映画「危険なプロット(Dans la maison)」
「Ricky リッキー」や「しあわせの雨傘」の監督フランソワ・オゾン(François Ozon)の最新作。サスペンス風に展開するコメディ映画です。
舞台はパリ郊外のリセ。新たな教育方針の下で制服が導入され、それを平等主義と批判するジェルマンは旧いタイプの国語教師。
日頃から、代わり映えのしない毎日を惰性で過ごす生徒たちを嘆いているわけですが、ある日、生徒の1人、クロードの作文に目を留めます。
それは、数学を教えるという名目で出入りするようになったクラスメイトのラファの家庭を、小市民的な中流階級として皮肉を込めて描く作文。クロードは父子家庭で、障碍をもつ父は失業中。ラファは会社員の父と専業主婦の母の3人家族。
中国には出張で1回行ったきりなのに、さも中国通のように振る舞うラファの父親。家の建て替えを夢見て、毎日、インテリア雑誌ばかり読んでいるその妻。廊下にクレー(Paul Klee)の複製を何点も飾りながら、その題のドイツ語が読めず、意味すらわかっていない俗物ぶりを、クロードは冷徹に記していきます。
階級差と覗き趣味。どちらも文学の大切な調味料ですが、それに嵌まりこんだジェルマンは、クロードの作文の続きが読みたくて仕方ありません。彼の能力を伸ばすという建て前で、文学指導をしているだけなら良かったのですが、しまいにはクロードがラファの家族の信頼を得るための手助けまでしてしまいます。
作家志望だったジェルマンの指導の結果、次第にクロードの作文にフィクションの要素が加わるようになります。いわゆる“信頼の置けない語り手”に変化していくわけですが、ラファ家の物語に捕らわれたジェルマンはもう自由な読者に戻れません。クロードへの指導を通じて物語に影響を与えることに取り憑かれてしまい、自らが物語に入り込んでいってしまいます。
指導をやめ、物語との接点を断とうとしたとき、ちょっとブラックな結末が訪れるのですが、そこに至る過程で、ジェルマンと妻の関係が変化し、ジェルマンと社会の関係も変化していきます。そのあたりをフランソワ・オゾン監督らしいユーモラスな小ネタを交えながら描いていきます。
たとえば、ジェルマンが妻と観に行く映画はウディ・アレンの「マッチポイント」。元プロテニス選手が上流階級のコーチをしたことで友人を得て、裕福な家庭に入り込んでいくお話。ラストシーンのネット上のボールが印象に残る作品ですが、観たことがある人なら、どういう風に繋がっていくのか期待しながら映画を楽しむことができるでしょう。
また、クロードへの文学指導の中でジェルマンが言及するパゾリーニ監督「テオレマ」。テレンス・スタンプ演じる青年がブルジョア家庭の中に入り込み、各人の欲望を露呈させていくという物語ですが、こんな旧い映画を高校生が観ているとは思えませんので、これもオゾン監督の観客に対する仕掛けなのだと思います。
その他、アフリカのフェアトレード製品や韓国のスポーツ選手に対する意見など、日本人には書けないような皮肉を言わせたり、妻のギャラリーで展示される作品が「上海の空(ciel de Shangaï)」だったり、ジェルマンの勤務先がフローベール高校たったりと、随所にクスッと笑わせる要素が織り込まれています。
配役も豪華で、ジェルマン役には「しあわせの雨傘」「屋根裏部屋のマリアたち」のファブリス・ルキーニ(Fabrice Luchini)、その妻の役には「ノーウェアボーイ」「サラの鍵」「砂漠でサーモン・フィッシング」のクリスティン・スコット・トーマス(Kristin Scott Thomas)、ラファの母として「潜水服は蝶の夢を見る」のエマニュエル・セニエ(Emmanuelle Seigner)、画廊オーナーの双子として「セラフィーヌの庭」「ミックマック」のヨランド・モロー(Yolande Moreau)が出ていていました。
公式サイト
危険なプロット(In the house)facebook
[仕入れ担当]
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