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2017年10月30日 (月)

映画「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ(The Price of Desire)」

00 コートダジュールの風光明媚なリゾート地、カップ・マルタン(Roquebrune-Cap-Martin)。その海辺に立つモダニズム建築の邸宅《E1027》は、長らくル・コルビュジエ(Le Corbusier)の作品だと思われていたそうです。

その実際の設計者がアイルランド生まれのインテリアデザイナーであるアイリーン・グレイ(Eileen Gray)で、この映画では彼女の知られざる半生と、ル・コルビュジエやフェルナン・レジェ(Fernand Léger)といった同時代のアーティトとの交流が描かれています。

建築家としてはあまり知られていませんが、家具デザイナーとしては非常に有名な女性です。ピエール・トレトン監督のドキュメンタリー「イヴ・サンローラン」でも描かれていた、あの世紀のオークションにアイリーン製作の《ドラゴン・ソファ》が出品され、その落札額は家具として史上最高額の21,905,000ユーロ(約27億円)だったといいます。

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本作の冒頭にもこの落札シーンが登場し、感想を求められた婦人の“Le prix du désir”という感嘆の言葉を英訳したものが原題となっています。

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1878年生まれのアイリーン・グレイは、ロンドン(Slade School of Fine Art)やパリ(Académie JulianやAcadémie Colarossi)で美術を学んで1906年に渡仏。第一次世界大戦による帰国などを経て1910年代後半からインテリアデザイナーとして頭角を現し、1922年にはフォーブール=サントノレに自身の店“Galerie Jean Désert”をオープンします。そして1926年から件の《E1027》の設計に取りかかります。

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この映画では、彼女のパートナーであり、《E1027》の共同設計者でもある雑誌編集者ジャン・バドヴィッチ(Jean Badovici)の繋がりで、ル・コルビュジエやフェルナン・レジェと知り合い、それぞれ南仏を拠点に活動する様子が描かれていきます。

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ちなみにジャン・バドヴィッチは1893年生まれのルーマニア人で、パリで建築を学んだ後、1923年に建築雑誌“L'Architecture Vivante”を創刊した人。この雑誌で特集を組もうとアイリーンに接近し、当時のアイリーンの恋人だったオペラ歌手ダミア(Marie-Louise Damien)との関係に割り込むかたちで交際を始めます。おわかりかと思いますがダミアは女性、つまりアイリーンはバイセクシャルです。

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本作の面白さは、もちろんアイリーンの生き方にあるのですが、笑えるのはル・コルビュジエのキャラクターです。演じているのは、その昔は美青年だったヴァンサン・ペレーズ(Vincent Pérez)で、彼がときおり観客に向けて語りかけるセリフが背景説明となり、映画の進行を支えます。

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日本では巨匠とあがめられているル・コルビュジエですが、この映画の中ではまったく形無しで、サヴォア邸の完成を聞いたアイリーンとジャンは、ようやくできたの?雨漏りするらしいよ、などと彼の大言壮語を鼻で嗤うような会話をします。日本で唯一のル・コルビュジエ建築である国立西洋美術館も、ル・コルビュジエはラフスケッチ(いわゆるポンチ絵)を書いただけで、実際に図面を起こしたのは前川國男だという話ですし、意外にこの映画で描かれたル・コルビュジエはリアルな姿なのかも知れません。

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とはいえ、彼が提唱した近代建築の五原則をアイリーンが忠実に守っていたり、それぞれの建築に対する考え方をぶつけ合ったり、当時のモダニズム建築について考える機会を与えてくれる要素もふんだんにあります。数年前にこのブログに書いたように、わたし自身、マルセイユのユニテ・ダビタシオンに泊まってみるような物好きですので、この手の映画は見逃せないということもあります。

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ついでながら、本作にはダミア役で懐かしのアラニス・モリセット(Alanis Morissette)が出演していて、ほんの少しですが歌も披露します。

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主役のアイリーンを演じたのはアイルランドで活躍するオーラ・ブラディ(Orla Brady)、ジャンを演じたフランチェスコ・シャンナ(Francesco Scianna)は「シチリア!シチリア!」主演のほか「ジョルダーニ家の人々」にも出ていました。フェルナン・レジェを演じたドミニク・ピノン(Dominique Pinon)は「アメリ」をはじめ「ミックマック」「天才スピヴェット」などジャン=ピエール・ジュネ作品の常連俳優ですね。監督・脚本は北アイルランド出身のメアリー・マクガキアン(Mary McGuckian)です。

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公式サイト
ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラThe Price of Desire

[仕入れ担当]

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