映画「マジカル・ガール(Magical Girl)」
日本のアニメに憧れる白血病の娘のために、ヒロインのコスチュームを手に入れようとする父親を軸に展開する物語です。
といっても、お涙頂戴の要素は皆無ですし、日本のサブカルを取り入れただけのキッチュな作品でもありません。全体を覆うネオ・ノワール系のトーンと、先の読めない展開で観客を魅了し、登場人物たちのリアルな演技で独特な世界に引き込んでいく非常に上質な作品です。名匠アルモドバル監督が絶賛するだけのことはあります。
映画としても見ごたえありますが、モナドがお勧めする理由はもう一つあります。それはこの映画にマラババ(Malababa)が協力していること。
去年、モナドで大人気だったお仕事バッグ ASTERIA(詳しくはこちら)がプールサイドのシーン(下の写真)で登場する他、映画の中で使われているバッグのほとんどがマラババで、この映画のスタイリッシュな雰囲気を支える重要な小道具になっています。
映画の幕開けは数学のクラス。ロルカが一篇の詩も書かなかったとしても2たす2は4,ナポレオンが200年前にスペインを占領して我々が現在フランス語を喋っていたとしてもやはり2たす2は4、それが真理だと語っていた教師が、後ろの席でメモを回していた女子生徒を見つけます。
教壇の前に呼んでメモを見せるように言いますが、彼女はそれは不可能だと応え、なぜなら持ってないから、と握った手を開いてみせます。そのミステリアスな少女がバルバラ、そしてそれに翻弄される教師がダミアン。重要な4人の登場人物のうちの2人です。
場面と時代が変わり、元教師のルイスが古本屋に蔵書を売りに来ています。2キロだから5ユーロ、と言う古本屋に対して、ノーベル賞作家の「蜂の巣」が日曜大工の本と同じ価値なのか、と食い下がるルイス。しかし、ウチは重さで値段を決める店だし、評論をする気もないからと、にべもなく切り捨てる古本屋。
ちなみに「蜂の巣(La Colmena)」というのはカミロ・ホセ・セラ(Camilo José Cela)が1951年に発表した小説で、フランコ独裁が始まった1940年代のマドリードを舞台に、小役人やカフェの女主人、街娼や倒錯者など数十人の市井の人々を描いていく群像劇です。とりとめのない物語ですが、小説の中の言葉を借りれば「世の中はなるようにしかならない」というあたりがテーマと言えるかも知れません。
そんな小説を古本屋で売ろうとするルイスはこの不況でリストラされ、現在無職。アリシアという白血病の一人娘と暮らしていますが、医者から彼女の余命を告げられ、今は彼女の望みを叶えてあげることだけを目的に暮らしています。この父と娘が重要な登場人物の残り2人です。
アリシアの望みは、日本のアニメ「魔法少女ユキコ」になること。自分をユキコと呼び、友だちにもマコトとサクラという名前を付けているジャパニメ(Japanime)好きです。それを知ったルイスは、オークションサイトでユキコの衣装を買おうとしますが、7千ユーロもしていて失業者の身では手が出ません。
借金を申し込んだりいろいろ手を尽くしますが、どうしても金策できず、いよいよ犯罪に走るしかないと覚悟を決めたところで、ひょんなことで大人になったバルバラと出会います。
なりゆきで彼女を脅迫してお金をせしめたルイス。早速「魔法少女ユキコ」の衣装を購入してアリシアに贈りますが、喜んだのも束の間、今ひとつ満足していなそうな表情です。
その理由は、衣装セットに魔法のスティックが含まれていなかったから。改めてオークションサイトで探すと、スティックは2万ユーロという異常な高値で、二度と迷惑はかけないと約束したバルバラを再び脅迫することにします。
バルバラは冒頭の少女時代の後、ある事件をきっかけに精神状態が不安定になり、その関係もあって医師と結婚しているのですが、彼女が最初の7千ユーロを手に入れたビジネスは、非常に不安定だった時代に関わっていたもの。その仕事を繋いでくれた旧知の女性から、再びそこに行くことを反対されながら、彼女は独自のルートでそこにアクセスしてお金を手に入れます。
その結果、ボロボロになってしまった彼女が頼ったのが、昔の恩師であり、ある事件で服役していたダミアン。こうしてダミアンとルイスの接点が生まれ、物語は思いもよらない方向に急展開していきます。
そこで登場するのがトカゲのモチーフ。
彼女に起こったことは具体的に描かれませんが、彼女の額の傷がトカゲのように見え、江戸川乱歩「黒蜥蜴」のエピソードを連想させる仕掛けになっています。そしてエンディングの曲は美輪明宏が書いた「黒蜥蜴の唄」ということで、いろいろと深読みしたくなる作品です。
さらに言えば、バルバラのテーマのように使われている曲は“La Niña de Fuego”。ブイカも歌っていたフラメンコのクラシックですが、この“炎の少女”という題が彼女のキャラクターにぴったり合っていて、フランス公開時には映画のタイトルとして使われたそうです。つまり、この映画の主人公は「魔法少女ユキコ」を夢見るアリシアではなく、トカゲに因縁を感じさせるバルバラなのです。
そのバルバラを演じたのが、「エル・ニーニョ」の捜査官役、その前は「私が、生きる肌」に出演していたバルバラ・レニー(Bárbara Lennie)で、本作でゴヤ賞の主演女優賞に輝いています。
そして監督を務めたのは、新人のカルロス・ベルムト(Carlos Vermut)。イラストレーター出身で本作が長編デビュー作だそうですが、この1本で大きな注目が集まり、将来を嘱望されている監督です。
公式サイト
マジカル・ガール
[仕入れ担当]
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