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2022年9月12日 (月)

映画「靴ひものロンド」(Lacci)」

lacci00.jpg イタリアの作家ドメニコ・スタルノーネ(Domenico Starnone)が2014年に発表した小説の映画化です。原作はイタリア語ですが、ローマに移住したピューリッツァー賞作家のジュンパ・ラヒリ(Jhumpa Lahiri)が"TIES"というタイトルで英訳し、2017年に英国サンデー・タイムズ紙のBooks of the Yearや米国ニューヨーク・タイムズ紙の100 Notable Booksなどに選出されて英語圏でも注目を集めました。

監督は「ローマ法王になる日まで」のダニエーレ・ルケッティ(Daniele Luchetti)。章立ての妙で読ませる原作小説を巧みに構成し直し、本を読んだ人にも読んでいない人にも楽しめるように仕上げています。

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章立ての妙というのは、3つのパート(libro)に分かれている最初のパートを他の女性と暮らし始めた夫へ送りつけた妻の手紙、つまり妻の視点で描き、次のパートを元の鞘に戻った夫婦の約30年後を夫の視点から、最後のパートを二人の子どもたちの視点から描いていく組み立てのこと。最初のパートは妻の恨み節が並ぶばかりで、精神的なバランスを崩していく妻の状況しかわかりませんが、次のパートに移ると、一つの事件をきっかけに夫が往時の出来事やその時々の思いを独白し、全貌が見えてくるようになっています。

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映画では手紙の内容を流れに織り込み、夫が他の女性と関係を持ったことを告白した1974年から順に夫がナポリを出てローマで女性と暮らし始める経緯を追っていくのですが、次第に壊れていく妻の演技が素晴らしく、手紙に記されていなくても妻の心の揺らぎが十分に伝わってきます。

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その妻ヴァンダを演じたのは「ミラノ、愛に生きる」や「幸福なラザロ」に出ていたアルバ・ロルヴァケル(Alba Rohrwacher)。ヴェネツィア映画祭で女優賞を獲った「ハングリー・ハーツ」でも狂気をはらんだ母親像をリアルに演じていましたが、本作でも、内向して自らを追い詰め、それによって子どもたちを傷つけていくヴァンダを絶妙な演技で表現しています。

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相手役、夫のアルドを演じたのは「輝ける青春」で長男ニコラ、「シチリアーノ」でサルヴァトーレ・コントルノを演じていたルイジ・ロ・カーショ(Luigi Lo Cascio)。結婚14年目にして若い女に走るクズ男であると同時に、子どもたちに責任を感じ、壊れていく妻を恐れながら復縁しようとする複雑な役柄がピッタリはまっています。ちなみにアルドの不倫相手であるリディア役はリンダ・カリーディ(Linda Caridi)で、マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ監督「女性の名前」でセクハラ男トッリの娘を演じていた人です。

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そんな3人が繰り広げる愛憎劇ですが時代背景も重要で、イタリアでは長らく離婚が認められず、1970年に合法化された後も5年間の別居を経ないと協議に入れなかったようです。1962年に結婚したアルドは、1974年からローマで暮らし始め、78年に再びナポリに戻るわけですが、この5年弱という微妙な別居期間にも意味があるのだと思います。

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時代が下って約30年後。ヴァンダ役はラウラ・モランテ(Laura Morante)、アルド役はシルビオ・オルランド(Silvio Orlando)に変わりますが、結婚後52年を経た夫婦は際どいバランスを保ちながら一緒に暮らしています。アルドの享楽的な性格は薄まりながらも残り、ヴァンダの中で育まれた狷介な部分はそのままです。

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二人が海辺へバケーションに出かけ、帰宅すると、家の中がめちゃくちゃに荒らされています。蔵書や書類、ビデオやCDがそこら中にまき散らされ、調度品は床にたたきつけられて壊されています。留守中に空き巣に入られたに違いありません。愛猫ラベスの行方もわからず、ヴァンダは憔悴しきっています。

小説では床にばらまかれた手紙を見たアルドが昔の出来事を思いだしていくのですが、映画では既に事情が明かされていますので、問題になるポイントは一つです。リディアと暮らしていた時代にポラロイドカメラで撮った写真を、ヴァンダと暮らすようになってからも捨てられず、プラハで買ったキューブの中に隠していたのです。このキューブには仕掛けがあって、一定の順番で寄せ来細工をズラしていくことで開けられるようになっています。

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キューブが空っぽになっていることに気付いたアルドは焦ります。リディアのあられもない姿を撮った写真もあり、自分より先にヴァンダが見つけたら状況が悪化することは間違いありません。床にはさまざまなものが散らばっていますので、どこかに紛れている可能性が大です。

この部分、小説ではバケーションに出かける直前に治療器を届けに来た女性が盗みに入ったのではないかと疑っていて、リディアの写真と誘拐したラベスを脅迫の材料に使うのではないかと疑心暗鬼にとらわれながら探すのですが、映画ではヴァンダに見つかることだけを恐れるシンプルな展開になっています。

最終章では中年に差し掛かった息子サンドロと娘アンナが登場し、子どもだった彼らが母に連れられてローマまで父に会いにいったときの思い出が語られます。そこで出てくるのが靴ひもの話。アンナが父に向かって、サンドロに靴ひもの結び方を教えたでしょ、誰もしないような変な結び方をするの、と問いかけます。

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これがタイトルの由来であり、この物語全体を包み込むテーマでもあるのですが、つなぐもの、縛りつけるものの隠喩であると同時に、サンドロにだけ結び方を教えたというアンナの嫉妬が滲んでいることもポイントです。小説ではサンドロが1965年生まれ、アンナが1969年生まれと、映画と異なり4つ違いの兄と妹の関係になっているので尚更で、男性であり年長であるサンドロが父親から特別扱いされていたのではないかという疑いを抱いているのです。

大人になったサンドロは父と同じように女性に好かれ、放逸な暮らをしていますが、アンナは母に似て、嫉妬深い孤独な人間になっています。よその女に走った父親を嫌悪すると同時に洗練された女性と楽しそうに暮らす父親に魅了され、父親に見放された母親を哀れみながら育ったアンナ。サンドロも、絶えずピリピリしている母親を嫌い、家庭を牢獄のようだと言った父親に共感を抱いています。すべての原因は父アルドにあると理解しながら、一家を不安定にしたのは母のエゴだと受け止めてきたのです。

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そういった複雑な感情とどう向き合うか、というのがこの物語の着地点ですが、映画も小説と同じく味わいのある余韻を残して終わります。果たしてこれがこの家族の新たな出発点となるのでしょうか。

公式サイト
靴ひものロンド

[仕入れ担当]

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