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2012年10月 1日 (月)

ラテンビート映画祭「悪人に平穏なし(No habrá paz para los malvados)」

Malvados0 今年のゴヤ賞(Premios Goya 2012)で、作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞など6部門を制覇した話題作です。

しかも作品賞と監督賞はアルモドバルの「The Skin I Live In」、脚本賞はウディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」をおさえての受賞ですから、今年のラテンビート映画祭で一番の注目作と言ってよいでしょう。すでに松竹系の配給で、来春の劇場公開が決まっているそうです。

映画はフィルムノワール風のサスペンスです。ひと言でいえば、粗暴な警官が殺人を犯し、目撃者を追ううちに、別の大きな事件に巻き込まれていく物語。

ふらっと入った酒場のコロンビア人オーナーの態度に激怒し、彼と店の女性、用心棒の3人を射殺してしまうサントス。2階にいたマグリブ系(=北アフリカ系)の若者に逃げられてしまい、彼を追うために死体から情報を集めます。

Malvados3

サントスはマドリード警察で行方不明者を担当している警官。もともと特殊部隊のエリートだったことが後に明らかになりますが、何らかの理由で閑職に追いやられているようです。署内のデータベースで死者の身元を特定し、逃げた若者に繋がる手がかりを探ります。

Malvados1

別の部署では、女性検事チャコンの指揮で、酒場の殺人事件の捜査が始まります。捜査を担当しているのが、昔のサントスを知るレイバ。サントスが現場から証拠品を持ち去ったせいで進展が遅れますが、サントスの周辺に捜査が及んでいきます。

Malvados2

殺されたオーナーが以前、コカインの取引に係っていたことがわかり、そこからナイトクラブ"Machuca"のオーナーに繋がっていき、"Machuca"の従業員から新たな方向に繋がっていき、という具合にストーリーが展開していきます。

この映画の特徴は、登場人物のキャラクター設定がとてもクリアなのに、主人公のサントスだけは正体不明なところ。駐コロンビア大使館にいたことなど、小出しに経歴が出てきますが、冒頭の殺人の理由をはじめ、サントスが何を行動原理にしているのか、ほとんど説明されません。

Malvados4

それにもかかわらず、サントス役のホセ・コロナド(José Coronado)の存在感と、社会のダークサイドに迫っていくスリリングな展開で、どんどん引き込まれていってしまうところが不思議です。

Malvados5

終映後にエンリケ・ウルビス(Enrique Urbizu)監督のインタビューがありました。最初、主演のホセ・コロナドが来日したのかと思ったほど、強面のところが似た雰囲気の人です。

監督曰く、この映画で描いているのは、完璧なシステムも人の小さなミスから破綻していく、という普遍的なことだそう。

また「サントスはアル中の人殺しで、その人格はまったく肯定できないが、映画を観た人に訊いてみると、善良さの象徴であるチャコン検事より、サントスに共感する人の方が多い」とのこと。確かに、エリートであるチャコン検事が官僚組織のセクショナリズムに悩まされる中、セクションの壁どころが善悪の壁も超えてしまう自由なサントスは魅力的かも知れません。

Malvados9

この映画を構想したきっかけは、2004年3月11日のスペイン列車爆破事件だそうです。ご存知の方も多いかと思いますが、マドリードを走る列車に時限爆弾が仕掛けられ、アトーチャ駅ほか10カ所で爆発、200人近い死者が出たスペイン史上最悪のテロ事件です。

スペインでテロ事件というと、誰でも、バスク地方の分離独立を目指すETAの犯行だと思ってしまうわけですが、この事件は、首謀者がアルカイダ系のイスラム過激派で、親米的な国に対する報復ということで、スペイン国民に大きな衝撃を与えました。

ちなみにこのテロは、事件の日に因んで11-M Masacre(3-11の虐殺)と呼ばれています。日本の3.11に対してスペイン人からの反応が早かったのも、この忌まわしい日付が脳裏に残っていたからかも知れません。ウルビス監督もインタビューの中で東日本大震災に言及していました。

公式サイト
No habrá paz para los malvados / facebook
悪人に平穏なし(ラテンビート映画祭2012の紹介ページ)

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