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一昨年のベニス映画祭で審査員特別賞を受賞した作品です（金獅子賞は「ROMA ローマ」、審査員大賞は「女王陛下のお気に入り」）。オーストラリア出身のジェニファー・ケント（Jennifer Kent）監督の長編２作目。表面的には家族を殺された女囚によるシンプルな復讐譚ですが、その背後ではイギリス（イングランド＋スコットランド）によるアイルランド併合、イギリス植民者によるタスマニア・アボリジニの民族浄化（ブラック・ウォー）、男性による女性の抑圧など、暴力で支配された側からの復讐が重層的に絡み合います。

物語の舞台となるのは1825年のタスマニア。当時はヴァン・ディーメンス・ラントと呼ばれていたそうですが、島の南部で囚人として暮らすアイルランド人女性クララは、既に刑期を終えているにもかかわらず、イギリス軍将校ホーキンスがわざと手続きを遅らせているため当地から離れることができません。ホーキンスからすれば、クララが夫や幼い娘と暮らせるように家を与え、馬まで与えているのだから、自分の言いなりになって当然ということのようです。

ホーキンスの自室で歌わされたクララが、保釈の手続きを進めて欲しいと頼んだところ、ホーキンスが逆上して彼女を犯します。遅い時間に帰宅した妻の首のあざに気付いた夫エイデンは、ホーキンスに苦情を言いに行くのですが、埒があかないばかりか、さらに事態を悪化させることに。残る手段は逃亡しかないと準備を進めているところに部下を伴ったホーキンスが現れ、エイデンの目の前でクララを陵辱した上に彼を射殺し、泣き叫ぶ幼子を壁に打ち付けて殺してしまいます。

クララは復讐を誓いますが、ホーキンスはさまざまな不始末のせいで、直属の上官から昇進の推薦を断られ、本部があるローンセストンの司令官に直談判すべく旅立った後でした。そうしてクララも、アボリジニの道案内ビリーを雇い、残された愛馬と共に彼らを追う旅に出ることになります。

白人のクララには現地人に対する侮蔑心と警戒心がありますので、ビリーに銃口を向けた状態で旅を始めます。そんな関係で協働できるわけがないのですが、クララがアイルランド人であり、イギリス人から差別されていることを知ったビリーが心を開きます。そしてクララの復讐の理由を知り、ビリーが家族が殺された過去を語ったことで、互いに共感し合えるようになっていきます。

二人はタスマニア島を北上し、山地を越えてローンセストンに向かうホーキンスたちを追います。一味はホーキンスの他、軍曹のルース、純朴な兵卒のジャゴ、道案内に雇われたアボリジニのチャーリー、荷役である囚人3人で、ルースはホーキンスと共にクララを陵辱した男、ジャゴはホーキンスに命じられて幼子を壁に打ち付けた男です。

ちょっとネタバレになってしまいますが、ジャゴへの復讐は割と簡単に果たします。しかし、ホーキンスやルースに対する復讐は、クララがすくんでしまって好機を逃すことになります。ストーリー的には歯がゆく感じる部分ですが、女性の心理描写としてはとてもリアルだと思いました。性暴力が魂の殺人と言われる所以でしょう。

美声で歌うクララをナイチンゲール（サヨナキドリ）に喩えたこの物語。ビリーの本名マンガナが、アボリジニの言葉パラワカニでブラックバード（クロウタドリ）を意味することで話に膨らみを持たせながら、虐殺から生き延びたビリーの一族の女性たちが北部に逃げたこと、孤児になったビリーがチャーリーに育てられたことなどが明かされ、クララの復讐にビリーの復讐が重なっていきます。

そのクララを演じたのはアシュリン・フランシオーシ（Aisling Franciosi）。ケン・ローチ監督「ジミー、野を駆ける伝説」に出ていたイタリア系アイルランド人女優です。ビリーを演じたバイカリ・ガナンバル（Baykali Ganambarr）、チャーリーを演じたチャーリー・ジャンピジンパ・ブラウン（Charlie Jampijinpa Brown）、ルースにさらわれる女性ロワンナを演じたマグノリア・メイムル（Magnolia Maymuru）はすべてオーストラリア先住民です。

悪役の将校ホーキンス役は「ハンガー・ゲーム」シリーズでフィニックを演じていたサム・クラフリン（Sam Claflin）、軍曹ルース役は「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でチャールズ・マンソンを演じていたデイモン・ヘリマン（Damon Herriman）が演じています。そしてホーキンスの荷役の一人、少年エディ役で「はじまりへの旅」「ゲティ家の身代金」「ガラスの城の約束」の子役チャーリー・ショットウェル（Charlie Shotwell）が出ています。

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