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2014年11月 4日 (火)

映画「トム・アット・ザ・ファーム(Tom à la ferme)」

0 昨年公開の「わたしはロランス」で日本の映画ファンに衝撃を与えたグザヴィエ・ドラン(Xavier Dolan)監督の2013年の作品です。本作の次に撮った最新作「マミー」が、カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を獲得して話題になりましたが、こちらの公開は来年4月だそうです。

ということで、この“トムは農場で”という平凡なタイトルの作品ですが、これまたおそろしいほどの完成度です。あらゆるシーンが十分に練り上げられていて、無意味なカットはありません。きっとこの監督はすべてのイメージを細部に至るまで頭の中で組み上げることができるのでしょう。まさしく天才ですね。

幕開けは、鮮やかな青インクで紙ナプキンに弔いの言葉を書き連ねるシーン。そこにミッシェル・ルグラン「風のささやき(Les moulins de mon coeur)」のアカペラが重なってきて、たったそれだけで、まだ何も始まっていないのにグッときてしまいます。

ちなみに「風のささやき」がアカデミー主題歌賞に輝いた「華麗なる賭け」を撮ったノーマン・ジュイソン監督は、グザヴィエ・ドランと同じくカナダ出身。後で書きますが、本作ではアメリカのイメージがテーマの一部になっていて、このスティーブ・マックイーン主演作と同じ曲を使ったことにもドラン監督の意図が込められているような気がします。

それはさておき、車の中で紙ナプキンに弔辞を書いていたのが主人公のトムで、演じているのはグザヴィエ・ドラン監督その人。「わたしはロランス」にも端役で出ていましたので、その端正な顔立ちは知っていたのですが、演技力もなかなかのものです。特に、二律背反の状況に置かれたときの曖昧な表情など、何も語らず目で表現するのが巧いと思いました。

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トムの車が向かった先は農村の一軒家。コーンや大豆の畑に囲まれ、大きな牛舎もあります。そこは、トムの交際相手だった男性、ギョームの母アガサと兄フランシスが暮らす家で、トムがこの村を訪ねた理由がギョームの葬儀だということが明らかになります。

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アガサには温かく迎えられますが、問題はフランシス。ギョームがゲイであることを忌み嫌い、それを母に隠すため、ギョームにサラというガールフレンドがいるという作り話をしていたのです。当然のように、当事者であるトムが真実を語ることも禁じます。母の前で演技し続けることを強要するのです。

最初は、自らの主張を力ずくで押し付けてくるフランシスに反発していたトムも、次第に彼を理解しようと試み始めます。そしてフランシスの孤独な心をトムが受け止めたところから、二人の関係が転換するのですが、もちろんそれだけでは終わりません。曖昧な信念や欲望に振り回される姿を描くことで、ドラン監督らしく愛の本質に迫っていきます。

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終盤で明かされるように、暴力の権化であるフランシスと、それを許容してしまうトムの関係が、アメリカとカナダを象徴するものとして物語の下敷きになっているのですが、はっきり言って、そういう青臭い話はどうでも良いと思います。やはりドラン監督の凄さは、ヒトの本能的な衝動と社会的な立ち位置がぶつかる微妙な部分を、鋭く切り開いて映像化していくところでしょう。

どのシーンも印象的ですが、特にトムがコーン畑に逃げ込むシーン、トムとフランシスが納屋でタンゴを踊るシーンは記憶に焼き付きます。

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また、トムがバーに行く場面もいろいろな意味で重要なのですが、ここでバーテンダーを演じているマヌエル・タドロス(Manuel Tadros)は、ぜんぜん似てませんが、ドラン監督の父親です。

そんな小ネタを含めて、すみずみまで余すところなく堪能したい一本です。映画好きなら観ておいて損はないでしょう。

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公式サイト
トム・アット・ザ・ファームTom à la ferme

[仕入れ担当]

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