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2018年4月23日 (月)

映画「ロンドン、人生はじめます(Hampstead)」

00_2 ダイアン・キートン(Diane Keaton)といえば、まず「アニー・ホール」を思い出す方も多いのではないでしょうか。本作は、あの頃の彼女を彷彿させるファッションと立ち居振る舞いが楽しめるロマンティック・コメディです。70歳を超えてなお、40年前の“ダイアン・キートンらしさ”を発揮できるというのは素敵なことですね。

物語の舞台はロンドンの高級住宅街ハムステッド。ダイアン・キートン演じる未亡人のエミリーは、ボランティアショップで働きながら、瀟洒な集合住宅で独り暮らしです。近隣との付き合いもそれなりにあり、離れて暮らす一人息子もときどき訪ねてきているようで、一見、満ち足りた生活のように見えます。

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しかし実情はといえば、亡き夫が残した借金があり、滞納している税金の督促状が毎日のように届くありさま。映画の冒頭、ショーウインドウに飾られたベレー帽に惹かれつつも、£124(2万円弱)という値札をみて断念する場面があり、慎ましく暮らそうという心掛けがさりげなく示されます。

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冷静に考えればボランティアなどしている場合ではないのですが、自分で収入を得たことがない彼女が、借金返済のために働くのは障壁が高すぎます。息子から、とりあえず不要品を売ってみたらと勧められ、屋根裏を探っていると荷物の中から旧い双眼鏡が出てきます。それで窓の外を眺めていて、森の中の掘っ立て小屋で暮らす男の存在に気付きます。

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ある日、双眼鏡を使っていると、掘っ立て小屋に数人の男が押しかけ、彼に暴行を加えるところを目撃します。警察に通報してその場は収まるのですが、後日、署名運動の手伝いで近くを通った際、彼の掘っ立て小屋を見に行ってみます。小屋は留守でしたが、墓地で偶然に出くわして二人は知り合いになります。

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このとき、その男ドナルドが腰掛けているのが、カール・マルクスの胸像の土台。調べてみたらハイゲイト墓地に葬られている(Map)のですね。ハムステッドヒースというと、緑地の西側にあるハイストリートのイメージですが、ハイゲイト墓地は東側にあります。ドナルドが泳いだり、釣りをする場面が出てきますが、緑地の東側には池が多いようなので、きっとそちら側を中心としたお話なのでしょう。

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ドナルドは掘っ立て小屋で暮らしていますが、小屋の中は意外にきれいです。また読書家でもあります。エミリーと交わす会話の中で、ロセッティ(Dante Gabriel Rossetti)が妻の埋葬時に自分の詩を一緒に埋めたというエピソードが出てきますが、そのエリザベス・シダルもハイゲイト墓地に葬られています。ちなみに件のエピソードは、掘り起こした際に遺体が生前の美しさを保っていたという伝説だそうで、ドナルドはそれを手ひどくこきおろしたわけです。

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そうこうしているうちに、エミリーは自由なドナルドに惹かれていくのですが、階下の友人フィオナが紹介してくれた会計士ジェームズが熱心に言い寄ってきて板挟みになります。ジェームズは、エミリーの財産管理を手伝ってくれるだけでなく、彼女を支援しようと申し出るだけの財力があります。また、フィオナとの関係を考えると無碍にはできません。

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その上、界隈にホームレス(といっても小屋があるのですが)が暮らしていると住居の不動産価値が下がるといって、ドナルドを追い出そうとする人もいます。さらにいえば、冒頭で彼に暴行した男たちは立ち退きを迫る地主の手先のようで、実際、ドナルドは裁判所に呼び出されているのです。世間体を考えると、そんな彼と交際するわけにはいきません。

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といってもロマンティック・コメディですから、ご想像通り、エミリーがドナルドを勇気づけ、裁判に出廷させる方向に展開していきます。そこでポイントになるのは、スクワッター(squatter:不法定住者)の権利として、12年以上にわたって住んでいることが証明できればその不動産の所有権を主張できるという法律。2012年の法律改正で住居用不動産の占拠は罰せられることになったようですが、いまだに商業用不動産については議論が続いているようです。

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本作の監督ジョエル・ホプキンス(Joel Hopkins)によると、この映画のアイディアは、実際にハムステッドヒースの小屋で暮らし、2百万ポンド以上の価値があるとされる土地を裁判で勝ち取ったHarry Hallowesの逸話から思いついたそう。日本人にはピンときませんが、欧州のスクワッティングには複雑な背景があり、さまざまな運動(たとえばSquash Campaign)が行われています。表面的には他愛ない映画ですが、その背景には意外に奥深いものがあるようです。

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映画の主な出演者としては、ドナルド役を「未来を花束にして」の警部役ブレンダン・グリーソン(Brendan Gleeson)、フィオナ役を「家族の庭」のレスリー・マンヴィル(Lesley Manville)が演じ、この2人の実力ある俳優がダイアン・キートンを支えます。「クーパー家の晩餐会」のときとは一味違った彼女を楽しんでください。

公式サイト
ロンドン、人生はじめますHampstead

[仕入れ担当]

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