映画「プライベート・ウォー(A Private War)」
サンデー・タイムズ紙の戦争特派員としてさまざまな紛争地域の声を伝えてきたメリー・コルビン(Marie Colvin)を描いた作品です。主演は「17歳の肖像」「ゴーン・ガール」のロザムンド・パイク(Rosamund Pike)。シャーリーズ・セロン(Charlize Theron)がプロデューサーとして参加し、主題歌をアニー・レノックス(Annie Lennox)が歌っていることで、どういった傾向の映画か想像できるかと思います。
監督はこれまでドキュメンタリー映画を手がけてきたマシュー・ハイネマン(Matthew Heineman)。撮影のロバート・リチャードソン(Robert Richardson)は、最近は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」などタランティーノ作品のクレジットでよく目にする人ですが、その昔はオリバー・ストーン監督の「サルバドル/遥かなる日々」「プラトーン」などを手がけていた超ベテランです。映画の物語はヴァニティフェア誌に掲載されたマリエ・ブレンナー(Marie Brenner)の“Marie Colvin's Private War”(→Vanity Fair)をベースに脚本化されたもののようです。
メリーは最終的にシリアのホムスで命を落とすのですが、映画はホムスまであと何年という章立てになっていて、観客は時限爆弾を抱えているような心持ちで観ることになります。映画の作りとしては、彼女の私生活にも触れるなどしてバランスを取っているとはいうものの、やはり戦場がストーリーの面でも演技の面でも重要ですので、終映後はドキュメンタリー映画を観たような気持ちになりました。
アイパッチがトレードマークのメリー。スリランカでタミルタイガー(LTTE)に従軍取材していた2001年4月16日に、政府軍に待ち伏せされ、ジャーナリストだと叫んで投降したにも関わらずRPGで攻撃され、左目を失ったそうです。その後、入院と治療を経て復帰しますが、ずっとPTSDに苦しめられたようです。
映画ではそのあたりの経緯を伝えながら、2003年のイラクで共同墓地を掘り起こし、2009年のアフガニスタン、2011年のリビア蜂起(アラブの春)、2012年のシリアに至る彼女のジャーナリスト人生を追っていきます。
彼女の戦場での相棒となったのはイラク侵攻前の米軍基地で出会ったフリーカメラマンのポール・コンロイ。元英国軍兵士である彼と共に、イラクの大量虐殺の証拠である共同墓地を見つけ、リビアでカダフィの単独インタビューを成功させます。
私生活でのパートナーは、最初の夫デイヴィッド・アイリーンズとの不安定な結婚生活を経て、裕福なビジネスマンであるトニー・ショーと再婚します。この二人は映画用に創造された人物だそうですが、実際にも結婚と再婚を繰り返していて、戦場での生活だけでなく、私生活もそれなりに充実していたようです。とはいっても、やはり英国や米国にいても戦場の悲惨さが心から離れなかったのでしょう。映画では酒とたばこを手放せない暮らしぶりが描かれます。
彼女のエピソードとして面白かったのは、戦場で防弾チョッキを着て取材しながらも、中にはラペルラ(La Perla)の下着を身につけていたこと。戦死して掘り起こされたときに感銘を与えたいからと酒焼けした声で言い放つシーンはとても魅力的です。
もちろんこの映画の見どころは、ロザムンド・パイクの存在感でしょう。日本ではこの秋、彼女の映画が目白押しで「荒野の誓い」「エンテベ空港の7日間」「THE INFORMER 三秒間の死角」と立て続けに公開されていますが、意志の強そうな表情と知性を感じさせるふるまいが今の時代にマッチしているのだと思います。
ポール・コンロイを演じたジェイミー・ドーナン(Jamie Dornan)は「フィフティ・シェイズ」シリーズでブレイクした元モデルの男優。デイヴィッド・アイリーンズ役のグレッグ・ワイズ(Greg Wise)はエマ・トンプソンのパートナーですね。トニー・ショー役のスタンリー・トゥッチ(Stanley Tucci)は「ハンガーゲーム」シリーズなどに出演すると同時に、最近は「ジャコメッティ」で監督業にも進出しています。上司役のトム・ホランダー(Tom Hollander)は「ボヘミアン・ラプソディ」のマイアミ・ビーチですね。
公式サイト
プライベート・ウォー(A Private War)
[仕入れ担当]
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