ラテンビート映画祭「The Olive Tree(El olivo)」
ルイス・トサルとガエル・ガルシア・ベルナルが共演し、アカデミー外国語映画賞スペイン代表に選ばれた「雨さえも―ボリビアの熱い一日」(邦題:ザ・ウォーター・ウォー)の監督、イシアル・ボジャイン(Icíar Bollaín)の最新作です。
脚本は前作同様、彼女の私生活のパートナーであり、ケン・ローチ作品の脚本家として有名なポール・ラヴァーティ(Paul Laverty)で、本作でも多分に政治的な題材を巧みなストーリー展開で楽しませてくれます。
今回のテーマは、題名そのもの「オリーブの木」。大切にしていたオリーブの老木を息子が売り払い、それ以来、言葉を話さなくなってしまった祖父を思いやる孫娘が、オリーブの木を取り戻そうとする物語です。
ロケ地はバレンシア州カステジョン(Castellón)のSan Mateu。この界隈にはオリーブの老木が多いそうで、ちょっと調べてみたら、世界最古とされる樹齢1700年のLa Farga de Arionや、樹齢1180年のLa Farga del Pou del Masもカステジョンにあるようです。
ところが、スペインの不況でオリーブの老木が大量に伐採され、輸出されているそうで、それに触発されたポール・ラヴァーティが、オリーブ老木に強い思いを抱く祖父と孫娘の人間ドラマに仕立て上げたと、終映後に行われたティーチインでイシアル・ボジャイン監督がお話されていました。
主人公のアルマは、オリーブ農家で生まれ育ち、今は近所の養鶏場で働いています。祖父に対しては優しい孫娘ですが、激情しやすい性格で、父親をはじめ周りの人と衝突しがち。それでも父の弟である叔父や同僚のラファとは仲良くしています。ちなみにこの叔父、映画の中でAlcachofaというニックネームで呼ばれていますが、これはスペイン語でアーティチョークのこと。アルマの親友もWikiと呼ばれていたり、妙なニックネームが多い映画です。
この家には古くから伝わるオリーブの大木があり、根元が怪物のように見えることから、少女時代のアルマはモンスターと名付けて親しんでいました。祖父のラモンも、一家の象徴として老木を大切していて、二人はよくオリーブの木の下で時間を過ごしていました。
しかし、アルマの父はオリーブの老木が高値で取引されていることを知り、低迷を続けるオリーブ農家をやめてレストランを開業しようと、二人が大切にしていた大木を伐採して売ってしまいます。ラモンは落ち込んで言葉を話さなくなり、認知症気味なのか、ときどきオリーブの木を求めて徘徊して家族を困らせるようになります。
いなくなったラモンを探しに行くのは、いつもアルマの役目。おじいちゃん思いの彼女は、父親がオリーブを売ったせいでラモンがボケてしまったと思い込んでいて、過激な髪型をしてみたり、夜遊びをしてみたり常に父親には反抗的です。
ラモンのことが心配でならないアルマは、ある日、オリーブを伐採した業者を訪ね、売り先を調べます。そして、あのオリーブの老木がデュッセルドルフのエネルギー会社のロビーにあることを突き止め、トラック運転手である叔父と同僚のラファに協力するよう説得します。
結局、3人でドイツに向かうことになるのですが、問題なのは、オリーブの木が修道院にあり、手紙を送ったら返して貰えることになったと2人を騙したこと。実はエネルギー会社からはメールの返信すら来てなくて、まったくあてがないまま旅立つわけです。アルマの願いを叶えてあげようとする2人と、不安に押しつぶされそうなアルマの珍道中が続きます。
途中、叔父が「あいつには9万ユーロの貸しがある」といって立ち寄った家の庭から“自由の女神像”を奪ったり、”ドイツ人は背が高くて英語がうまくて、スペイン人を見下している”という会話が交わされたり、さりげなく世相を反映させながら、ユーモラスに物語を運ぶあたりがポール・ラヴァーティなのでしょう。オリーブを取り返したいというだけのシンプルな話が、じわっと感動させる結末に繋がっていきます。
祖父のラモンの存在感が際立ちますが、実は役者でなく、本物の農民だそう。刻まれたシワや佇まいがリアルなはずです。主人公のアルマを演じたのはTV女優出身のアナ・カスティージョ(Anna Castillo)。映画への出演が続き、これから期待の女優さんです。
そして、叔父を演じたのが「マーシュランド」のハビエル・グティエレス(Javier Gutiérrez)。今回は陽気で気の良い叔父さん役ですが、あいかわらず味のある演技を見せてくれます。
ラテンビート映画祭のFacebook
※追記:2017年に一般公開が決まりました。
公式サイト
オリーブの樹は呼んでいる
[仕入れ担当]
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