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2019年4月 1日 (月)

映画「ブラック・クランズマン(BlacKkKlansman)」

00_2 黒人刑事がクー・クラックス・クランに潜入捜査するという荒唐無稽なお話ですが、大枠は実話ベースだそうです。その驚きの映画を撮ったのは懐かしのスパイク・リー(Spike Lee)監督。「シーズ・ガッタ・ハヴ・イット」「ドゥ・ザ・ライト・シング 」「マルコムX」あたりから後は観た記憶がないので、四半世紀ぶりかと思って調べてみたら「25時」も観ていました。それでも15年振りぐらいですね。政治的主張が強すぎるのか、大きな賞に縁のない監督ですが、本作は昨年のカンヌ映画祭でグランプリに選ばれ、英国アカデミー賞と米国アカデミー賞で脚色賞に輝いています。

映画の幕開けは名作「風と共に去りぬ」の1シーンから。南北戦争で負傷した兵が横たわる中を歩くビビアン・リーとボロボロになった南軍旗が映り、ナレーターが“私たちは今も攻撃を受けています”と聴衆を煽ります。もちろん語り手も聞き手もクー・クラックス・クラン。このような映像を見せた後、“あなたの大切な子どもをニグロと一緒に学校に行かせますか?”と問いかけ、人種隔離を違憲とした判決を非難して白人の団結を訴えるのです。

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このアジテーションしているのは彼らの理論的支柱になっているボーリガード博士なのですが、面白いのは演じているのがアレック・ボールドウィン(Alec Baldwin)だということ。ハリウッド映画界の重鎮でありながら、サタデーナイトライブで見せたドナルド・トランプのパロディ(→SNL)が大ウケした人ですね。あまりにもモノマネがそれらしくて、ドミニカ共和国のEl Nacional紙が本物と間違えて掲載してしまうという珍事(→CNN記事)まで起こりました。その彼に憎悪の口火を切らせるあたり、いかにもスパイク・リーらしいキャスティングです。

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その他、ヤスペル・ペーコネン(Jasper Pääkkönen)演じるファシストっぽい白人フェリックスや、アッシュリー・アトキンソン(Ashlie Atkinson)演じる彼の妻コニー、その仲間のオバカでデブなアイヴァンホーなど、クー・クラックス・クランの末端メンバーを典型的なレッドネックで固めているところもスパイク・リーらしいところです。ちなみにアイヴァンホーを演じたポール・ウォルター・ハウザー(Paul Walter Hauser)は、「アイ、トーニャ」でケリガンを襲撃するボディガードを演じていた、この手の役には打って付けの人です。

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脇役から紹介してしまいましたが、本作の主役、黒人刑事ロンを演じたジョン・デビッド・ワシントン(John David Washington)は、「マルコムX」に主演したデンゼル・ワシントンの息子。確かに似てるような気もします。そういえばデンゼル・ワシントン、自ら監督と主演を務めた「Fences」が一昨年のアカデミー賞で4部門にノミネートされ、ヴィオラ・デイヴィスが助演女優賞を獲ったにもかかわらず、日本では劇場公開されませんでしたね。いったいどういう基準で公開作を決めているのでしょうか。

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それはそうと、もう一人の主役、ロンに代わってクー・クラックス・クランに会いに行く同僚刑事フリップを演じたのは、本作で米国アカデミー賞の助演男優賞にノミネートされたアダム・ドライバー(Adam Driver)。彼の出演作はこのブログでも「フランシス・ハ」から「ハングリー・ハーツ」「パターソン」まで多数取り上げていますが、演技力の割に賞に恵まれないような気がします。今回のアカデミー賞も「グリーンブック」のマハーシャラ・アリに持って行かれてしまいました。

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物語は、ロンがコロラド州コロラドスプリングス警察初の黒人として採用されたところからスタート。最初は資料室に配属されるのですが、警察署内でも露骨に差別的な扱いを受けます。時代は1970年代。1968年にキング牧師が暗殺され、ブラックパンサー党などが過激化していた頃です。資料室勤務を嫌っていたロンが直訴した甲斐あって、地元のクラブBell’s Nightingaleで元ブラックパンサー幹部のストークリー・カーマイケル(クワメ・ツレに改名)が講演するので潜入捜査しろと命じられます。その集会で出会う学生リーダーの女性、ローラ・ハリアー(Laura Harrier)演じるパトリスもこの映画の演出上、重要な役割を担うことになります。

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その後、レイシストの白人を装って地元のクー・クラックス・クランに電話をかけ、幹部のウォルターの信頼を得ます。集会に参加する約束まで取り付けますが、会えば黒人であるとわかりますから、代役を立てなくてはいけません。その役を担ったのがユダヤ系のフリップ。クー・クラックス・クランは黒人だけでなくユダヤ系も嫌悪しているそうで、彼が選ばれたせいで話が複雑になるのですが、これもまたスパイク・リーらしい演出。クー・クラックス・クラン対WASP以外の全人類という対立軸をベースに物語が組み立てられます。

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そういう設定ですから、ロンが代役を立てていることがバレそうになり、フリップがユダヤ系かと疑われ、ずっとハラハラしながら映画を観ることになります。その上、ドタバタ気味の笑いやパトリスを交えたロマンスもあり、勧善懲悪のオチもあって、全体としてはなかなか楽しませてくれる映画です。相変わらず政治色が強く、その表現が直截なところが少し鼻につくとはいうものの、久しぶりのスパイク・リーも悪くないと思いました。

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公式サイト
ブラック・クランズマンBlacKkKlansman

[仕入れ担当]

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