映画「バトル・オブ・ザ・セクシーズ(Battle of the Sexes)」
伝説的な女子テニスプレーヤー、ビリー・ジーン・キング(Billie Jean King)の“性差を超えた戦い”を描いた作品です。主役を「バードマン」「ラ・ラ・ランド」のエマ・ストーン(Emma Stone)、対戦相手のボビー・リッグス(Bobby Riggs)を「フォックスキャッチャー」「マネー・ショート」「30年後の同窓会」のスティーブ・カレル(Steve Carell)が演じるというキャスティングにも惹かれますが、それにも増して興味深いのが1973年に行われたこの試合のテーマがウーマンリブと男性優位主義の対決ということ。
ジャック・クレーマーが主催するPacific Southwest Championshipsの女子優勝賞金が男子の12分の1に過ぎないことに抗議してWomen’s Tennis Association(WTA)を立ち上げたキング夫人(と日本では呼ばれていました)の主張と活動は、先ごろの「ゲティ家の身代金」追加撮影やニュースキャスターのキャット・サドラーの一件で注目を集めたギャラ格差問題など半世紀近く経った今もなお男女同権運動の背骨であり、ある意味、タイムリーな作品と言えます。
監督は「リトル・ミス・サンシャイン」のアカデミー作品賞ノミネートで脚光を浴びたジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス(Jonathan Dayton & Valerie Faris)。元々はミュージックビデオや企業広告の分野で活躍していた夫婦です。脚本は「スラムドッグ$ミリオネア」でアカデミー賞を獲ったサイモン・ボーファイ(Simon Beaufoy)で、同作のダニー・ボイル(Danny Boyle)監督もプロデューサとして参加しています。このスタッフの顔ぶれでおわかりのように、ウーマンリブをテーマにしながらも政治色を前面に打ち出さず、明るくユーモラスな作品に仕上げています。テンポの良い展開と気の利いた会話、当時の雰囲気を伝えるカラフルなファッションが楽しい映画です。
物語は女子テニスの世界チャンピオンであり、ウーマンリブ運動の象徴でもあるビリー・ジーン・キングに光を当てつつ、既婚者でありながら同性愛に傾いていく心の揺れを描いていきます。時代は1973年。その前年の全米オープン準決勝でライバルのマーガレット・スミス・コート(日本ではコート夫人)を破って優勝を果たしたキングでしたが、賞金の男女格差に強い憤りを感じて、ワールド・テニス誌の発行人であるグラディス・ヘルドマン(Gladys Heldman)が主催する女子テニスの大会、Virginia Slims Circuitに参画します。
大会の顔であるキングのもとに、第二次大戦時にテニス界のスターだったボビー・リッグスから電話があります。ウーマンリブの闘士であるキングと男性優位主義者(male chauvinist)であるリッグスがコート上で対決することで、賞金の男女格差の理由が明らかにしようという挑戦です。といっても、リッグスに強い思想性があったわけではないようで、どちらかというと興行的な意味合い、目立つこととそれで得られる収入が目的だったようです。
その申し入れをキングが拒否したことから、リッグスはコート夫人を巻き込んで、5月13日の母の日に男女対決を実現させます。55歳のリッグスと30歳のコートの対決でしたが、6–2、6–1でリッグスが圧勝。カリフォルニア州ラモナで行われた試合には5,000人のファンが集まったそうですので、脚光を浴びるという目的はそれなりに達成できたようです。
その結果に挑発されるかたちで9月20日、キング対リッグスの対決が実現します。試合が行われたテキサス州ヒューストンのアストロドームには30,472人が集まり、ABCネットワークを通じて全米5,000万人、世界9,000万人がテレビ観戦したそうです。興行的には大成功と言えるでしょう。
映画では、この試合に至る過程でヘアドレッサー(実際は秘書だそうですが)のマリリン・バーネットに惹かれ、夫ラリー・キングとの間で葛藤するビリー・ジーン・キングの姿が描かれます。こういう映画を観るとどうしてもファクト・チェックがしたくなりますが(ちなみに“ファクト”はこの映画のキーワードの一つです)、ビリー・ジーンとマリリンの関係は映画のように美しく終わらなかったようで、彼女との後日談を読んでいてgalimonyという単語を覚えました。同棲相手と別れる際に支払う手当をpalimonyと呼ぶのに対し、同性愛者限定(特に女性同士)で使われる言葉だそうです。勉強になりますね。
それはさておき、映画ではビリー・ジーンを演じたエマ・ストーンとマリリンを演じたアンドレア・ライズボロー(Andrea Riseborough)の組み合わせがとっても良い感じです。2人がドライブするシーンではラジオからエルトン・ジョンのRocket Manが流れていますが、エルトン・ジョンはビリー・ジーン・キングのファンだったそうで、彼女に捧げたPhiladelphia Freedomという曲(Youtube)もあります。
その他、主な出演者としてはグラディス・ヘルドマン役で「テイク・ディス・ワルツ」のサラ・シルバーマン(Sarah Silverman)、元テニス選手でデザイナーのテッド・ティンリング(Teddy Tinling)役で「チョコレートドーナツ」のアラン・カミング(Alan Cumming)、ジャック・クレーマー役でビル・プルマン(Bill Pullman)、リッグスの妻のプリシラ役でエリザベス・シュー(Elisabeth Shue)が出ています。
公式サイト
バトル・オブ・ザ・セクシーズ(Battle of the Sexes)
[仕入れ担当]
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