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2019年3月 4日 (月)

映画「グリーンブック(Green Book)」

00 今年のアカデミー作品賞受賞作です。実話ベースですので良くも悪くも非常にシンプルなお話で、音楽エリートである黒人ジャズピアニストと、ブロンクス育ちのインチキ野郎(the best bullshit artist in the Bronx)であるイタリア系白人運転手が、人種差別が濃厚だった1962年の米国南部を旅するうちに心を通わせ合うというもの。ピアニストのドクター・シャーリー(Don Shirley)を「ムーンライト」に続いて本作でもアカデミー助演男優賞に輝いたマハーシャラ・アリ(Mahershala Ali)、イタリア人運転手トニー・リップ(Tony Lip。本名はFrank Anthony Vallelonga Sr.)をヴィゴ・モーテンセン(Viggo Mortensen)が演じています。

監督は、懐かしの「メリーに首ったけ」を監督したファレリー兄弟の兄の方、ピーター・ファレリー(Peter Farrelly)で、どちらかというとコメディで知られている人です。この「グリーンブック」も監督の持ち味を活かした、笑いをちりばめた人間ドラマ。ひねりのない物語ですので重要なのは気の利いた会話と演じる人のそれらしさということになりますが、マハーシャラ・アリについては最初から決めていたそうです。ヴィゴ・モーテンセンについては「はじまりへの旅」を観た監督が何としても出演して欲しいと思い、手紙を出したと雑誌で紹介されていました。その結果としてのアカデミー作品賞ですね。

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ちなみにヴィゴ・モーテンセンは北欧系だそうで、見ての通りイタリア系ではありませんが、語学能力が高いのでしょう。「偽りの人生」で流暢なスペイン語を喋っていたのと同じように、本作ではイタリア語を交えて演技しています。また体重を20ポンド(約9kg)増やしたということで、「はじまりへの旅」はおろか「オン・ザ・ロード」や「ギリシャに消えた嘘」の面影はありません。

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陸軍兵士としてドイツに駐留した後、1961年からNYのナイトクラブ、コパカバーナでウェイターをしていたトニー・リップが店の改修工事で休業となり、収入源を探していたときにドクター・シャーリーの運転手の仕事を紹介されます。育った環境から半分チンピラのようなイタリア人ですから、黒人だけでなく、ユダヤ系や東洋人に対しても偏見に溢れていて、普通に考えれば適任とは言えません。しかし、ドクター・シャーリーが求めていたのは、単に車を運転するだけでなくトラブったときに対応できる用心棒的な運転手であり、コパカバーナで問題解決能力を磨いてきたトニー・リップが採用されます。

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なぜトラブル対応が必要かといえば、ドクター・シャーリーが主宰するドン・シャーリー・トリオの次のコンサートツアーが米国南部に向かうものだから。ツアーの最終目的地が、当時、最も人種分離が激しかったアラバマ州バーミングハムということで、ツアーが進むにしたがってどんどん差別がひどくなっていきます。なぜバーミングハムかといえば、映画では具体的に示されませんが、おそらく公民権運動を象徴する街だからでしょう。この頃のアラバマ州政府の話は「グローリー/明日への行進」にも出てきますし、「ビール・ストリートの恋人たち」のお母さんもバーミングハムからNYに出てきたという設定になっています。

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最初のコンサートはペンシルバニア州ピッツバーグ。客層もそれなりですのでトニー・リップの仕事も簡単ですが、その道中でドン・シャーリー・トリオのメンバーであるドイツ人と小さなトラブルを起こします。敗戦国ドイツに対するトニー・リップの蔑視も相当なもので、このおかげでツアー終盤までこのドイツ人と敵対することになります。

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とはいえ、ドクター・シャーリーに対する偏見は、彼の演奏を聴いていくうちに消えていきます。

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元々クラシックを学んだドクター・シャーリーですので、得意なのはショパンやリストやシューベルトだそうですが、黒人であるが故にポピュラーミュージックの演奏も求められるとのこと。そのエピソードを反映させたのか、前半でHappy Talkが2回演奏され、互いに打ち解けていくドクター・シャーリーとトニー・リップの心境に重なっていきます。きっとエラ・フィッツジェラルドのカバーという設定でしょうが、私の世代でしたらキャプテン・センシブルですね。演奏しているのは本作の音楽監督クリス・バワーズ(Kris Bowers)で、マハーシャラ・アリのボディダブルも務めています。

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ケンタッキーフライドチキンやピザの丸喰いなどの小ネタを活かしながらテンポ良く物語が進んでいきます。おかげで黒人差別を描いた映画ながら暗澹たる気分にはなりません。本作のタイトルであるグリーンブック、正確に記せばThe Negro Motorist Green Bookですが、これは黒人が旅行先で困らないように宿や食堂、ガソリンスタンドなどが紹介されているガイドブックで、その前提にあるのは黒人を受け入れない施設やサービスがあるということ。

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映画の中にもドクター・シャーリーだけがシャビーな黒人用モーテルに泊まる話が出てきますし、日没後に黒人が外出していることを違法として(いわゆるSundown townですね)警察に咎められる場面も登場します。

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そもそも黒人が自動車で旅するのも、公共交通機関だと差別があって面倒だからだそうで、これが1962年のお話というのですから驚きますよね。せっかくアカデミー作品賞を獲ったのですから、いまだ公然と黒人差別をしている米国人たちに観て欲しいものです。

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ほとんどマハーシャラ・アリとヴィゴ・モーテンセンの2人しか出てこない映画ですが、留守宅を守るトニー・リップの妻ドロレスを演じたリンダ・カーデリニ(Linda Cardellini)の演技も密かに効いています。「ファウンダー」で3人目の妻ジョーン・スミスを演じていた人です。

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公式サイト
グリーンブックGreen Book

[仕入れ担当]

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