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2021年3月22日 (月)

映画「ミナリ(Minari)」

Minari 今年のゴールデングローブ賞の最優秀外国語映画賞受賞作です。「WAVES ウェイブス」や「フェアウェル」の製作会社A24と、「それでも夜は明ける」や「ビール・ストリートの恋人たち」で知られるブラッド・ピットの製作会社Plan Bが共同製作した作品で、以前この2社が手を組んだ「ムーンライト」がゴールデングローブ賞とアカデミー賞の作品賞を受賞していることもあって、来月末発表のアカデミー賞では「ノマドランド」と並ぶ有力候補に挙げられています。

物語は韓国から移民してきた夫婦が、成功を夢見てアーカンソー州の荒地で農業を始めるというもの。米国内で撮られた映画ですが、家族以外の登場人物はほんの僅かですので、劇中の会話はほぼ韓国語で行われています。昨年の「パラサイト」に続いて今年も韓国語の映画がアカデミー賞を獲得するのかという点も注目されている理由の一つです。

映画の始まりは、カリフォルニアの孵化場で初生びなの雌雄鑑別をして生計を立てていた李夫妻が、米国生まれの娘と息子を連れてオザークの台地に置かれたトレーラーハウスに引っ越してくる場面。時代は1980年代。広大な土地がアメリカンドリームをイメージさせますが、農業に人生を賭けようと意気込んでいるのは実は夫のジェイコブだけで、妻のモニカは不満を抱いていることがわかってきます。なぜならば幼い息子デビッドに先天性の心疾患があり、僻地暮らしでは緊急時に病院へアクセスできないから。貧しくても都市部で暮らしたいというのがモニカの本心のようです。

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少ない資金で手に入れた土地ですから、当然のように灌漑されていませんし、耕作地として適しているのかも不明です。しかしジェイコブは、韓国移民が増えているので韓国野菜の需要が高まるのは必至であり、主な生産地であるカリフォルニアから離れた地域では入手しにくいので、ここで栽培してダラスの業者に売れば必ず儲かると信じています。

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手始めに地下水の水脈を探すためダウジング(棒占い)を依頼しようとしますが、料金を聞いて尻込みし、結局は自ら見当をつけて井戸を掘ることに。そもそも、当地からダラスまで500kmの道のりをトラックで運ぶのも、他の州から空輸するのも時間的に差はなく、少し地理感があれば立地の優位性がないこともわかるわけで、事業計画もあまり練られてなかったのでしょう。

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作物を収穫して換金するまで時間がかかります。それまでの間、モニカが近所の孵化場で働いて暮らしていくわけですが、そうすると子どもたちの面倒を見る人がいません。モニカの苛立ちをなだめる意図もあって、夫婦は韓国からモニカの母親を呼び寄せることにします。そしてやってきたのがスンジャ。日本でいうところの下町っぽさというのでしょうか、良く言えばオープンな、悪く言えばガサツな部分が目立つ老人です。

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映画では彼女の背景に触れられませんが、リー・アイザック・チョン(Lee Isaac Chung)監督のインタビュー記事によると、スンジャはシングルマザーで、女手ひとつで育てあげたモニカを溺愛しており、子どもたちの面倒をみて欲しいと頼まれたとき、デビッドの手術費が賄えるように全財産を処分して渡米してきたという設定だそうです。ですから愛情の深さは人一倍なのですが、米国生まれのデビッドが知る一般的な老婦人とはタイプが異なります。それ故に始めの頃はスンジャに面倒を見られることを嫌がっていたデビッドも、いくつかの小さな事件を経て彼女に心を寄せるようになっていきます。

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もちろんそれで一件落着というわけではなく、収穫を間近に控えて井戸が涸れ、高額な水道水を使わざるを得なくなったり、期待していたダラスの業者から納入を断られたりといった苦難が続きます。その上、スンジャが脳梗塞で倒れてしまい、一命をとりとめたものの、この地で暮らすことへの不安感も高まります。

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夢の前に立ちはだかる生活不安、スンジャとデビッドの病気、地域住民とのコミュニケーションといった課題を抱えた移民ファミリーが、いかに生き抜くかを描いていく本作、ベースになっているのは監督の幼少期の実体験だそうですが、そもそもの着想源はウィラ・キャザーの小説「私のアントニーア」(My Ántonia by Willa Cather)だそうです。

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スンジャとデビッドがヘビの話をする場面は小説へのオマージュだと思いますが、ネブラスカを舞台に開拓時代の暮しを描いたこの小説の感覚や精神性が織り込まれているからこそ、韓国語を話す韓国人を描いた映画にもかかわらず米国人から共感を得られているのでしょう。

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スンジャ役のユン・ヨジョン(Yuh-Jung Youn)とデビッド役のアラン・キム(Alan Kim)の演技をはじめ、ジェイコブ役のスティーヴン・ユァン(Steven Yeun)、モニカ役のハン・イェリ(Yeri Han)、娘アン役のノエル・ケイト・チョー(Noel Kate Cho)が演じたこの家族のハーモニーが何より素晴らしい作品ですが、彼らの農業を手伝う朝鮮戦争の退役軍人で宗教右派のポールや、彼らが教会で出会う地元住民など、周辺の人々の設定や描写に工夫がある佳作だと思います。

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観ている最中は物語の展開を含めて淡泊な印象を受けましたが、鑑賞後は力強さを感じました。今年のアカデミー賞候補は、本作もRVパークで暮らす高齢者を描いた「ノマドランド」も共に車上生活というのが面白いですね。いずれにしても来月の授賞式までに観ておきたい作品です。

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公式サイト
ミナリMinari

[仕入れ担当]

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