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2019年12月29日 (日)

映画「冬時間のパリ(Doubles vies)」

doublesviesオリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas)監督の新作です。ちょっと風変わりな前作「パーソナル・ショッパー」でカンヌの監督賞に輝きましたが、本作は非常にオーソドックスな会話劇。邦題からイメージされるようなパリの風景はほとんど出てきません。ひたすら語り尽くします。

何を語るかというと、出版界は電子化で今後どうなっていくのか。どの業界でもいわゆるDXが課題になっているこの時代、出版界への影響など取るに足らないと言ってしまえばその通りなのですが、マラルメなどを引用しながら蘊蓄をたれることでフランス映画らしさを漂わせます。

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そしてもう一つフランス映画らしい点は、物語の軸が不倫であること。老舗出版社の敏腕編集者と結婚している女性が、夫が担当している私小説作家と不倫しているというありきたりな設定ながら、その女性セレナを「アクトレス」のジュリエット・ビノシュ(Juliette Binoche)が演じることで、不倫を通じて愛の深淵を描くかのようなイメージを醸しだします。

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ということでこの映画、一言でいえばフランス映画らしさ溢れるコメディといったところでしょうか。肩の力を抜いて気軽に楽しむ映画です。セレナの夫アラン役を「シンク・オア・スイム」で見たばかりのギョーム・カネ(Guillaume Canet)、不倫相手の作家レオナール役を「夜明けの祈り」でユダヤ人医師を演じていたヴァンサン・マケーニュ(Vincent Macaigne)が演じ、アランの部下のデジタル担当者で不倫相手でもあるロール役を「偉大なるマルグリット」のクリスタ・テレ(Christa Théret)が演じてます。

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アランはレオナールを売り出した編集者。今も変わらず彼の担当ですが、その新作には否定的です。映画の幕開けはレオナールがアランのオフィスに訪ねてくるシーン。四方山話をした流れで昼食に誘い、彼の新作についてあれこれ語った後、出版はいつごろかと問うレオナールに出版するつもりはないと伝えます。ちなみに彼らが昼食をとるプティ・サンブノワ(Le Petit Saint-Benoit)は、向かいにその昔デュラスが住んでいて、界隈にドゥ・マゴ(Les Deux Magots)やカフェ・ド・フロール(Café de Flore)といった文学的な店が軒を連ねるエリアにあります。

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なぜアランがレオナールの新作を嫌うのかといえば、女性をモノ扱いしている印象があるから。アランには相応の時代感覚があり、有名女性との交際をあけすけに描き、スキャンダラスな話題性で著作を売るというレオナールの露悪的スタイルが、この時代、非難されかねないことに気付いています。しかしベタな私小説しか書けないレオナールにその感覚はありません。そんな旧態依然とした価値感をもち、経済力も外見もアランに劣るレオナールに何故セレナが惹かれるのか、そのあたりはフランス映画だからとしか言いようがないでしょう。

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セレナは警察もののテレビドラマシリーズに出演中の人気女優で、番組の評判は良いようですが、同じ役を演じ続けることに飽きているようです。アランはアランで、若いロールと不倫しながら、ロールの担当業務である電子化について思い悩む日々です。セレナへの愛情が失われているわけではありませんが、彼女の仕事に対する関心はあまりなく、仕事の相談にも上の空。気持ちがすれ違っているというより、関係が惰性化している感じでしょう。

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そしてレオナールの妻ヴァレリー。政治家の秘書として忙しく働いており、レオナールとは対称的な生活です。うまく行っているわけではないけれど特に問題もないので一緒に暮らしているといった、よくあるタイプの夫婦ですが、何しろレオナールは実体験でしか書けませんので、彼の女性関係についてはまったく信用していない様子です。

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この2組の夫婦と一人の部下の関係を軸に、文学仲間やパスカル・グレゴリー(Pascal Greggory)演じる出版社オーナーを絡めて、IT企業がすべてを飲み込んでしまう危機感を散りばめながら描く本作。そういった意味でもGAFA課税を強行導入するフランスらしい映画と言えるでしょう。

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といっても、アランは寝しなにiPadで読書していますし、議論される書籍の電子化にはオーディオブックも含まれていて、観ていて突っ込みたくなる箇所も多々あります。オーディオブックのナレーター候補にジュリエット・ビノシュを挙げるあたりを含めて、電子化に対する意見表明よりもコメディとしての打ち出しの方が強そうです。映画「白いリボン」の使い方も笑えます。

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撮影は同監督の「カルロス」「アクトレス」「パーソナル・ショッパー 」を始め、ルカ・グァダニーノ監督「ミラノ、愛に生きる」「胸騒ぎのシチリア」やクレール・ドニ監督「ハイ・ライフ」を手がけた名人ヨリック・ル・ソー(Yorick Le Saux)。来年公開のグレタ・ガーウィグ監督「ストーリー・オブ・マイライフ」も撮っているそうで、それも楽しみですね。

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公式サイト
冬時間のパリNon-Fiction

[仕入れ担当]

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