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2021年10月12日 (火)

映画「TOVE トーベ」

TOVE子どもの頃からムーミンやムーミン谷の仲間たちに親しんでいても、その作者であるトーベ・ヤンソン(Tove Jansson)のことはよく知らないという方も多いのではないでしょうか。フィンランドの国民的作家であるトーベ・ヤンソンですが、本作の監督を務めたフィンランド人のザイダ・バリルート(Zaida Bergroth)でさえも、映画製作のリサーチで新たな発見が多くあったと語っています。

そういった知られざる姿に脚光をあてた伝記映画です。なお、両親ともにスウェーデン系だったトーベ・ヤンソンはヘルシンキ生まれのスウェーデン語話者だったそうで、フィンランドを舞台にしたフィンランド映画ながら、スウェーデン語主体で作られています。ちなみにフィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語です。

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父ヴィクトル・ヤンソンは彫刻家、母シグネ・ハンマルステン=ヤンソンは挿絵画家という芸術家ファミリーで育ったトーベ。映画ではあまり触れられませんが、幼少時は経済的に厳しかったようで、また二度の大戦の間でフィンランドが難しい位置づけだったこともあり、長らく不安定な暮らしだったようです。それが彼女の自由を求める心と自立心に繋がっていったのかも知れません。

映画の始まりは父に叱咤されながら絵を描くトーベ。それが不満な彼女は打ち捨てられたような部屋を借り、自ら改装して自分のアトリエを持ちます。本心は画家を目指していたようですが、戦中に描いた風刺画が評判を得たようで、最初のパーティーシーンでもヒトラーの戯画について言及されています。

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そのパーティで出会ったのが、彼女の重要な友人となる政治家のアトス・ヴィルタネン。初対面の時点で彼は既婚者でしたが、その後に離婚し、恋人のような曖昧な関係になります。なぜ曖昧な関係かといえば、トーベは同じくパーティで出会ったヴィヴィカ・バンドラーに強く惹かれていたから。

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舞台演出家であり市長の令嬢でもある彼女はトーベがそれまで経験したことのない世界を見せてくれます。その一つが女性同士の恋愛で、男性のみが恋愛対象というトーベの固定観念を打ち壊します。またムーミンの物語を舞台化し、それまで彼女が戯れに描いていただけのキャラクターを広く世間に知らしめることになります。

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当時、フィンランドでは同性愛が違法で、トーベとヴィヴィカの関係も極秘だったとのこと。そのため、お互いにしかわからない言葉や暗号で愛を伝えあい、それがムーミン谷のトフスランとビフスランのキャラクターに反映されているそうです。仲良しでいつも手をつないでいること、誰にも理解できない独自の言語で話すこと、狭いところに隠れるのが好きなことなどに通じるものがあります。

ヴィヴィカは既婚者であると同時にトーベの他にも複数の同性の愛人がいて、いつもトーベの心を乱していたようです。その支えとなったのがアトスとの曖昧な関係で、自分は社会主義者だからとトーベとヴィヴィカの関係を容認し、結果的に二人は結婚を検討しながらもずっと友人関係を続けることになります。アトスは自分の離婚を知らせるシーンで帽子を買ったことを伝えますが、それは彼が帽子を被ったキャラクターであるスナフキンの原型になったことを示しています。

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ムーミンのイブニングニュース紙連載が決まり、トーベは生活不安から解放されます。ヴィヴィカともアートスとも友人関係を保っていたというものの、やはり空虚な気持ちを埋めたかったのでしょう。次なる恋人は映画の終盤に少しだけ登場するトゥーリッキ・ピエティラ。生涯のパートナーとなる女性です。トゥーティッキー(おしゃまさん)は彼女がモデルと言われています。

そしてアシスタント的な位置づけになる弟のラルス。映画の序盤から登場していながら、ほとんど脚光を浴びない彼ですが、後に共著者としてラルス・ヤンソンの名前がクレジットされるようになることでもわかるようにムーミン創造の背景としてはトゥーリッキと並ぶ重要人物です。

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しかしこの映画ではこの二人についてはほとんど触れず、父ヴィクトル、母シグネとの関係、アトス、ヴィヴィカとの関係を対照させながら物語を進めます。そういう意味で、トーベがいかに創り上げられていったか(ムーミンの創造ではなく)を描いた映画といえるでしょう。

トーベ役のアルマ・ポウスティ(Alma Pöysti)はトーベ・ヤンソン生誕100年を記念して制作された舞台でトーベを演じた人だそう。単調になりがちな伝記物語を、折に触れて見せるダンスで抑揚をつけていました。

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ヴィヴィカ役のクリスタ・コソネン(Krista Kosonen)は「ブレスレス」でモナを演じていたフィンランド人。「ブレードランナー 2049」にも出ていましたので、本作の出演者では最も知られた人かも知れません。

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その他、トゥーリッキ役のヨアンナ・ハールッティ(Joanna Haartti)、ヴィクトル役のロベルト・エンケル(Robert Enckell)、ラルス役のウィルヘルム・エンケル(Wilhelm Enckell)などのフィンランド人俳優と、アトス役のシャンティ・ローニー(Shanti Roney)、シグネ役のカイサ・エルンスト(Kajsa Ernst)などのスウェーデン人俳優が共演しています。

公式サイト
TOVE トーベ

[仕入れ担当]

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