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2020年12月27日 (日)

映画「バクラウ 地図から消された村 BACURAU」

Bacurau とても奇妙な映画ですが、独特の面白さがあって、はまる方も多いと思います。ブラジルのクレベール・メンドンサ・フィリオ(Kleber Mendonça Filho)とジュリアノ・ドネルス(Juliano Dornelles)の2人が共同監督を務めた怪作。宣伝文句を読むとホラー映画と勘違いしそうですが、ほんの少しオカルトやスプラッターの要素が入り込む程度でそれほど怖さも気持ち悪さもありません。

宣伝文句だけでなく、映画そのものもミスリードで引っ張っていく作品です。

始まりは、街で暮らすテレサという女性が、バクラウ村の長老である祖母の葬式のため、人里離れた集落に帰ってくる場面。路線バスなどないようで、集落へ水を運ぶタンクローリーに同乗させてもらうのですが、運転手との会話によると、何らかの事情でバクラウへの主要な道が封鎖され、給水も絶たれているようです。イシアル・ボジャイン監督「雨さえも」のような水道にまつわる政治的な話かと思っていると、タンクローリーが立て続けに何かを轢いて、それが事故を起こしたトラックから落ちた棺だとわかります。壊れた棺と事故現場が不吉な雰囲気を醸しますが、何事も起こらないまま村に到着します。

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長老カルメリータの家に到着した途端、テレサの荷物が人混みをかき分けて奥に運ばれていき、スーツケースの中に薬剤のアンプルが入っていることを誰かが確かめます。窓の外では一人の中年女性が“カルメリータは魔女だ”と叫び始め、不穏な空気が蔓延するこの村らしい情景だと思いながら観ていると、その後、彼女は狂女ではなく、村で唯一の医師ドミンガスだとわかります。しかしテレサが運んできたアンプルとドミンガスの関係はわかりませんし、テレサが車中で羽織っていた白衣との関係も示されません。

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前半は、こういった伏線のような、ただの雰囲気作りのような場面が次々と現れ、観客は頭に疑問符を浮かべながら観ることになります。カルメリータを収めた棺から水が溢れてきたり、夜中に馬の群れが駆け抜けたりといったマジックリアリズム的な見せ方をしたかと思うと、空飛ぶ円盤が現れたり、この村がgoogle mapに表示されなくなったりといったSF的な要素もあって、一筋縄ではいきません。

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物語の奇妙なところは、辺境の村にもかかわらず住人たちが普通にスマホを持ち、Youtubeやgoogle mapを使いこなしていること。埃っぽい映像や画面2分割の編集なども古くささを強調しますが、登場人物たちは見かけとは裏腹に現代的です。人々も多様で、トラックに据え付けられた大スクリーンの前でDJをする人がいれば、村のはずれでは大っぴらに売春が行われていて、村を訪れた市長が連れ出す娼婦も村人たちから蔑まれている印象はありません。

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そんな得たいの知れない村の物語が動き始めるのは、村に現代的なバイク乗りのカップルが現れたあたりから。

テレサのボーイフレンドらしきパコッチが彼らに接触を図ると、ツーリング中だと言い張りますが、アクセスの悪いこの村に迷い込むこと自体が不自然です。そのパコッチにしても、Youtubeで暗殺者として紹介されていると村人たちに噂される謎の人物なのですが、カップルに何らかの背景があると感づいたパコッチたちは、村の歴史博物館を見ていくように勧めます。彼らは粗末な建物を一瞥してあっさり断りますが、どうでも良い場面のように見えてこれがこの物語最大の伏線になります。

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村内を駆け抜けた馬たちは村はずれの牧場から逃げてきたもの。しかし、馬を返しにいった村人たちは、惨殺された牧場の一家を発見し、その村人たちも帰り道で殺されてしまいます。そして少しずつ事件の背後が明かされていくのですが、何を書いてもネタバレになってしまいますので、この先は映画をご覧になってのお楽しみとした方が良いでしょう。

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この映画、昨年のカンヌ映画祭で「レ・ミゼラブル」と審査員賞を分け合った作品なのですが、どちらも虐げられた人々の逆襲を描いた点に時代性を感じさせます。そういう意味で言えば、同年のパルムドールに輝いた「パラサイト」も同じ方向性の作品かも知れません。

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テレサを演じたバルバラ・コーレン(Bárbara Colen)は同監督の前作「アクエリアス」でデビューしたブラジルの人気女優だそう。彼女が主演女優ということなっていますが、実はドミンガスの方が重要な役で、演じたソニア・ブラガ(Sônia Braga)は言われないと気付かないと思いますが「蜘蛛女のキス」で蜘蛛女ほか2役を演じていたベテラン女優です。

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パコッチを演じたトーマス・アキーノ(Thomas Aquino)も魅力的ですが、仲間のルンガを演じたシウヴェロ・ペレイラ(Silvero Pereira)が強力な印象を残します。実は彼、ジゼル・アルモドバル(Gisele Almodovar)の名でドラァグクイーンとしても活躍する多彩な俳優で、彼が演じるルンガに、暴力から足を洗ったパコッチが協力を求めるという設定にはいろいろ含みがありそうで面白いですね。

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カルメリータを演じたリア・ヂ・イタマラカ(Lia de Itamaracá)はブラジルの伝統的ダンス音楽“シランダ”の大御所(→Youtube)とのこと。

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バイク乗りのカップルを演じたアントニオ・サボイア(Antonio Saboia)とカリーヌ・テレス(Karine Teles)はブラジルで活躍中の中堅俳優だそうで、その親分マイケル役でラース・フォン・トリアー作品の常連であり、最近では「異端の鳥」で目玉を抉っていたドイツ人俳優ウド・キア(Udo Kier)が出ています。

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公式サイト
バクラウ 地図から消された村BACURAU

[仕入れ担当]

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