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2022年10月17日 (月)

映画「ドライビング・バニー(The Justice of Bunny King)

Bunny King ニュージーランドの映画監督というとジェーン・カンピオン、最近ではタイカ・ワイティティぐらいしか思い浮かびませんが、本作のゲイソン・サバット(Gaysorn Thavat)はその二人に続く新しい才能かも知れません。長編映画第一作目ながらトライベッカ映画祭で高い評価を受けた監督だそうです。

物語は子どもたちと引き離されて暮らすシングルマザーが、末娘の誕生日を一緒に祝いたくてとった行動が立てこもり事件になってしまうというもの。邦題だけでは車で移動するロードムービーと勘違いしそうですが、運転する場面はほんの僅かで、ロケ地も多くありません。原題の通り、主人公のバニー・キングが自らの正義を追い求めるお話です。

そのバニーを「ベイビーティース」「トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング」「ニトラム」のエシー・デイビス(Essie Davis)が演じているのですが、ほぼ彼女の演技に支えられた映画と言っていいでしょう。ほとんど一人で物語を引っ張っていきます。

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映画の始まりは路上で信号待ちの車のガラスを拭いて小銭を稼ぐ人々の映像。いわゆるsqueegee banditですね。彼らの動きが軽快だからか、BGMに4 Non Blondesの"What's Up?"がかかっているせいか、暗い印象は受けませんが、いわば社会の底辺の人々です。

その一人がバニー。物語の進展に伴って彼女の背景が明らかになっていきますが、夫を殺して服役した後、妹グレースの再婚相手ビーバンの家に居候している40歳の女性です。息子のルーベンと幼い娘シャノンは家庭支援局に保護されていて、会いたくても、局員の監視下で束の間の面会しか許されません。

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子どもたちを引き取るための要件は、暮らす家があること。しかしこのハードルは高く、公営住宅は人気が高くて入居困難で、民間の賃貸住宅も彼女の収入では厳しいものがあります。とはいえ、子どもと面会した際にシャノンの誕生日を家で祝おうと約束してしまった彼女は、なんとかそれまでに住居を確保しようと躍起になっています。

一計を案じたバニーは、ガレージを住居として貸して欲しいとグレースに頼み込みます。彼女は渋りますが、意外にもビーバンはそれを受け入れてくれます。家賃を払う他に、今まで通り、勤めに出ているグレースの替わりに家事をこなし、子どもたちの面倒を見るというのが条件です。

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早速、ヒーターなどを集めてきてガレージに運び込みます。しかしそこでグレースの娘トーニャが、義父であるビーバンから性的虐待を受けている場面を目撃してしまいます。カッとなったバニーは強硬にビーバンに詰め寄りますが、彼は誤解だと言い逃れようとします。

激怒して当然という状況ですが、これに限らずバニーの問題はアンガーマネジメントができないことにあります。夫を殺した一件も、事情を知れば情状酌量の余地があるとはいえ、冷静さを失ったことで重罪を犯し、現在の苦境に立たされているわけです。

結果的に妹のグレースもビーバンを信じるという立ち場をとり、バニーはこの家から追い出されてしまいます。もちろんガレージを借りる約束も反故になりますし、それだけでなくクロゼットの奥のビンに貯めていた小銭も返して貰えません。文字通り、文無しです。

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同じ交差点で働くsqueegee banditの仲間が、家族と暮らす自宅に泊めてくれるのですが、何としても住居を得なければならないバニーはその家に家庭支援局の局員を呼んで、暮らす家が見つかったとウソをつきます。運悪く、そこに仲間の母親である家主が帰宅し、彼女は事情を察して話を合わせてくれたものの、バニーがこの家に居続けることは難しくなります。

ただ子どもたちと一緒に暮らしたいだけなのですが、いろいろ策を弄した挙げ句、どんどん追い込まれて行ってしまうバニー。そして彼女が選んだ手段は・・・という具合に話が展開していくのですが、この映画の良い部分は、バニーを無垢な善人として描いていないところでしょう。非常に問題の多い人物で、それが状況を悪化させていくのですが、それでも彼女に共感できるのはひとえにエシー・デイビスの巧さだと思います。

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もちろん物語の核心は、彼女のような女性が社会制度の網からこぼれ落ちてしまうという現実です。福祉の問題については「わたしは、ダニエル・ブレイク」、家がないことの切実さについては「サンドラの小さな家」でも描かれていましたが、バニーには前科者という烙印まであり、それがさらなる困難を呼び込むわけです。

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グレースが夫を疑うことに躊躇するのも、女性が一人で生きていくことの難しさを知っているが故でしょうし、トーニャが同性で肉親である母親から守ってもらえない現実を受け入れるのも、女性が置かれている立場の弱さに気付いているからでしょう。それでもトーニャは、若いだけあってそれが間違いだと思っていますし、だからこそ抵抗すべきだと考えたのだと思います。

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そのトーニャを演じたのは「ジョジョ・ラビット」「パワー・オブ・ザ・ドッグ」「ラストナイト・イン・ソーホー」のトーマシン・マッケンジー(Thomasin McKenzie)。彼女は「ケリー・ギャング」でネッドの妻を演じていましたので、同作でネッドの母を演じたエシー・デイビスとは二度目の共演ということになります。

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ニュージーランドという土地柄か、人種の多様性が見られるのもこの映画の特色です。終盤で重要な役を果たすトリッシュを演じたタネア・ヘケ(Tanea Heke)はマオリだそうですし、家庭支援局の担当者を演じたザナ・タン(Xana Tang)はニュージーランド生まれの中華系ベトナム人だそうで、不思議な名前を持つこの監督も中華系の血が入っているそうです。

公式サイト
ドライビング・バニー

[仕入れ担当]

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