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2022年10月 3日 (月)

映画「秘密の森の、その向こう(Petite maman)」

Petite maman セリーヌ・シアマ(Céline Sciamma)監督の作品は「燃ゆる女の肖像」しか観ていないせいで、次作が子どもを主役に据えた映画だと聞いたときは不思議な感じがしましたが、前作も前々作もティーンエイジャーを扱った作品だったのですね。とはいえ本作の主人公は8歳の少女。まだあどけない子どもです。もちろん恋愛映画ではありません。

敢えていえばファンタジーということになるのでしょうか。一人の少女が、森の中で自分と同世代だった頃の母親と出会うお話です。8歳の少女同士の交流を淡々と描いていく作品で、特にドラマティックな展開もなく、静かな物語が「燃ゆる女の肖像」と同じくクレア・マトン(Claire Mathon)の美しい映像で綴られます。

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映画の始まりは、少女ネリーが一緒にゲームをしていた老婆にAu revoirと告げて部屋を出ていく場面。続いて隣の部屋の老婆にもAu revoirと挨拶していくのですが、最後の部屋は自分の祖母がいた部屋。ベッドの上には彼女が愛用していた杖が置かれていて、祖母が亡くなったことが判ります。ネリーは一番Au revoirを言いたかった人にAu revoirと言えなかったことを悔やんでいます。

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ネリーと父母の家族3人は祖母が暮らしていた家に行って、遺品整理を始めます。父は食器棚の裏の旧い壁紙に驚嘆したりしながら着々と作業を進めていきますが、昔そこで暮らしていた母マリオンは、子ども時代のノートなど思い出の品を見て感傷的になってしまい、手が止まってしまいます。結局、過去の記憶の重圧に耐えられず、翌朝、母は立ち去ってしまいます。

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父と二人で片付けを進めていたネリーは古びたパドルボールを見つけます。父に遊び方を教わり、屋外で試していると紐が切れてボールが木立に向かって飛んでいってしまいます。

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ボールを探そうと入った森にいたのが一人の少女。ネリーは彼女が枯れ枝を運ぶのを手伝って、彼女が枯れ枝を組んで作っている小さな小屋に行き着きます。

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その前日、ネリーが母と一緒に森の中に小屋を作った思い出を語り、父は覚えていないと言う場面があるのですが、きっとそれはネリーの記憶の中にある小屋と同じものなのでしょう。

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森で出会った少女の名前はマリオン。母と同じ名前です。誘われて彼女の家に行ってみると、そこは祖母の家。しかし先ほどまで父と片付けていた祖母の家とは違い、家具も食器も揃っていて、彼女の母もいます。つまり森で出会ったマリオンは、母マリオンの少女時代の姿であり、彼女の母はネリーの祖母の若い頃の姿なのです。

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時間を遡ったわけですが、そこにはSF映画のようなややこしい理屈はありません。木立を抜けた先には祖母と母が暮らす昔の家があり、戻ってきた先には父と片付けをしている今の家があるだけです。ネリーはそれを行き来して、少女マリオンと仲良くなっていきます。

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森で小屋作りを手伝い、彼女の家で一緒にクレープを焼いたり芝居ごっこをして、マリオンの誕生日を祝います。母マリオンがノートを見て思い出した過去の記憶をネリーが追体験するかのようです。もしかすると、母マリオンにとって重すぎる記憶を、ネリーが分かち合ってあげているのかも知れません。

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個人的には、彼女たちの芝居ごっこが、警部が登場する殺人サスペンスあり、公爵夫人の出産を巡るロマンスありといった、ある意味、非常にフランス的な設定で面白かったのですが、いずれにしても二人の子役の演技力には感心しました。

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そのネリーとマリオンを演じているのが、オーディションで選ばれたというジョセフィーヌ・サンス(Joséphine Sanz)とガブリエル・サンス(Gabrielle Sanz)。服装が変わると見分けがつかなくなるほどよく似た双子の姉妹です。彼女たちの愛らしさと森や湖の美しさや静けさが独特の情感を醸し出し、この映画の不思議な設定に違和感を抱かせません。

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撮影した場所は監督が生まれ育ったというセルジー=ポントワーズ(Cergy-Pontoise)で、少女たちがゴムボートをこぎ出す人工池もピラミッドも実在します。ピラミッド(Pyramide)はイスラエルの彫刻家ダニ・カラヴァン(Dani Karavan)が創り上げたAxe majeurの一部で、太陽と風が自然の音と光を奏でる場所とのこと。ちなみにAxe majeurは大きな軸、主軸といった意味で、池の北側にあるベルヴェデーレの塔(La Tour Belvédère)から対岸にあるアムの交差点(Le Carrefour de Ham)まで12の要素で構成された作品です。

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エンディングでかかる曲はジャン=バプティスト・ドゥ・ロビエ(Jean-Baptiste de Laubier)のLa Musique du Futur(≒未来の曲)。「燃ゆる女の肖像」と同じく監督自身の作詞だそうです。その歌詞がこの淡い味わいの物語をさりげなく解説します。

公式サイト
秘密の森の、その向こうPetite maman

[仕入れ担当]

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