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2019年5月 7日 (火)

映画「女性の名前(Nome di donna)」

donna006時間を超える大作「輝ける青春」で知られるマルコ・トゥリオ・ジョルダーナ(Marco Tullio Giordana)監督の新作です。これまで「13歳の夏に僕は生まれた」「フォンターナ広場」など史実や社会的事件を巧みに取り込みながら、人間の内面に迫るドラマを作ってきた監督ですが、本作のテーマはセクシャルハラスメントの問題。たまたまイタリア公開時(2018年春)にハーヴェイ・ワインスタインの事件が大騒ぎになって注目度が上がったようですが、企画そのものはかなり前から進めてきたものだそうです。

イタリア映画祭で観てきましたので、上映後に監督のティーチインがあり、本作に対する監督の考えや映画の背景が語られました。その中で強く言っていたのが、たまたま米国の事件と重なっただけで、この問題を議論するタイミングとしては2000年遅れている、今すぐ取り組み、解決すべきだということ。もうひとつが、セクシャルハラスメントは男女の問題ではなく権力の濫用、強者と弱者の問題であり、男性優位の社会ゆえに弱い女性が被害者になる、つまり社会構造を変えなくてはいけないということです。そして最後には脚本を書いたクリスティアーナ・マイナルディ(Cristiana Mainardi)の功績を強調し、この映画に対する賞賛のほとんどは彼女に与えられるべきだと繰り返していました。

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なかなか野心的な作品で、セクシャルハラスメントのみならず、聖職者と施政者の結託、地域による経済格差、移民労働者の流入などイタリア的な問題がたっぷり盛り込まれています。逆にいえば、セクシャルハラスメントの背景をこういったイタリア社会の病理と絡めたことで、描く要素が多くなりすぎ、90分の映画に収めきれなかった印象もありました。このテーマで「輝ける青春」並みの大作を撮るのは難しいかも知れませんが、本作の内容でしたらこの倍ぐらいの長さが必要だったような気がします。

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映画の始まりは、主人公のニーナがミラノから車で1時間ほどの田舎町にやってきて、フェッラーリ神父から高齢者施設の面接を受ける場面。そこで彼女がシングルマザーであること、夫はいないが交際中の男性がいること、自立した生活を営みたくて縁のない田舎町にやってきたことなどバックグラウンドが示されます。

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晴れて介護職員として採用され、一人娘との生活が始まります。週末には恋人のルカもやってきます。どうやら彼は、ミラノで3人で暮らしたいと思っているようで、収入面の心配はないと説得しますが、ニーナは誰かに依存することをリスクだと思っているようです。しばらくの間、週末に会いに来る生活を続けることで合意します。

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真面目で質実剛健なニーナ。かなり旧型のフィアット・パンダに乗っているあたりからも彼女の生活感や価値感が伝わってきます。ちなみに上映前にアルファロメオとマセラティの宣伝が流れたのは、本作にフィアット社が関わっているからではなく、イタリア映画祭のスポンサーだからのようです。他の作品でも同じCFが流れていました。

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話が逸れましたが、順調な滑り出しだったニーナの新生活が、高齢者施設の管理者トッリに呼び出されたことで暗転します。終業後に訪ねるように指示されたニーナが彼の部屋に行くと、彼女の弱みを突きながら、言いなりになるように迫ってきたのです。思わず彼を突き飛ばして、部屋から立ち去るニーナ。

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明らかに管理者トッリのセクハラ、パワハラなのですが、難しいのは他の従業員たちが、彼の性行を知りつつ、口をつぐんでいること。東欧から働きに来ている女性など、それを交換条件に立場が有利になるなら構わないという意見で、全体としても波風を立てないで欲しい派が主流です。

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似たような話は、ニーナが労働組合に訴えた際にも披露されます。この地域ではその昔、ブドウの収穫時期になると手配師がやってきて仕事を斡旋したそうで、女性たちは良い仕事にありつくために手配師と関係をもっていたとのこと。家計のためなら仕方ないと、夫や家族もそれを受け入れていたといいますから、何ともやりきれない話です。

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そんな同僚の中で唯一、ニーナに共感を示す女性がいるのですが、彼女は父親との間にできた子どもを育てているシングルマザー。自分が生んだ娘は、妹でもあるという無茶苦茶な状況なのですが、彼女の家族も、家長である父親の行いを見て見ぬ振りをしていたようです。また後で登場するトッリの娘も似た状況を語ります。要するに、社会全体にセクハラ、パワハラを受け入れる下地があり、だからこそこの問題が解決しないのだと示しているのです。これはややシニカルとも思えるエンディングにも現れています。

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トッリのセクハラに始まったこの一件は裁判へと続いていくのですが、示唆に富んだ前半に比べ、後半になると急に駆け足になってしまうのが本作の残念なところです。何らかの理由で90分強に収める必要があったのでしょう。日本での劇場公開は予定されていないようですが、せっかく良いテーマなので、最後までしっかり詰め込んで一般公開して欲しかった気がします。

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主役のニーナを演じたのはクリスティアーナ・カポトンディ(Cristiana Capotondi)。私は初めて見ましたが、90年代から活躍しているベテランだそうです。その他、有名どころでは高齢者施設で暮らしている元女優の老婆役で「輝ける青春」にも出ていた往年のヴィスコンティ女優、アドリアーナ・アスティ(Adriana Asti)が出ています。

公式サイト
Nome di donna

[仕入れ担当]

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