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2015年7月13日 (月)

映画「フレンチアルプスで起きたこと(Force Majeure)」

00 邦題だけ見ると山岳映画のようですが、登山隊やキャンプは出てきません。予告編の雪崩の映像はパニック映画だと早とちりさせそうですが、それもちょっと違います。では、どういう映画かというと、ひと言で説明するのは難しいのですが、敢えていえば、一種の心理サスペンスなのではないでしょうか。

サスペンスといっても、殺人事件などが起こるのではなく、ありふれた夫婦、4人家族の子供たちの父と母である二人が、ちょっとした出来事をきっかけに、精神的に追い込まれていくというストーリーです。

舞台はフランスのパラディスキー(Paradiski)エリアにあるレザルク(Les Arc)。ワーカホリック気味の夫トマスにようやく休暇をとらせた妻エバは、娘のヴェラと息子のハリーを連れてスウェーデンから5日間のバケーションにやってきます。

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地元にもスキーリゾートはありますから(撮影に使われたホテル、Copperhill Mountain Lodgeはスウェーデンにあります)、わざわざフランスまでスキーに行くということは、それなりに豊かな家庭だということ。善良そうな夫と可愛い子供たちに恵まれたエバは、ある意味、幸福な女性像を体現しているといえるでしょう。

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同じリゾートに滞在しているエバの友人シャルロットは、子どもを預けて一人で遊びに来ています。目的は新たな男性との出会い。結婚していても、夫婦それぞれ自由に楽しめばよいという奔放な女性です。もちろんエバは、そんな彼女の価値観に否定的で、夫婦は強い信頼関係で結びつくべきだと考えていますし、自分たち夫婦はそうだと信じています。

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ところが、リゾート滞在2日目にちょっとした事件が起こり、トマスに対する不信感が芽生えます。その事件というのは、スキー場が安全確保のため人工的に起こした雪崩が予想外に大きくなってしまい、観光客用レストランのテラス席に雪煙が舞うほど迫るというもの。幼子2人を抱きかかえて守ろうとするエバを尻目に、トマスはスマートフォンを握りしめて1人だけ逃げてしまったのです。

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結果的に何の被害もなく、他の観光客たち同様、彼ら家族も席に戻ってそのまま昼食をとるのですが、その晩、シャルロットたちとの会食の席で、エバはその話を蒸し返します。トマスは、自分は逃げていないと言い張り、それはエバの見方の問題だと押し通します。つまり、エバがそう思い込んでいるだけだという解釈。

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その場は収まったものの、エバのモヤモヤした気持ちは晴れません。翌日、トマスの旧友マッツと彼の20歳の恋人ファニがリゾートに到着します。彼らとの会食の席でもエバは同じ話題を持ち出し、トマスは見方の問題だと反駁しますが、雪崩を撮ったトマスのスマートフォン内の動画を再生したことで、トマスが逃げたことが明らかになってしまいます。

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非常時には思いがけない行動をとる場合があり、自分のイメージ通りの行動ができないものだと、マッツはトマスを擁護しますが、自尊心を根底から揺るがされたトマスは今まで通りのトマスではありません。そしてマッツも、その後、ファニからあなたも逃げ出しそうなタイプだと指摘されたり、離婚した家族に対する無責任な態度を責められたり、とばっちりを受けることになります。

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精神的に追い込まれたトマスはどうなっていくのか、追い込んでしまったエバはどう落とし所を見つけるのか、娘と息子は無事なのか、ということは映画を観てのお楽しみですが、この後、劇場が爆笑に包まれるシーンがあるということだけ明かしておきます。

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本作の面白さは、ちょっとした行動を起点に不信感がみるみる増幅されていく様子を、とことんスリリングに描いていくところ。かみ合わない2人を長回しで撮ることで観客の居心地を悪くしながら、ときおりスキー場の自然の音で脅かしてみたり、随所でビバルディ(「四季」の「夏」を使っているあたりも笑えます)を挟み込んだりして緊張感を盛り上げていきます。

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英語タイトルである“Force Majeure”(原題は“Turist”)は、フランス語由来の保険用語で“不可抗力”という意味だそうですが、フランスでは“Snow Therapy”というタイトルで公開されたそうで、鑑賞後、このフランス公開時のタイトルの意味がじわっと理解できる作品です。

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男性のダメな部分を限界までえぐり出していきますので、デートムービーには向かないかも知れませんが、個人的には観ておいて損のない映画だと思いました。ちなみに、北欧のマッチョな土壌には珍しい視点ですが、脚本・監督のリューベン・オストルンド(Ruben Östlund)は男性です。

2014年カンヌ映画祭のある視点部門で審査員賞を獲った後、注目が集まって既に米国でのリメイクが決まっているそうです。

公式サイト
フレンチアルプスで起きたことForce Majeurefacebook

[仕入れ担当]

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