映画「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い(Extremely Loud and Incredibly Close)」
「リトル・ダンサー」や「めぐりあう時間たち」のスティーブン・ダルドリー(Stephen Daldry)監督の最新作です。原作はジョナサン・サフラン・フォア(Jonathan Safran Foer)が2005年に発表した小説で、9.11で父親を失った少年オスカーの小さな一歩を描いていく物語です。
オスカーの父親役にトム・ハンクス(Tom Hanks)、母親役にサンドラ・ブロック(Sandra Bullock)と聞くと、マーケティングくさいハリウッド映画をイメージしますが、どちらかというと派手さを抑えた印象を受けるヒューマンドラマです。
9歳になるオスカーは物知りの賢い少年ですが、父親に誘われてもブランコに乗らない用心深い子ども。ニューヨークの六番目の区の痕跡探しに熱中していたり、ちょっと風変わりな部分もあります。
9.11で父親を失ったことをまだ受入れられずにいたある日、父親のクローゼットにあった青い花瓶を落として割ってしまい、そこに入っていた小さな封筒を見つけます。封筒の表面にはBlackと記されていて、中には鍵が1本。オスカーは、それを父親が自分に残したメッセージを解くための鍵だと信じ、六番目の区の痕跡と同じように探索を始めます。
電話帳でニューヨーク中のBlack姓を拾い出し、インデックスカードを作って整理して、一軒一軒、探し歩きます。9.11の後ですから、あの事件で父親を失った子どもが父親の情報を求めて訪ねてくれば、皆一様に同情を示し、悲しみを分かち合おうとするわけで、そのあたりはあの事件で傷ついた米国人のリアルな姿なのだと思います。
そのうち、祖母の家に間借りしている唖者の老人と知り合い、この“間借り人”がオスカーの探索に同行するようになります。この老人が誰かは映画を観てのお楽しみ。ちなみに原作ではドレスデン空襲という重要なサイドストーリーがあるのですが、映画では、この老人がドイツにいたことをほのめかすだけです。
この“間借り人”を演じているのはスウェーデンの名優、マックス・フォン・シドー(Max von Sydow)。映画「100歳の少年と12通の手紙」では、不治の病の少年を温かく見守る医師を演じていましたが、その少年の名前もオスカーでした。彼は今回の“間借り人”役、何も語らないこの難しい役柄で、今年度アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされています。
もちろんこの映画の主演は、トム・ハンクスでもサンドラ・ブロックでもなく、オスカーを演じたトーマス・ホーン(Thomas Horn)。ほとんど無名の少年ですが、本当に素晴らしい演技で、特に「今まで誰にも話したことがなかったんだけど…」と9.11の日の自分の行動を語るシーンは、涙なくして観られません。さすが「リトル・ダンサー」のスティーブン・ダルドリー監督、少年の撮り方が上手です。
結末の部分は原作とちょっと違うのですが、エンディングは小説と同じようにThe Falling Manの写真です。小説では、巻末のページをパラパラ漫画のようにめくっていくと、このThe Falling Manがどんどん上がっていくようになっています。※この写真については、どうぞEsquireの記事(英文)等をご覧ください。
9.11は、WTCで犠牲者が出たという直接的な悲しみだけでなく、米国に対する強い憎しみに、米国人が(少なくともインテリ層なら)気付いてしまったということも悲劇です。誇りに思っていた American way of life を否定された空虚な気持ちを、映画でも何度か言及されている、空っぽのまま埋葬されたオスカーの父親の棺桶が象徴しているような気がしました。
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