映画「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー(Booksmart)」
西海岸で暮らす真面目な女子高生、モリーとエイミーが卒業式前夜にハジけようとして騒動を巻き起こすコメディです。同じく高校最終学年をテーマにした「レディ・バード」で主人公の親友を演じていたビーニー・フェルドスタイン(Beanie Feldstein)がモリー役、問題を抱えた少年少女たちのグループホームを舞台にした「ショート・ターム」で自傷癖のある少女を演じていたケイトリン・デヴァー(Kaitlyn Dever)がエイミー役を演じています。
監督は「サード・パーソン」「クーパー家の晩餐会」に出ていた女優のオリヴィア・ワイルド(Olivia Wilde)。本作が彼女のデビュー作なのですが、高校最後のバカ騒ぎという、よくある青春コメディの枠組みを使いながら、細部まで意識が行き届いた作りといい、リズミカルな展開といい、バランスのとれたキャスティングといい、まったく薄っぺらさを感じさせない作りになっています。表面的にはドタバタのオバカ映画なのに、各界から高く評価されている理由がよくわかります。
何よりも良いのは、人に対する視線の優しさ。クラスメイトの中には主人公が嫌っていたり、仲が悪かったりする人がいるわけですが、この監督はすべてのキャラクターに共感できる要素を織り込み、後味の悪い印象を与えません。また、リアリティある会話の面白さも特筆に値すると思います。下ネタ満載ですので、開けっぴろげに笑えない部分があるかも知れませんが、テンポの良いやりとりに知らず知らず引き込まれていってしまいます。
主人公の二人はどちらも名門大学に進学するため勉学一筋に励んできた生徒。生徒会長を務めるモリーの目標は法曹界で活躍することで、自室にはミシェル・オバマやルース・ベイダー・ギンズバーグの写真を飾っています。10年生のときにカムアウトしたレズビアンであるエイミーの夢は環境保護や途上国支援、女性の地位向上などを手がける社会活動家。彼女のベッドにはパンダのぬいぐるみがあって、もともとはWWF関係のアイテムなのかも知れませんが、ある種の性的自由のシンボルにもなっています。
彼女たちのガリ勉は功を奏し、モリーはイェール大学、エイミーはコロンビア大学への進学が決まりました。毎日のように遊び歩き、高校生活を満喫していた同級生たちとはこれでお別れ、と思っていたら、トリプルAとあだ名されているアナベラはSATで1560点とってモリーと同じイェールへ、スケートボーダーの日系人タナーはサッカーでスタンフォードに進学し、オタク気質で2度留年しているヒスパニック、テオはAppleを蹴ってGoogleに就職すると知って愕然とします。ちなみにトリプルAというのは格付けではなく、全米自動車協会(AAA)をもじって“路肩でサービスする”という下ネタのようです。
わき目もふらず勉強してきた私たちの数年間は何だったの?と急に遊びに目覚めたモリーは、ニック(進学先はジョージタウン)が主催する卒業パーティに参加しようと決めます。とはいえ、招待されていませんので場所が判りません。金持ちの同級生ジャレッドに案内を乞うと、彼が連れて行った先は自分が主催する船上パーティで客はゴージャス系の遊び人ジジ(進学先はハーバード)のみ。ダフト・パンク風のD.J.プレイで盛り上げるジャレッドを尻目に慌てて退散します。
移動しようと呼んだLyftのドライバーがブラウン校長のアルバイトだったり、彼が連れて行った先がジョージとアランが主催するミステリーパーティーだったりといろいろありますが、彼女たちの憧れの先生、ミス・ファインの手助けもあって何とかニックのパーティ会場に辿り付きます。
そこにはエイミーが惹かれているライアンが来ているはず。とはいえ、ライアンが女性に興味があるかどうかわかりませんし、仮にそうであってもエイミーを好きだとは限りません。思い切って話しかけるようにけしかけるモリーですが、実は彼女自身も密かにニックを意識していて、彼と接点を持ちたいと願っていたのです。そうして小さな事件がいくつも起きていろいろなことが明らかになり(プールでの演技は最高です)、大きな事件が起きてエンディングに繋がっていきます。
主人公の二人のうち、モリー役のフェルドスタインの方が有名ですので彼女が主役のように見えますが、本質的にはエイミーの成長をテーマにした映画だと思います。ホープとの関係もそうですし、ボツワナでのギャップイヤーに関するモリーとの会話も彼女が自立していく第一歩です。そういう意味でフェルドスタインは「レディ・バード」に続いて本作でも主役の生き方を変える触媒の役を果たしたと言えるかも知れません。少しウルッと来るような素敵なエンディングです。
二人以外の出演者で目立ったところでは、エイミーの父親役で「ネブラスカ」のウィル・フォーテ(Will Forte)、母親役で「フレンズ」のリサ・クドロー(Lisa Kudrow)、トリプルA役で「クーパー家の晩餐会」でシャラメ君の相手役を演じていたモリー・ゴードン(Molly Gordon)が出ている他、故キャリー・フィッシャーの娘であるビリー・ロード(Billie Lourd)がジジ役を演じています。
公式サイト
ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー(Booksmart)
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