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2022年11月 8日 (火)

映画「マンティコア(Mantícora)」

Mantícora 2016年に観た「マジカルガール」、2019年に観た「シークレット・ヴォイス」の監督カルロス・ベルムト(Carlos Vermut)の最新作です。2019年に日本絡みのミュージックビデオを撮っているようですが、本作も相変わらず随所に日本への関心の強さを感じさせる1本になっています。

主人公のフリアンはゲームのキャラクターデザインをしているクリエーターで、マドリードで暮らす独身男性。彼が創作するモンスターのCGは社内でも高く評価されているのですが、ゲームの内容はといえば打ち合わせで人体損壊のリアリティが議題に上がるような残虐なもののようです。

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このときの社内の雑談で、日本に旅行に行き、混浴の温泉に驚いたという会話が聞こえてきますが、これは単に監督が日本通だと示したのではなく、伏線として用意したシーンだということが後々わかります。

フリアンは日頃から自宅で会社支給のPCを使ってデザイン作業をしています。VRヘッドセットを装着して、何もない空間でアクションペインティングのように身体を動かして描画する姿は、創作中の画像をうかがい知れない傍目から見れば異様ですが、これも彼のスタイルのようです。

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そんなある日、助けを求める声が聞こえてきて隣室が火事だと気付きます。ドアを壊して室内に入り、燃えているカーテンの消火をするのですが、ひとり留守番をしていた子どもは恐怖で震えていて、フリアンは母親が帰宅するまで一緒にいてあげることにします。

この少年がクリスチャン。ピアノが上手なおとなしい男の子で、母子の二人暮らしのようです。

フリアンもクリスチャンも怪我はありませんでしたが、クリスチャンにはショックが残っているようですし、フリアンも病院の診断では何も問題なかったのに、夜中に呼吸困難の発作を起こして病院に駆け込むことになります。火事の影響によるパニック障害という診断を受けて抗うつ剤を処方されます。

そんなことがあったせいか、フリアンはふと思いついたようにノートにクリスチャンを素描して、自宅に戻ってからPCでモデリングします。

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フリアンの出社日に同僚の誕生日のサプライズパーティがあり、その同僚からディアナを紹介されます。ショートカットの似合うボーイッシュな女性です。後日、たまたま映画館で彼女を見かけたフリアンは衝動的に尾行してしまい、思いがけず彼女と会話を交わすことになります。

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観客は直前のシーンで、フリアンが他の女性とクラブで出会い、うまくいかなった経緯を見ていますので、彼の好みに一貫性がないというか、幅が広いと思うでしょうが、そのエピソードもおそらくひとつの伏線です。

ディアナはバルセロナ出身。いまは父が暮らすマドリードに来て、寝たきりになっている父の看病をしています。彼女にはボーイフレンドと言えるかどうか微妙な関係の男性がいて、フリアンと3人でカフェに行くのですが、その男性は対抗意識なのか単なるゲーム嫌いなのか、フリアンの仕事を全面的に否定します。

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別の日、フリアンとディアナはプラド美術館でデートします。フリアンは彼女をゴヤの黒い絵(Pinturas negras)を展示した部屋に案内し、二人で“我が子を食らうサトゥルヌス”などを観賞するのですが、彼女はこの部屋(彼女の表現ではla sala negra)に来たのは初めてだといって新鮮な驚きを感じているようです。フリアンは仕事柄か、伊藤潤二のコミックを愛読するホラー好きでもあります。

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二人は徐々に親しくなり、ディアナはフリアンとの関係に嫉妬したボーイフレンドと別れてしまいます。しかし、フリアンと深い関係になろうとした瞬間に電話があり、父の死を告げられます。そして父の死に目に会えなかったことを悔やみ続けることになります。

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傷ついたディアナと彼女の父の故郷であるシッチェスの海岸に行ったり、いろいろあるのですが、フリアンは突然、会社に呼び出され、会社のPCでクリスチャンをモデリングしていたことを理由にクビを告げられます。表面的には会社資産の業務外使用ということですが、問題の本質はペドフィリアであり、会社の同僚からもディアナからも遠ざけられることになります。その結果、フリアンがある行動を起こし、そこでマンティコア、ライオンのような胴と人のような顔をもつ怪物の絵を見て絶望することになります。

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親との関係性など盛りだくさんなストーリーですが、ポイントは、残虐性の高いゲームを創り出し、ゴヤの絵画を受け入れている社会がペドフィリアを断罪することの是非でしょう。日本は欧米に比べてペドフィリアに対する認識が甘く、そのあたりが日本通の監督の意識にありそうです。

もう一つはエンディングのディアナの行動に顕れる共依存。フリアンの性癖や衝動的行動にフォーカスしながら、最後はディアナの嗜癖で締めくくるあたり、この監督ならではの運び方だと思いました。

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主人公のフリアンを演じたのはナチョ・サンチェス(Nacho Sánchez)。1992年アビラ出身で舞台俳優を経て2019年に映画デビューしたそうです。相手役ディアナを演じたゾーイ・ステイン(Zoe Stein)はカタルーニャで活躍している女優だそうで、終盤にカタランを使うシーンがあります。

公式サイト
Mantícora

[仕入れ担当]

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