映画「モリーズ・ゲーム(Molly's Game)」
「ソーシャル・ネットワーク」「スティーブ・ジョブズ」の脚本家、アーロン・ソーキン(Aaron Sorkin)の初監督作品です。原作は2014年に出版されたモリー・ブルーム(Molly Bloom)の自叙伝で、モーグルでオリンピック選手候補にまでなった彼女が、非合法のポーカーゲームに関与し、成功と挫折の日々を送ることになる顛末が描かれていきます。140分という長さですが、アーロン・ソーキンらしい小気味良い運びで観客を飽きさせることはありません。
主人公であるモリー・ブルームという女性、1978年にコロラド州で生まれ、州立大学で臨床心理学教授を務める父とスキーインストラクターの母のもとで育てられたそうです。
弟のジェレミー・ブルームは2度のオリンピック出場を果たしたスキーヤーであると同時に、コロラド大学で活躍し、フィラデルフィア・イーグルスやピッツバーグ・スティーラーズに所属したフットボール選手。引退後はウォートン校で学んで起業を目指すなど米国式サクセスストーリーの標本みたいな人ですが、姉のモリーもおそらく似たタイプですので、怪我で引退を余儀なくされなければ、競技スキーを続けながらロースクールで学んでいたことでしょう。
しかし、大会中の事故でオリンピック出場の夢が潰え、2003年からL.A.で独り暮らしを始めます。水商売を含むさまざまなアルバイトをしたようですが、2004年からはナイトクラブ“The Viper Room”の共同経営者だったダリン・ファインスタインが主催していた高額ポーカー賭博の手伝いを始めます。ちなみにこの“The Viper Room”、大物ハリウッド俳優が出入りすることで有名で、リバー・フェニックスが薬物の過剰摂取で亡くなった場所だそうです。
映画では、ダリン・ファインスタインはディーン・キースと名前を変えられていますが、それ以外にもここの常連だったトビー・マグワイアがミスターXという役名で登場します。時代でいえば「スパイダーマン」がヒットした頃でしょうか。
アーロン・ソーキンの脚本らしく時間軸が前後しながら進むこの映画、冒頭はスキーで負傷するシーンですが、すぐに起訴されてからの場面に変わり、それまでの出来事と、裁判に至るまでの様子が並行して描かれます。そして最後は再びスキーの競技会に戻り、彼女の原点を確かめながらエンディングを迎えます。
主役は「女神の見えざる手」の好演が記憶に新しいジェシカ・チャステイン(Jessica Chastain)。「ツリー・オブ・ライフ」「ヘルプ」「インターステラー」の他、彼女自身が製作・主演した「ラブストーリーズ」も観ていますが、出演作ごとにいろいろ変化できる女優さんですね。とはいえ、本作のような意志の強さで世わたりしていく女性の役が一番しっくりくるような気がします。
見どころは、彼女がL.A.に転居してから、高額ポーカー賭博の世界にどっぷりとつかっていく様子でしょう。私設カジノを開いても、手数料をとらなければ罪に問われないということで、チップで荒稼ぎするモーリー。当初はJ.C.ペニーで買った88ドルのワンピースを着ていましたが、すぐにバーニーズで買い物するようになります。
彼女から連絡がなければゲームに呼んで貰えないということで、チップをはずむギャンブル中毒のセレブたちと、そのセレブとポーカーテーブルを囲みたいという有象無象だけを相手にしていれば良かったのですが、そのうち闇の世界の人たちの手が伸びてきます。
私はポーカーの遊び方がわかりませんので、ゲームの緊迫感しか味わえませんでしたが、ルールを知っている方、カジノで勝負したことがある方でしたら、ある種のリアリティを感じるかも知れません。べらぼうな額の大金が動き、そのスリルに取り憑かれてしまう男たち。なぜか女性の参加者はいなくて、仕切っているモーリーと彼女が雇ったホステスたちだけが女性です。
そこで女王として君臨するモーリーですが、最終的にはFBIに逮捕され、弁護士に頼ることになります。その弁護士を演じたのがイドリス・エルバ(Idris Elba)。彼とのやりとりを通じて事件の真相が解き明かされていきます。
実際は裁判の経緯を含めた自叙伝が刊行され、それに基づいて本作が作られたわけですが、映画の中では、弁護士が自叙伝を拾い読みして物語が進みます。そしてイドリス・エルバの熱弁が、この事件のクライマックスを導く重要な見せ場となります。
もう一つの見せ場となるのが父親ラリー・ブルームとの会話。モーリーと家族の関係が明らかになり、本当の意味で事件の解決を迎えます。登場する場面は多くありませんが、ラリーを演じたケビン・コスナー(Kevin Costner)の存在感が光ります。
実話ベースである故の難しさ、たとえば原作者であるモリーに対する甘さも感じましたが、それを除けばアーロン・ソーキンならではの鋭さが味わえる映画です。長距離便のインフライトムービに最適な1本ではないでしょうか。
公式サイト
モリーズ・ゲーム(Molly's Game)
[仕入れ担当]
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