映画「ファイティング・シェフ(El Pollo, el Pez y el Cangrejo Real)」
2年に1度、フランスのリヨンで開催されるボキューズ・ドール国際料理コンクール(Bocuse d'Or)。世界24カ国のシェフが腕を競う中、未だ入賞経験のないスペイン料理界の期待を背負って出場するへスース・アルマグロ(Jesús Almagro)を追ったドキュメンタリー。
スペイン語タイトルは、舞台となる2007年大会の課題素材、フランス・ブレス産の鶏肉(pollo de Bresse)、ノルウェー産のオヒョウ(pez balder)、ノルウェー産のタラバガニ(cangrejo rojo real)を並べただけのシンプルなもの。内容も、練習段階から大会での調理までという、これまたシンプルなもの。それほど期待しないで観たのですが、これが結構、面白いんです。へスースのキャラクターが良くて、だんだん応援したくなってきます。
練習段階では、毎週、同業者や関係者を集めて試食会を開くのですが、辛辣な批評にさらされた時の凹みっぷりがいいし、大会では、優勝候補であるフランスチームの料理の印象を訊かれ、「完成度が高い」と答えるときの切ない表情もいい。きっと良い人なんでしょうね。ペドロ・ラルンベ(Pedro Larumbe)という、セラーノ(ABC Serrano内)の店のシェフなんだそうですが、次回マドリードに行った時は寄ってみようかしら、という気分になりました。
あと、スペイン人の気質を知っている人なら、随所で笑えると思います。たとえばスペインの料理は即興的で規則性がないが、それだけ創造性が豊かだと言われるあたり。前回のスペイン代表(Restaurant COQUEのMario SANDOVAL HUERTAS)はダリに成りきって前衛的な料理でアピールしたけど箸にも棒にもかからなかったということで、へスースはみんなから正確さを心がけるように言われます。
下の写真は試作品と、試食会のPedro Larumbe(右)とAlberto Chicote(NODOのシェフ)。最終的な完成品はボキューズ・ドール2007のサイトに載っているのですが、魚料理がコレで肉料理はコレ。素晴らしい感じなんですけど、肉料理の上にのせたものが落ちていたりして、こういところがスペインっぽいのかも知れません。
それからへスースは33歳なんですが、最初から最後まで「心配でしょうがない」といった感じでママが出てくるんですよね。そのママ、大会後にヘスースが「450羽も調理したんでもう鶏肉は見たくない」と言っている傍らで、直径60cmくらいあるパエリア鍋で大量の鶏を炒めていたり。これがもう何ていうかスペインの家庭って感じで、なかなか美味しそう。
スペインではあまり高級なレストランに行かないのですが、以前、バルセロナのComerç 24というミシュラン1つ星の店に行ったことがあります。エルブリ(El Bulli)出身のシェフが開いた店で、モダンなタパスが売りなんですけど、岩海苔の揚げたものに金粉が振られていたり、ポテトチップに泡状(スプーマ)のオリーブ油が添えられていたり、ユッケみたいに黄身をのせたマグロのタルタルが出てきたり、パンに青海苔が入っていたり、正直言って、ぜんぜん好みではありませんでした。私には、オシャレな料理より、ちょっと不規則な料理の方が合っているのかも知れません。
[仕入れ担当]