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2021年8月 3日 (火)

映画「ココ・シャネル 時代と闘った女(Les guerres de Coco Chanel)」

LesGuerresDeCocoChanelココ・シャネルの伝記を扱った映画は多々ありますが、ドキュメンタリー作品はあまりないのではないでしょうか。この映像は元々、フランスのアルテ(Association Relative à la Télévision Européenne)がTV放映したもので、55分の短尺ながら日本では映画館で特別上映されています。

原題の意味はココ・シャネルの戦争。彼女がパリで成功を収め、毀誉褒貶にもまれながら姿をくらまし、再び返り咲くまでを追う作品ですが、フォーカスしているのは彼女の闘争心で、そこに時代背景として大きな意味をもつ戦争を絡めていきます。

始まりは彼女の幼少期。修道院育ちで、そこで身につけた裁縫の技術がデザイナーとしての人生を切り拓いたと言われていますが、本作ではそのエピソードを否定します。母ジャンヌが亡くなり、行商人だった父アルベールが出奔した後、母と同じく洗濯婦だった叔母に家政婦として引き取られたというのが事実だそう。彼女が自らの生い立ちを脚色して語っていたことに触れながら、住民登録のような書類を示してそれを伝えます。

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しかし、すべてについて謎が解明されるわけではありません。兵隊相手の水商売をしていた時代のことなど、彼女が成り上がる過程については、可能性をほのめかすだけにとどめますし、対独協力についても史実を挙げながら特に結論づけることはしません。

そういう意味で、彼女のパブリックイメージを把握していないと理解できないという、ちょっと説明不足の映画です。このブログで紹介した劇映画「ココ・シャネル」「ココ・アヴァン・シャネル」「シャネル&ストラヴィンスキー」などで描かれた伝記的要素とは異なる部分もありますが、これらで基礎知識を得た上でご覧になった方が良いかも知れません。

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このドキュメンタリー作品の価値は、ココ・シャネルに関するマイナスの要素を臆せず描いていることでしょう。特に第二次世界大戦からパリ解放、スイスへの亡命に至るまでの対独協力と、香水事業をはじめビジネス面で対立したユダヤ系のヴェルテメール兄弟との確執については、とても冷徹に描かれます。

デュラスの自伝的小説/映画「あなたはまだ帰ってこない」では対独協力者に対する厳しい見方が対独レジスタンスの側から描かれていましたが、やはり小説家はこういった立ち位置を嫌うようで、本作ではサガン(Françoise Sagan)が登場し、パーティに2度呼ばれたが彼女の反ユダヤ主義にはうんざりしたという感じで糾弾します。

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リッツで暮らしていたことについても、ダグラス・カークランドが撮った「ココ シャネル 1962」のような温かな視線はみられず、ドイツ外交官と逢瀬を楽しみ、彼らの諜報活動を助けるためにマドリードに旅したことなど、彼女の暗部が強調されて描かれます。

また、ヴィシー政権に対して(ユダヤ人の)ヴェルテメール兄弟に所有されてるシャネル社はアーリア人ある自分に譲受されるべきだと主張するなど、自らの経済的利益のためにナチスの思想に便乗した事実も明かされます。だからといって、ずっと親独だったわけではなく、スイス亡命時には自店のシャネルNo.5を上陸してきた米兵にすべて提供したようです。何らかの政治的思想というより、勝ち馬への乗り換えが早かっただけかも知れません。

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このようにネガティブな要素がふんだんに盛り込まれている作品ですが、そのすべてに共通するのは、彼女の成功に対するあくなき執着心です。ライバルのデザイナーと対立し、労働運動を始めたお針子と対立し、フランスの粛清委員会と対立しながらも、経済的利益の源泉であるブランドと店舗にこだわり続けます。

「メゾンだけは手放さない、唯一の私のもの」という言葉に彼女の人生観すべてが含まれているような気がします。また「12歳で知った、人は何度でも死ねる」という言葉には彼女の闇の側面を支えた達観が見えます。

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そんなシャネルの陰日向を網羅的に見せてくれるこの映画、1時間足らずの短い作品ですので、お買い物のついでにふらっと見に行くと良いと思います。

公式サイト
ココ・シャネル 時代と闘った女Les guerres de Coco Chanel

[仕入れ担当]

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