映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス(Buena Vista Social Club: Adios)」
もう18年も経つのですね。ヴィム・ヴェンダース監督が撮ったキューバの老ミュージシャンたちのドキュメンタリー「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の続編が公開されました。
ミュージシャンたちのその後を中心に、彼らの生い立ちから前作で登場したコンサートシーンの裏側まで見せてくれます。監督はずっとドキュメンタリーを撮っている英国人女性のルーシー・ウォーカー(Lucy Walker)で、ヴェンダースもプロデューサーとして参加しています。前作の撮影シーンで映るヴェンダースが若くてびっくりです。
映画の始まりで登場するのは本作でナビゲーター的な役割を務めるファン・デ・マルコス・ゴンザレス(Juan de Marcos González)。Afro-Cuban All Starsのバンドリーダーとして老ミュージシャンと交流していた彼が、ライ・クーダー(Ry Cooder)のプロジェクトに参画したことでアルバム“ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ”が生まれたわけですから、重要な立役者の1人と言えるでしょう。
彼が赴いた先は、ダンスクラブ“Buena Vista Social Club”があった場所。昔は白人用と黒人用のクラブが分けられていて、“Buena Vista Social Club”は黒人用のクラブとしてたいへん賑わっていたそうです。現在は民家やスポーツジムとして使われているようですが、床のタイルなどは往時のままとのこと。その伝説のクラブが閉鎖されて半世紀後の1997年、そこで活躍した老ミュージシャンたちに再び脚光が当たることになります。
今回の映画の中で、キューバとの国交回復を為し遂げたバラク・オバマ大統領(当時)が、ホワイトハウスに彼ら(といってもオリジナルメンバーのほとんどが亡くなっていましたが)を招いたときの映像が使われていますが、オバマ氏もアルバム“Buena Vista Social Club”のリリース時にCDを買ったと語っていました。それほど大ヒットしたアルバムに続き、ヴィム・ヴェンダースのドキュメンタリー映画を通じて世界中から知られるようになるわけです。
その中心メンバーの1人、ヴォーカルのイブライム・フェレール(Ibrahim Ferrer)は、このアルバムが録音される前まで、音楽から離れて靴磨きで生計を立てていたそうです。誰かがオマエのことを探していたぞと言われ、カネを払ってくれるならということで招聘に応じたと語っていました。物乞いのラザロを篤く信仰しているというイブライム、それまでの苦労あってのことかも知れませんが、ステージ上でのサービス精神も旺盛で、おそらく最も人気のあるメンバーだったのではないでしょうか。
彼と双璧をなす人気者、コンパイ・セグンド(Compay Segundo)は常に変わらないダンディーなスタイルで登場。街の人々に囲まれて語らうシーンでも、ポジョ(鶏肉)もアモーレ(愛)もほどほどがいい、と色男らしい警句を振りまきます。映画のタグラインに使われている“Las flores de la vida llegan tarde o temprano, pero sólo llegan una vez”(人生の開花は遅かれ早かれやってくるが一度だけだ)も彼らしい喩えで洒落てますね。
コンパイ・セグンドとピアニストのルベーン・ゴンサーレス(Rubén González)が2003年に亡くなり、イブライム・フェレールも2005年に亡くなっていますが、バンドのディーバであるオマーラ・ポルトゥオンド(Omara Portuondo)は87歳になる今も健在です。彼女は若い頃、姉と一緒に4人組みのコーラス・グループに参加していたそうで、当時の映像が使われているのですが、歌の上手さも踊りのキレも際だっていました。生まれながらのスターなのでしょう。
本作もオリジナル版の「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」と同じく、ハバナの街なかの風景がふんだんに登場します。また、イブライム・フェレールやコンパイ・セグンドの出身地であるサンティアーゴ・デ・クーバも取りあげられています。どちらも海岸線が美しい街で、風情ある街並みを観ているだけで今すぐ旅に出たくなってしまいます。
またここで暮らす人々も魅力的です。誰もが身体に音楽が染み込んでいる感覚というのでしょうか。オムニバス映画「セブン・デイズ・イン・ハバナ」に、エミール・クストリッツァがタクシー運転手のジャム・セッションに案内され、素晴らしいトランペットに魅了されるという一編がありますが、ああいうことが普通に行われていそうな雰囲気があります。
そしてみんな明るく元気なこと。ラムは飲むし葉巻は吸うし、まったく健康的な暮らしには見えませんが、コンパイ・セグンドは95歳まで、ルベーン・ゴンサーレスは84歳まで生きました。イブライム・フェレールは78歳と、彼らの中では短命な方かも知れませんが、亡くなる2週間前までヨーロッパ公演のステージに上がっていたそうで、そんな生き方に憧れます。
日本からのメキシコ直行便も増え、ほんの少し行きやすくなったキューバ。米国の旅行産業に荒らされる前に訪れておきたいものですね。
[仕入れ担当]
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