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2021年1月11日 (月)

映画「ブレスレス(Koirat eivät käytä housuja)」

Hundar har inte byxorハンガリー映画に続く新年のご紹介2作目はフィンランド映画です。

フィンランド映画というと、これまでアキ・カウリスマキ監督の「ル・アーヴルの靴みがき」「希望のかなた」や、ユホ・クオスマネン監督の「オリ・マキの人生で最も幸せな日」といった、ちょっとトボけた味のヒューマンドラマばかり取り上げてきましたが、本作はこれらとは趣向が異なる内容も色調もダークな作品。問題を抱えた一人の男性が、SMを通じて人間性を回復していくという奇妙な物語です。

SMをテーマにしていますが、性の深淵を覗くような作品ではありませんのでエロティックな描写は僅かです。ポイントとなるのはSMプレイを通じて与えられる苦痛で、肉体的な苦痛によってのみ、精神的な苦痛から逃れられることを発見した主人公が、どんどん深みに入っていくというお話。痛みの描写が鮮烈ですので、その手の映像に弱い方は要注意です。

映画の始まりは湖畔の別荘とおぼしき一軒家。主人公のユハが妻と娘と一緒に休暇を楽しんでいた際、妻が溺死するという悲劇に見舞われます。この部分は記憶の中の出来事という扱いなのか、ややピンボケ気味に描かれるのですが、この夢の中のようなボケた映像は主人公の心象風景として繰り返し登場します。

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それから数年後、彼は心臓外科医として忙しく働いていますが、相変わらず妻への愛着、妻を救えなかったという心の呵責があるようで、行動の隅々にそれが現れます。とはいえ、思春期を迎えた一人娘のエリに対しては、理解あるシングルファーザーであろうと懸命で、エリが舌にピアスしたいと言ったときも小言など言わずピアススタジオまで付き添っていきます(未成年は親の承諾が要るのかも知れませんが)。

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エリがピアッシングしている間、スタジオから出てSMクラブに迷い込んでしまったユハ。ドミナトリクス(女王様役)のモナから客と勘違いされ、首を絞められてしまうのですが、窒息していく苦しみの中で湖底の妻の幻影を見ます。そうしてこの誤解から生じた出来事が得がたい経験となってしまうのです。

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エリは学校の軽音楽活動に参加していて、発表会が間近です。迎えにきたユハにサトゥ先生を紹介するのですが、それは単に担当教員を紹介したかったわけではなく、いまだ悲劇の記憶から離れられないユハに新たな関係を築いて欲しいというエリの気遣いのようです。

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それにもかかわらず、どんどん窒息プレイにのめりこんでいくユハ。原題や英題(Dogs Don't Wear Pants)に使われている“犬はパンツをはかない”はプレイの際にモナが言うセリフで、行為そのものは異様としか言い様がありませんが、ユハの内面にはこの世のものとは思えない美しい光景が広がっていて、そのギャップの描き方が絶妙です。

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単なる良い客だったのか、何か通じ合うものがあったのか、モナはユハの要求に応えてプレイを過激化させていきます。そしてエリの発表会の当日、当然の帰結と言うべき事故が起こってしまいます。発表会の演奏曲がビーチボーイズの“Then I Kissed Her”というあたりもこの映画らしい選曲ですね。

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拘束具を着けた状態で救急搬送されたユハ。一命はとりとめたものの、社会的信用は揺らぎ、復帰の前提として精神鑑定を受けるように指示されます。一時は考えを改めてサトゥ先生とデートしてみたりしますが、やはり満たされないものがあるようで、結局はモナと彼女から与えられる苦痛への執着から離れられません。

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要するに一種のサイコパスなのでしょう。妻への執着もモナへの執着も見た目が違うだけで同質です。これまでは妻の悲劇が言い訳になり、社会的信用が隠れ蓑になって表面化し難かったユハの本質がモナによって明確化されただけなのですが、それに気付いた彼が、エリに対する責任や心臓外科医としての職務といかにバランスとっていくか模索していきます。若干グロテスクな場面もありますが、ユニークな着地点を見出しますので、ハッピーエンディングと言えるのではないでしょうか。

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監督は1977年生まれのユッカ=ペッカ・バルケアパー(Jukka-Pekka Valkeapää)。ヘルシンキ芸術デザイン大学(Taideteollinen korkeakoulu)の卒業制作「Muukalainen」がフィンランド版アカデミー賞であるユッシ賞にノミネートされてデビューを飾り、本作ではユッシ賞4部門に輝く快挙を果たしたそうです。

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ユハ役のペッカ・ストラング(Pekka Strang)は映画「トム・オブ・フィンランド」の主演で注目されたフィンランドの中堅俳優、モナ役のクリスタ・コソネン(Krista Kosonen)は「ブレードランナー 2049」で娼婦役(マリエットではない方)を演じていたフィンランド女優だそう。

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エリを演じたイローナ・ウフタ(Ilona Huhta)はフィンランドはタンペレ出身の撮影当時16歳。あまり出番はありませんでしたが、サトゥ先生役は「オリ・マキの人生で最も幸せな日」で妻となるライヤを演じていたオーナ・アイロラ(Oona Airola)で、本作でも陽気で人の好さそうな役柄を演じています。

公式サイト
ブレスレス

[仕入れ担当]

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