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2019年7月 1日 (月)

映画「COLD WAR あの歌、2つの心(Zimna wojna)」

Zimnawojna5年前に観た「イーダ」の監督、パヴェウ・パヴリコフスキ(Pawel Pawlikowski)の最新作です。前作と同じく、スタンダードサイズのモノクロ映像を活かした端正な美しさと、淡々とした展開とは裏腹に激しく心を揺さぶる物語の奥深さが魅力です。

映画のタイトルは原題も英題も“冷戦”の意味ですが、政治や社会にフォーカスした作品ではありません。時代の波に選択を迫られ、流されていく二人を描いた、第二次大戦後のポーランドからパリを経て、再びポーランドへと至る愛の物語です。

幕開けは1949年のポーランド。民族音楽の舞踏団を設立しようとしているカチマレクと、ダンス教師のイレーナ、ピアニストのヴィクトルの3人が地方を巡って伝承音楽を収集しています。哀愁を帯びた独特の曲調が気分を盛り上げ、ごく自然に映画の世界に誘っていく巧みな出だしです。

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途中で車を降りて用を足したカチマレク。廃墟のような教会が目に入り、ふらっと迷い込みます。戦火にさらされたようで、フレスコ画は剥がれ落ち、丸屋根は焼け落ちていて、住民が立ち寄っている様子もありません。前作「イーダ」も傷んだキリスト像を修復する場面から始まりますが、この監督にとって、共産主義政権による宗教弾圧とそれに連なる文化の破壊は外すことのできないテーマの一つなのでしょう。ちなみにロケ地はクニャジェにある正教会の遺跡(Ruiny Cerkwi W Kniaziach)で、現在も同じ姿のまま放置されているようです(→google map)。一見、どうでも良さそうな場面ですが、実はエンディングに繋がる意味ある1シーンです。

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教会の焼け落ちた丸屋根の向こうに広がる空は、舞踊団の入学試験にきた少年少女がトラックで運ばれてくる庭に繋がっていきます。試験官はイレーナとヴィクトル。受験生たちは二人の前で歌ってみせるのですが、その中に合唱してみせた少女たちがいて、イレーナはその片方の黒髪の少女の声を評価し、ヴィクトルはもう一人の少女に目を留めます。それがこの物語の主人公であるズーラ。どことなくコケティッシュな雰囲気を漂わす彼女は、過去に罪を犯しているのですが、それすらも魅力となってヴィクトルのファムファタルになっていきます。

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ソ連主導の政権が力を持つにつれ、この舞踏団にも政治色を求められるようになります。要するにスターリンを讃えるような演目を取り入れろということ。権力にこびるカチマレクと、あからさまに反対するイレーナ、そして曖昧な態度をとるヴィクトル。やさ男のヴィクトルが優柔不断なように見えますが、実は体制側になびくことで公演旅行の機会を得ようと狙っていたのです。その甲斐あって舞踏団の東ベルリン公演が実現します。この当時は「僕たちは希望という名の列車に乗った」で描かれたように、まだ西ベルリンへの移動が自由にできた時代。ヴィクトルは一緒に国境を越えようとズーラを誘います。

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ゲートのそばでズーラを待つのですが、いつまでたっても現れず、あきらめて一人で国境を越えるヴィクトル。パリに移動した彼はジャズクラブ“L'Eclipse”でピアニストの職を得て、作詞家のジュリエットというガールフレンドと暮らし始めます。一方、ズーラはますます政治色を強めていく舞踏団で引き続き活躍を続け、地位を高めていきます。

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ヴィクトルのパリでの生活も落ち着いてきた頃、ふいにズーラが姿を見せます。彼に会いたくて、シシリア人と結婚して合法的に西側に来たとのこと。曖昧な態度で権力者を欺いて西側に移ってきたヴィクトルよりも、目的のためなら結婚も厭わないズーラの方が明らかにリアリストなのですが、その時々の気分で動いているように見えるところが彼女の危険な魅力で、ヴィクトルはそれに翻弄されて泥沼にはまっていくことになります。

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この映画の魅力は、ズーラを演じたヨアンナ・クーリグ(Joanna Kulig)の魅力と直結していて、半分近くを彼女の演技力と歌の素晴らしさに支えられているといっても過言ではないでしょう。「イーダ」でもクラブ歌手として登場していた彼女は、元々、音楽教育を受けてきた人だそうで歌唱力の高さは当然かもしれませんが、時代を経るにしたがって歌の円熟味を増していくあたりはやはり演技の巧みさだと思います。アンヌ・フォンテーヌ監督「夜明けの祈り」にも修道女役で出ていました。

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対するヴィクトルを演じたトマシュ・コット(Tomasz Kot)は初めて見ましたが、ダンス教師のイレーナを演じたアガタ・クレシャ(Agata Kulesza)は「イーダ」で叔母役、「夜明けの祈り」で修道院長を演じていたポーランドのベテラン女優。また作詞家のジュリエットを演じたジャンヌ・バリバール(Jeanne Balibar)は「サガン」や「バルバラ」でお馴染みのフランス女優で、私生活ではマチュー・アマルリックのパートナーです。

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そしてこの映画のもう一つの魅力は、ポーランドの民族音楽。なかでもズーラが歌う“Dwa Serduszka(2つの心)”はいつまでも耳に残る名曲ですが(→Youtube)、この作曲者であるタデウシュ・スィギェティンスキ(Tadeusz Sygietynski)と作詞者のミラ・ジミンスカ(Mira Zimińska)はポーランド民族音楽の舞踏団を率いていて、イレーナとヴィクトルのように伝承芸能を求めて地方を旅したそうです。また、ヴィクトルとズーラという役名は監督の両親の名前から取られたもので、二人の激しくも不安定な関係は、父と母の生き方をベースに創造したものだそうです。

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最後にもうひとつの魅力、端正な映像ですが、撮影監督は「イーダ」と同じくウカシュ・ジャル(Lukasz Zal)。改めて本作の予告編を見直すと、どのシーンを切り取っても絵になる素晴らしさで、映画を観たときの感動がリアルに蘇ってきます。実際に街を歩くと薄汚いパリ(→google map)ですが、映画ではこんなに美しく撮られていていました。

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公式サイト
COLD WAR あの歌、2つの心Zimna wojnafacebook

[仕入れ担当]

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