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2021年1月18日 (月)

映画「ヘルムート・ニュートンと12人の女たち(Helmut Newton: The Bad and the Beautiful )」

HelmutNewton00.jpg 稀代のお騒がせ写真家の生涯と仕事を、関係者たちのインタビューで綴っていくドキュメンタリー映画です。

私も本作の証言者の一人であるスーザン・ソンタグ(Susan Sontag)と同じく、ヘルムート・ニュートンの作品に女性蔑視ではないかという印象を持っていましたので、この映画はスルーしようと思っていたのですが、たまたまタイミングが合い、観に行けて幸いでした。とても面白いインタビュー集です。

よく言えば独創的で衝撃的、悪く言えばセクシズムやミソジニーを感じさせる作品を撮ってきた写真家ですので、原題が示唆するとおり、インタビューの論点もそのあたりが軸になっています。つまり被写体である女性として、どう感じてどう考えたかということ。

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なかにはスーザン・ソンタグのように批評家としての視点から意見を述べている人もいますし、アナ・ウィンター(Anna Wintour)のように発注者としての経験を語っている人もいますが、ほとんどのインタビュイーは作品のモデルになった女性たちですので、仮にヘルムート・ニュートンが差別的な表現者だとすればその犠牲者ということになります。

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その観点からいえば、彼の撮影スタイルに不快感を表明した人はいませんでした。もちろんこういう映画ですから、ヘルムート・ニュートンの人間性を否定するような意見は採り上げられなかったのかも知れませんが、映画全体を通して描かれる彼のチャーミングで愛嬌ある人柄から、それも納得させられてしまう感じです。

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あのアナ・ウィンターでさえ、ヘルムート・ニュートンと最初に仕事をしたときは、自分は現場に行かず、他の人に任せたと言っていましたので、彼にはモデルになる人たちを怖じ気づかせるようなパブリックイメージがあるのでしょう。しかし実際に会って撮影が始まってしまえば、一緒に作品を創り上げていこうと思わせる何か、強い人間的魅力があったようです。

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その鍵になるのがデビューまでの経歴です。ボタン工場を営むユダヤ人の息子として1920年にベルリンで生まれた彼は、ナチズムに染まっていくドイツで成長期を過ごすことになります。彼が最初に影響を受けたのがレニ・リーフェンシュタール(Leni Riefenstahl)の作風。バレリーナ出身の女優だった彼女は、ナチスがアーリア民族の優位性を示す作品を求めたこともあって、被写体の肉体美の表現に注力し、その感覚と志向性がヘルムート・ニュートンの作品作りに引き継がれています。

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そして彼が弟子入りした女性写真家イヴァ(Yva)。商業的なファッション写真家の先駆者であった彼女のもとで、1936年からスタジオが閉鎖される1938年までアシスタントを務め、その経験がファッション誌の仕事に踏み出すきっかけになっています。

とはいえ、時代が時代ですので多難です。ヘルムート・ニュートンはパスポート取得年齢の18歳になってすぐドイツから逃げ出すのですが、イヴァ(本名はElse Ernestine Neuländer-Simon)は夫の意向で現地に残り、病院のX線技師として働いたことが災いして強制収容所で最期を迎えることになります。

いずれにしても、彼の写真に影響を与えた二人のアーティストが共に女性であることは、後年の作品に対する評価を考えると非常に興味深いことです。またイヴァが、ファッション写真やポートレートの他にヌード写真を発表していたことや、多重露光による実験的な作品作りをしていたことも注目に値するでしょう。

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ベルリンから逃れたヘルムート・ニュートンはイタリアのトリエステ港からSSコンテロッソ号に乗り込んで北京に向かいます。しかし、シンガポールで下船することになり、一時的にストレーツ・タイムズのカメラマンの職を得ますが、本人いわく2週間でクビになり、その後、英国当局によってオーストラリアに送られます。

戦後、メルボルンで写真スタジオを開業し、女優のジューン・ブラウン(June Browne)と出会って結婚したことが転機になります。ロンドンに渡り、British Vogueを皮切りにフランスやドイツの雑誌で仕事をして、それを足がかりに評判を高めていくのです。つまりヘルムート・ニュートンの基盤は、影響を与えた二人の女性アーティストと妻ジューン(後にAlice Springs名義で写真を発表しますが)によって築かれたもの。被写体が女性ばかりだったことを含め、あらゆる意味で女性に支えられた写真家と言えるでしょう。

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マリアンヌ・フェイスフル(Marianne Faithfull)は彼のことを“ワイマール時代の芸術家”と評していましたが、退廃的という意味ではシャーロット・ランプリング(Charlotte Rampling)をホテル・ノールピニュ(Nord-Pinus Arles)で撮った作品が筆頭にあげられるでしょう。シャーロット・ランプリング自身も“この撮影を通じて自分のイメージを創り出すことを覚えた、映画「愛の嵐」の直後でタイミングも良かった、私の写真の中で最高傑作だ”と語っています。

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グレイス・ジョーンズ(Grace Jones)やハンナ・シグラ(Hanna Schygulla)も饒舌に語っていましたが、最も示唆に富んだ話をしていたのはイザベラ・ロッセリーニ(Isabella Rossellini)だと思います。

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彼女はヘルムート・ニュートンの作風をマッチョだと認めながら、それは“女性に惹かれながら、弱みを握られて腹を立てている男性文化を暴くもの”だと喝破し、彼の人物像と彼の作品をきれいにつなぎ合わせます。

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本作の監督を務めたのは1954年ハノーファー生まれのドイツ人、ゲロ・フォン・べーム(Gero von Boehm)。数多くのドキュメンタリーを撮ってきた人だそうです。音楽の使い方もそれらしく、時折はさみ込まれる"Libertango"を何も気にせず聞き流していたのですが、ザ・キュアーの"Pictures Of You"がかかった時点で、ヘルムート・ニュートンの人生や作品作りに絡めた選曲をしていたのだと気付きました。スティーヴ・ハーレイ(Steve Harley)の“Make Me Smile: Come Up and See Me”も、きっと同じ観点で選んだ曲なのでしょう。

公式サイト
ヘルムート・ニュートンと12人の女たち

[仕入れ担当]

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