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2018年3月26日 (月)

映画「修道士は沈黙する(Le confessioni)」

00 「ローマに消えた男」のロベルト・アンドー(Roberto Andò)が監督した2016年の作品です。G8財務相会議の開催中に国際通貨基金の専務理事が自殺し、その前の晩に告解を受けた修道士が握る秘密を巡って、会議の参加者が腹の探り合いをするという物語。「オーケストラ!」のアレクセイ・グシュコブ(Aleksei Guskov)演じるロシア大臣が参加していますので、時代は2013年以前という設定のようです。

イタリア映画ですが、舞台は旧東独のリゾート地ハイリゲンダム。空港の車寄せを除くと、会議場となるグランド・ホテル(Grand Hotel Heiligendamm)内ですべてのシーンが完結するという一種の密室サスペンスで、バルト海を臨む風光明媚な景色と瀟洒なクラシックホテルの佇まいも見どころの一つです。ちなみにこのホテルでは実際に2007年6月のG8サミットが開催されています。

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映画の幕開けは空港の到着口。ロストック=ラーゲ空港(Rostock Airport)でしょうか。ブルカやニカブを被った女性に混じって白い修道服を着た初老の男が現れます。修道士は購入したばかりのICレコーダーを箱から出して動作を確かめてから、車寄せに出て空中浮遊パフォーマンスをする男を子どもの傍らで眺めます。そして迎えの車が到着します。

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続いて、緑に囲まれた一本道を走っていく車を空撮した映像。長回しで目的地のホテルまで撮り続け、観客の期待を煽ります。ホテルのゲート付近には警備車両が並び、VIPの集いだということがわかってきます。

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このホテルでG8財務相会議が開かれるのですが、その前夜祭的にIMF専務理事ダニエル・ロシェの誕生日ディナーが催され、そのゲストとして人気絵本作家の女性と、ロック歌手の男性、そして件の修道士が招かれたのです。

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食事に続いて、ロック歌手のギターに合わせて“Take a Walk on the Wild Side”で盛りあがったりするのですが、その後、修道士がロシェの部屋に呼ばれ、告解をしたいと頼まれます。

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そして修道士が部屋を去った後、ロシェはビニール袋を被って自殺してしまいます。そのビニール袋は修道士がICレコーダーを購入した際のもので、また深夜にロシェの部屋に出入りしていたこともあり、当然ながら彼が重要参考人となるわけです。

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修道士は、告解を受けたと明かすだけで、その内容は語りません。大部分の参加者は自殺だと思っているようですが、狂信的な人物による殺人の方が金融市場に与える影響が小さくて良いという参加者もいます。こういう方法で自殺した作家がいるとイエールジ・コジンスキー(Jerzy Kosiński)を暗示するセリフを語る人物がいたり、謎が深まっていきそうな気配を見せつつも、次々に謎が明かされていき、思いのほかシンプルな着地点に向かいます。

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面白いのは、疑惑が渦巻き、利害がぶつかる中で、互いに不信感を抱きながら交流する参加者たちの人間模様です。財務相会議という時点で既に国と国の対立があるわけですが、今回議決を予定していた政策が、富める国を富ませ、貧しい国を打ち捨てることに結びつくことから、財政に対する考え方のみならず、生き方や良心の問題にも関わってきます。またその背景にある国民性や、修道士や宗教に対する意識などさまざまな事情も絡み合います。

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たとえば「フォンターナ広場」のピエルフランチェスコ・ファヴィーノ(Pierfrancesco Favino)が演じたイタリア大臣。お国柄か、最後まで修道士に対する敬意を失わず、語り合う度に決断が揺れます。そして最終的に自分の立ち位置、考え方を改めて見つめ直すことになります。もちろん金融危機に対するイタリアの状況も反映されています。

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またロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの団員だったという伊川東吾(Togo Igawa)が演じた日本大臣。ロシェは、50万ドルとも100万ドルとも言われる高額の講演料を受け取るカネの亡者だったと修道士に伝えます。おそらく他人からの恨みを買ってもおかしくないと告げる役回りだったのでしょうが、カネにまつわる醜聞を嫌う日本人というイメージも含まれているような気がします。

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マリ=ジョゼ・クローズ(Marie-Josée Croze)演じるカナダ大臣が意外に奔放で、コニー・ニールセン(Connie Nielsen)演じるさばけた感じの絵本作家クレール・セスが信心深かったりするのも国民性の表現かも知れません。次第に各自の個性が顕わになり、ロシェの知られざる姿も明らかになっていきます。クライマックスを彩る重要な鍵が修道士の前職にあるのですが、そのあたりはご覧になってのお楽しみです。

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修道士ロベルト・サルスを演じたのは「イル・ディーヴォ」「グレート・ビューティー」のトニ・セルヴィッロ (Toni Servillo)。対するIMF理事ダニエル・ロシェを演じたのはフランスの名優ダニエル・オートゥイユ(Daniel Auteuil)。2人とも味のある役者ですね。それを自身もオープンリーゲイであるランベール・ウィルソン(Lambert Wilson)や、「ソウル・キッチン」のモーリッツ・ブライプトロイ(Moritz Bleibtreu)といった実力ある俳優陣が支えます。

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いろいろ小ネタが散りばめられていて、随所でクスッと笑える映画です。私は、ロシェが語ったというジョークが刺さりました。心臓移植を待つ患者に4歳のドナーがいると言ったら、若すぎると拒否され、30歳のファンドマネージャーはどうかと訊いたら、そいつには心臓(ハート)がないからダメだと言われ、70歳の銀行家はいかがと訊くと、それはいい、そのハートは使われたことがないはずだから、という自虐ネタ。実は本作の主題でもあります。

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映画の途中、PETAが乱入するシーンがありますが、実際のハイリゲンダムサミットのデモ活動はとても激しかったそうで、グリーンピースが船で上陸して塗料を投げつけたりしたそうです。ということで高級ホテルを舞台にスタイリッシュに仕上げられている本作、作り手の立ち位置が財務相側でないことは言うまでもありません。

公式サイト
修道士は沈黙する

[仕入れ担当]

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