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2021年7月26日 (月)

映画「83歳のやさしいスパイ(El Agente Topo)」

AgenteTopo 久しぶりのスペイン語映画は、アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にチリ代表で出品され、見事ノミネートされた作品です。原題を直訳すると"潜入スパイ"といったところでしょうか。探偵事務所の求人に応募してきた83歳のセルヒオ(Sergio Chamy Rodríguez)が老人ホームに潜り込んで内偵する映画です。

そんなドキュメンタリーの何が面白いのかと思われるかも知れませんが、これが笑いあり涙ありのドラマに仕上がっているところがマイテ・アルベルディ(Maite Alberdi)監督の仕掛けと編集の巧さでしょう。長編3作目の「La once」が2015年のゴヤ賞にノミネートされて以来、次々とドキュメンタリー作品を送り出している、1983年生まれの女性監督です。

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セルヒオの採用を決めるまでのプロセスも、彼が老人ホームの住人になって内情を探るくだりも、どちらもヤラセなしのぶっつけ本番だそうです。撮影に協力した老人ホームの運営者側は、セルヒオが探偵事務所に雇われていることを知らず、カメラクルーたちは施設の取材で撮影しているだけだと思っていたそうです(薄々気付いていた介護職員もいたようですが)。

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本作の主役であるセルヒオのミッションは、エルモンテの聖フランシスコ老人ホーム(Hogar de Ancianos San Francisco de El Monte)に入居しているソニア(Sonia)という老婆の周辺を探ること。彼女が虐待を受けているのではないかと疑った家族が探偵事務所に調査を依頼したのです。ちなみにエルモンテは首都サンティアゴの南西50kmに位置する人口36,000人ほどの小さな町です。

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無事、探偵事務所に採用されたセルヒオは事務所長のロムロ(Romulo Aitken)から、スマホでのビデオ通話や動画送信の方法から、スパイカメラの使い方まで教えられるのですが、スマホがなかなかうまく使えなくて観客の苦笑を呼びます。また、老人ホーム入居後も、メガネ型カメラを落としてテンプルが外れてしまうなどハイテク機器とは相性が悪く、そのせいか分厚いノートを常に持ち歩いて手書きでメモをとっていました。

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子どもたちに付き添われ、老人ホームの入居手続きを終えたセルヒオは、早速、調査を始めます。観客は、彼の素性がバレることを心配しながら観ているわけですが、それはまったくの杞憂で、すぐに施設の人気者になっていきます。特に、25年ここで暮らしているという未婚のベルタ(Berta Ureta)は彼をたいそう気に入り、困惑したセルヒオは"亡くなった妻のことが忘れられないので"と言って彼女からの求愛を断ることになります。

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彼がモテる理由は、入居している男性が4人しかいないという男女比もあるのですが、他の男性に比べて格段にお洒落だということもありそうです。この記事によると、シリア移民の子孫であるセルヒオの父はサンティアゴで婦人服店を経営しており、セルヒオも17歳からその店で働き、父の死後は店を継いで、経済危機で店を売却せざるを得なくなる1982年まで店主だったそうです。アラブ系の血なのか体型もよく、身なりもきちんとしているセルヒオは、明らかに他の入居者の男性とは見た目が違います。

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もう一つのモテる理由は、彼が聞き上手だからでしょう。スパイとして聞き取り調査をしているのですから当然ですが、老人ホームは語りたがりの老人で溢れていますので、他人の話をきちんと聞いてくれる彼は貴重です。これは、老人たちは孤独で、触れ合いを求めているという、映画のエンディングで結論づけられる内容とも通じるものです。

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セルヒオは婦人服店を手放した後、食料品店の経営に失敗し、政府の世帯主雇用プログラム(POJH)を通じてさまざまな職を経験したそうです。そのおかげもあって、話の合わせ方が上手で、いたわりを感じさせ、必要に応じてうまくウソをつくことができるのでしょう。上記の記事によると、入居してすぐにここから出たいと言い始めたそうですが、そういったプライドの高さもモテに繋がったのかも知れません。

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いずれにしても、セルヒオをはじめとする登場人物たちのキャラクターが監督の発案とうまくかみ合ったことが、これほど面白いドキュメンタリーに結実したことは間違いありません。偶然とはいえ、良い人を見つけたものです。また、南米チリの気候も良かったと思います。これが「スーパーノヴァ」のようなどんよりした空の下で撮られていたら、かなり印象の違う話になりそうです。

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実はこの映画、昨年のラテンビート映画祭で「老人スパイ」というタイトルで上映されていて、サン・セバスティアン映画祭で観客賞を獲った作品なので観ようかと思ったのですが、老人施設のドキュメンタリーと知って見送りました。喰わず嫌いはいけませんね。チリにはホドロフスキーやパブロ・ララインといった有名監督以外にも「ナチュラルウーマン」のセバスティアン・レリオや「蜘蛛」のアンドレス・ウッドといった実力ある作り手が多いので、もう少し注目してみたいと思います。

公式サイト
83歳のやさしいスパイThe Mole Agent

[仕入れ担当]

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