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2012年2月 1日 (水)

映画「預言者(Un prophète)」

Aprophet0 第62回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞し(パルムドールは「白いリボン」)、アカデミー賞の外国映画賞にフランス代表でノミネートされて(受賞は「瞳の奥の秘密」)注目を集めたにも係らず、日本ではなかなか公開されなかった作品です。

監督は「真夜中のピアニスト(De battre mon cœur s'est arrêté)」等で名高いジャック・オーディアール(Jacques Audiard)。しかし、コルシカ・マフィアの親分役のニエル・アレストリュプ(Niels Arestrup)を除くと、ほとんど無名に近い出演者ばかりで、また舞台が刑務所という地味な映画ですので、公開されただけでも僥倖と思うべきなのでしょう。

ちなみにニエル・アレストリュプ、ピアニストの父親役を演じた「真夜中の……」でも、後に射殺されてしまう悪人キャラでしたが、近作「サラの鍵」では、脱走したサラを匿う慈悲深い農夫役として、味のある演技を見せていました。

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ストーリーは、警官襲撃で懲役6年の刑を受けたアラブ系のマリックが、刑務所に送られてくるシーンで幕開け。11歳までしか学校に行っていないので、ほとんど文盲で、世間知らずの19歳の青年です。

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ある日、監獄を仕切っているコルシカ・マフィアから、同じ監房にいるアラブ系の囚人を殺すように命じられます。作業所で問題を起こして懲戒房に逃れようとするのですが、看守もマフィアと通じていて、絶対に逃れられないと悟り、結局、殺人を成功させます。

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仕事を成し遂げたマリックは、アラブ野郎よばわりされながらも、マフィアとの関係を強化します。アラブ系の受刑者たちから裏切り者として扱われますが、刑務所内で絶対的な権力を持ち、全体を仕切っているのは、コルシカ・マフィアの親分、セザールなのです。

マリックは刑務所内の施設でさまざまな勉強をすると同時に、マフィア同士の会話で使われるコルシカ語を耳で覚え、コルシカ・マフィアのやり方を少しずつ習得していきます。そして先に出所した仲間と共謀し、仮出所時に基盤を固めながら、じわじわと闇の世界におけるプレゼンスを高めていくというのがおおまかなストーリー。

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リアリティを追求したという、フランスの刑務所の描写は一見の価値ありです。コルシカ人やアラブ系の他、ジタン(ジプシー)も出てきますし、まず収監される時点で宗教を訊かれ、食の禁忌を確認され、それで監房を割り当てられるあたり、まさに人種のるつぼという感じです。異民族間に横たわる意識のズレのようなものを巧みに織り込みながら物語を進めていくあたり、ジャック・オーディアール監督のうまさだと思います。

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この映画を一言でまとめると、親もなく学問もないマリックが、収監をきっかけに成り上がっていく、一種の成長譚です。厳しい状況の中、ギリギリのところで生き抜くために必要な能力は、薄っぺらな正義や半端な教養とは無縁な知のパワー。そういうハードな世界観を含めて、映画の雰囲気というか、リズムというか、どことなく「シティ・オブ・ゴッド(Cidade de Deus)」に似た印象を受けました。

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また、結末の印象は大幅に違いますが、過酷な獄中を知恵の力で生き延びるという設定や、緻密に練られたプロットの積み上げという面で、2010年にスペインのゴヤ賞を総なめにした「プリズン211(Celda 211)」と相通じるものを感じました。こちらは、ちょうど今月、セルバンテス文化センターで上映会が催されるようですので(詳細はこちら)、同時代に撮られた2作のプリズン映画を見比べてみるのも一興かも知れません。

公式サイト
預言者A ProphetFacebook

[仕入れ担当]

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» 預言者 [ここなつ映画レビュー]
こういう映画を五臓六腑に染み渡る映画、というのか。ハリウッド的な派手などんぱちも、アクションも、そう沢山ある訳ではない。ただ、刑務所の中の生活を描くのみ。 しかし、その描かれ方が、とてもリアルで一方でファンタジーで、とてもいい。とあるフランスの刑務所の中で「コルシカ」と「アラブ」に派閥が分かれる所、どこに所属するかによって、守り守られる立場が明確になること(例え囚人でなくても、看守であっても)。「調達係り」という非オフィシャルなものや「配膳係り」というオフィシャルな係りなどが派閥によって分担さ... [続きを読む]

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