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2013年2月 4日 (月)

映画「東ベルリンから来た女(Barbara)」

Barbara0 渋谷のBunkamuraル・シネマで上映中のドイツ映画です。それほど話題になっていないようですが、前回のベルリン映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞していますし、今年のアカデミー賞(外国語映画賞)にもドイツ代表でエントリーしている感動的な人間ドラマです。

映画の舞台は1980年の東ドイツ。大都市ベルリンから田舎町の病院に左遷されてきた女医を中心に、同僚の医師や患者を交えて、共産圏だった当時の空気感がリアルに表現されています。

東ドイツの監視社会を扱った映画では「善き人のためのソナタ」が有名ですが、それとは逆に、監視される側に光を当て、抑圧と自由、女性の自立を描いていく映画です。

西側への移住申請が却下され、田舎町の病院に配属された女医バルバラ。同僚の男性医師アンドレが優しく接しますが、誰にも心を開こうとしません。実は、西側で暮らす恋人の手引きで東ドイツから脱出しようとチャンスを狙っているのです。

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そんなバルバラですから、秘密警察による監視も厳しく、頻繁に家宅捜査を受け、その度にゴム手袋をはめた女性から身体検査を受けます。

それでも医師としての誇りを保ち、患者には献身的に尽すバルバラ。物資が不十分な田舎病院で、少しずつ設備を充実させ、医療のレベルアップを図ろうと努力しているアンドレの誠実さに共感を持ち始めます。

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そんな中、労働施設から逃亡を図って警察の監視下で入院してきた少女と出会い、また自殺未遂で入院してきた少年を診るアンドレの姿勢を見ているうちに、バルバラの意識が少しずつ変わっていきます。果たしてバルバラの東ドイツ脱出計画はどうなるのか、という物語です。

まず、たかだか30年前に、この非人間的な監視社会が当然のように存在していたことにショックを受けます。この9年後にベルリンの壁が崩され、その後、東西ドイツが統一されるわけですが、それまで他者の視線に怯えながら暮らしていた東ドイツの人々が、あまりに不憫です。

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そして、そういう社会制度をものともせず、職業的な倫理と、人としての善を全うするバルバラの美しさに感銘を受けました。強い風が路傍の大木を揺らす中、田舎道を自転車で駆け抜けていくバルバラ。大きなものに飲み込まれず、自力で生きていく凛とした表情が魅力的です。

バルバラがその後、どう生きていったのかは描かれませんが、エンドロールに重なるChicの"At Last I Am Free"が、きっとそれを暗示しているのでしょう。中盤、ピアノで奏でるショパンといい、選曲のセンスが良いのもこの映画を味わい深いものにしています。

ル・シネマらしい、女性映画だと思います。ちょっと地味な作品ですが、美しく緊張感のある映像とともに、バルバラの女性としての価値観が印象に残る作品です。

公式サイト
東ベルリンから来た女Barbara

[仕入れ担当]

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