代にはレズビアンと公言するだけでも大変だったのに、今はどんな生き方も許される良い時代になったという立ち位置ですが、だからといって、トランスジェンダーに理解があるわけではありません。女性のことが好きならレズビアンとして生きればいい、身体を変える必要はないという考えです。

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ということで、舞台となるNYの家には女性4人が暮らしていて、それぞれ個性的な人たちですので、何かというと衝突します。また、性的マイノリティでないのはマギーだけなのですが、そのマギーにも問題があってそれが物語を引っ張っていきます。

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ちなみに映画の中盤、レイがマギーに向かって“またチャズ・ボノのビデオを観てるの?”と訊く場面がありますが、チャズ・ボノというのはシェールの娘だった人。40歳で男性になったのですが、そのドキュメンタリーが“Becoming Chaz”(YouTube)というタイトルで売られてます。

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当然というか、エル・ファニングの演技は一見の価値ありでした。シスジェンダー(cisgender)である彼女がトランスジェンダーを演じたという批判もあるようですが、そんな狭量な見方を一蹴できる、迫真の演技だったと思います。

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とはいえ、この映画の見どころはそれだけではありません。三世代の母娘が、価値観の違いを抱えながらも家族として暮らしていくという普遍的なテーマを、小気味の良いセリフ回しでみせてくれるところが魅力です。大都会で暮らす女性らしいウィットに富んだ会話を聞きながら、心地良く笑えます。特にナオミ・ワッツとスーザン・サランドンの応酬はリアルでおかしくて最高です。

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脚本・監督はロンドン生まれのゲイビー・デラル(Gaby Dellal)。90年頃まで女優として活躍していた人だそうです。

主な出演者としては、上記の他、フラニー役をリンダ・エモンド(Linda Emond)が演じた他、クレイグ役をテイト・ドノヴァン(Tate Donovan)、その弟マシュー役をサム・トラメル(Sam Trammell)が演じています。

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公式サイト
アバウト・レイ 16歳の決断

[仕入れ担当]

2018年2月 5日 (月)

映画「スリー・ビルボード(Three Billboards Outside Ebbing, Missouri)」

00 話題作ですね。緻密に組み立てられた脚本と個性的な俳優陣の演技が絶妙に絡み合い、ぐんぐん引き込まれていってしまう映画です。監督は劇作家として高い評価を得ているマーティン・マクドナー(Martin McDonagh)。さすが、去年のヴェネツィア映画祭で脚本賞に輝いただけのことはあります。

舞台はミズーリ州の架空の町エビング(ロケ地はノースカロライナ州シルバ)。ジェニファー・ローレンス主演「ウィンターズ・ボーン」のブログでも個人的な思い出を記しましたが、“貧困にあえぐ米国中西部”そのものといった印象の州です。その片田舎の小さな町で暮らす中年のシングルマザー、ミルドレッドと、地元警察の署長ウィロビー、警察官ディクソンを軸に展開する物語です。

物語の発端は7ヶ月前、ミルドレッドの娘がレイプされて殺されたこと。いつまで経っても犯人が捕まらないことに業を煮やしたミルドレッドが、町外れの自宅に通じる道路沿いのビルボードに広告を出します。その広告は3枚組で、文面は順に“Raped while dying” “And still no arrests?” “How come, Chief Willoughby?” 意味は、レイプされて殺された、まだ捕まらないの?、ウィロビー署長、どうして?、といったところでしょうか。

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こう書くと、娘を殺された可哀想な母親が、悪い警察と闘う話だと思うかも知れません。しかしウィロビーは署内での人望も厚く、町内でも敬愛されている好人物。その上、まだ幼い娘が2人いるというのに、末期の膵臓癌という不憫な身の上です。

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当然、ミルドレッドの行為を非難する人も大勢でてきます。たとえば町の歯科医。警察に苦情を言いに行き、診療を受けにきたミルドレッドの歯を麻酔なしで抜こうとします。それを返り討ちにしてしまうのがミルドレッドの強さであり、無茶苦茶さでもあるのですが・・・。

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ミルドレッドは特に善良な人間というわけではありません。粗野で口も悪く、激情しやすいタイプ。娘が殺された日も、車を貸して欲しいといってきた彼女を罵って、徒歩で出掛けさせてしまいました。その後悔が彼女を攻撃的にしているのです。

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そして警官ディクソン。ミルドレッドが彼への挨拶代わりにかける言葉が“So how's it all going in the nigger- torturing business?(黒人いじめの仕事は順調?)”、それに対する返事が“教えてやるけど、近ごろは'Persons of color'いじめっていうんだ”といった具合。人種差別の意識を隠そうともしません。そういう部下を抱えるウィロビー署長も、黒人嫌いの警官を辞めさせたら3人しか残らない、その3人もゲイ嫌いだしな、という感じで、田舎町で生き抜くための処世術に長けた人物です。

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ディクソンはウィロビーのことを尊敬していて、ビルボードの一件を知った時点から、ミルドレッドへの反感丸出しですし、それを請け負った広告業者のレッドも気に入りません。ディクソンとレッドの関係は意外に重要で、前半はミルドレッド、ウィロビー、ディクソンの3人が中心ですが、後半ではウィロビーの代わりにレッドが目立ってきます。

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そこにミルドレッドの家族、息子のロビーや、離婚したDV夫チャーリーと彼の19歳の交際相手がほどよい距離感で絡み、友人の小人やディクソンの母親などクセのあるキャラクターが物語を盛り上げます。

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出てくるのはロクでもない人たちばかりですが、その誰もが自分なりの正義感を大切にしているところがポイント。しかし、小さな社会で暮らしてきたが故に視野が狭すぎます。勝手な思い込みに支えられた偏狭な正義心が、誰かを攻撃したり自らを犠牲にする原動力になってしまう田舎町らしいメンタリティを下地に、ちょっとブラックな笑いを交えた寓話的な物語が展開していきます。

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エンディングはある種の和解のようになりますが、心を入れ替えた訳でも考えを変えた訳でもないでしょう。というのは、広告業者レッドが読んでいる本がフラナリー・オコナーの短編集「善人はなかなかいない(A Good Man Is Hard)」だそうで、伏線になっているということで翻訳を読んでみたのですが、結局のところ悪人は悪人のまま、ダメなヤツはやっぱりダメという話ばかり。もしそのノリでいくなら、たまたまカタルシス(≒正義の発露)の対象が一致しただけで、それぞれは何も変わっていないという方がしっくりきます。中途半端な納得や共感が物事をさらに悪化させるというのがフラナリー・オコナー流だと思います。

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その頑なな意志をたたえたミルドレッドを演じたのはフランシス・マクドーマンド(Frances McDormand)。夫であるジョエル・コーエンが撮った「ファーゴ」をはじめ、「あの頃ペニー・レインと」などで高い評価を得ているベテラン女優ですね。このブログでも「きっと ここが帰る場所」「ムーンライズ・キングダム」「プロミスト・ランド」「ヘイル、シーザー!」をご紹介しています。

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ウィロビー署長を演じたのは「ハンガー・ゲーム」でヘイミッチ役だったウディ・ハレルソン(Woody Harrelson)で、警官ディクソンを演じたサム・ロックウェル(Sam Rockwell)と、この監督の前作「セブン・サイコパス」で共演しています。

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また、広告業者レッド役は「ゲット・アウト」でローズの弟を演じていたケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(Caleb Landry Jones)、息子ロビー役は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で青年パトリックを演じていたルーカス・ヘッジズ(Lucas Hedges)で「レディ・バード」でも重要な役を演じている注目株。

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殺された娘アンジェラ役は「パラノーマル・アクティビティ4」主演で注目を集めたというキャスリン・ニュートン(Kathryn Newton)、元夫チャーリ役は「ウィンターズ・ボーン」でティアドロップを演じていたジョン・ホークス(John Hawkes)で、この2人も田舎っぽくていい感じです。

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公式サイト
スリー・ビルボードThree Billboards Outside Ebbing, Missouri

[仕入れ担当]

2018年2月 4日 (日)

ざんねんないきもの展 サンシャイン水族館 特別展会場

池袋のサンシャイン水族館と人気書籍がコラボレーションした特別展です。約40億年前に地球に「細胞」が生まれてから、変化する環境に合わせて進化してきたさまざまな生き物たちの「すごい!」ではなく、「ちょっぴり残念」に思える能力や体、生き方などを紹介しています。

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美しい体の色をしていて観賞用としても人気の淡水魚ディスカスは、稚魚の餌になる「ディスカスミルク」というネバネバの液をオスが出すそうですが、そのときは体の色がどす黒くなります。

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下あごに2本のひげが伸びるスズキ目ヒメジ科の魚類オジサン。生まれたときから、メスでも稚魚でもオジサンと呼ばれます。あごひげのせいで残念な名前をつけられてしまいましたが、このひげを砂の中に入れて動かし小型の生き物を捕食するそうです。

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全長約16センチのアンコウの仲間カエルアンコウは泳ぎが苦手なので、手足のように見える胸びれと腹びれをつかって海底を歩きますが、とってもノロマです。エスカと呼ばれる疑似餌がクネクネと動き、おびきよせた獲物を一瞬で丸呑みにするという特技はすごいのですが、ゴツゴツした顔つき体つきもちょっぴり残念。。。

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1月 22, 2018 at 2:56午前 PST

本で紹介されている生き物のほか、サンシャイン水族館の飼育スタッフが考えた残念な生き物を加えた約20種類がご覧になれます。誰かに話したくなる展覧会です。

ざんねんないきもの展
http://www.sunshinecity.co.jp/campaign/cp/zannen/
2018年4月8日(日)まで

[店長]

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