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2023年4月10日 (月)

映画「The Son 息子」

The Son 一昨年上映されたフロリアン・ゼレール(Florian Zeller)の初監督作品「ファーザー」に続く新作映画です。前作同様、元々は舞台で上演していたものを自ら脚色して映画にしています。原作である舞台劇は家族をテーマにした三部作で、母(La Mère)、父(Le Père)、息子(Le Fils)の順で発表されているようですが、なぜか「母」の映画化の話は出てないようです・

前作でアカデミー主演男優賞に輝いたアンソニー・ホプキンス(Anthony Hopkins)が、本作にも主人公である"息子"の祖父という小さな役で出演しています。代わりに"息子"の父親役のヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)が物語上の重要な役割を担い、プロデューサーも務めています。タイトル通り"息子"にフォーカスした作品ですが、ポイントになるのは"息子"を心配して全力を尽くす両親であり、この映画においては父親の比重が非常に高くなっています。そういう意味でヒュー・ジャックマンの映画と言えるかも知れません。

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ヒュー・ジャックマン演じるピーターはエリート弁護士で、妻のベスと乳児のテオの3人家族でニューヨークに暮らしています。通常の仕事が忙しい上に、大統領選のチームから声がかかっているようで、やるべき仕事、やりたい仕事が山積みの状態です。

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そんなある日、ふいに前妻のケイトが訪ねてきます。彼女曰く、息子のニコラスの様子がおかしい。毎朝、出かけて行くのに学校にも行っていない、何を訊ねても答えてくれないので会って話して欲しいということです。つまり父親の不在が息子に影響を及ぼしているのではないかと考えているわけです。

ピーターは仕事中にケイトの家に寄り、建築事務所で働くケイトが留守の隙にニコラスと二人で話します。学校に行っていないと聞いたが、という問いに、何でもないと最初は落ち着いて答えていたニコラスでしたが、次第に感情的になってきます。このあたりでニコラスはSATを目前に控えた17歳ぐらいだとわかってくるのですが、精神的に不安定な状態にあるようで、自分自身もどうしたら良いかわからないようです。

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そんな中で彼が現状を変える方法として口にしたのが、ピーターと暮らしたいということ。もうここにいたくない、このまま母親と暮らしていくのは難しいと言います。ピーターには新しい家族がありますので、一旦は逡巡するのですが、ニコラスの自傷癖に気付いたこともあって最終的に彼の要望を受け入れることにします。

問題はベスです。どうやらケイトとニコラスと3人家族だったピーターがベスとの不倫関係の果てに家族を捨てて家を出たたようで、ベスに受け入れて欲しいと言いにくい経緯があるようです。それでもニコラスの状況を詳しく説明し、ベスに納得して貰って、彼らの家で一緒に暮らし始めます。

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当初はうまく行っているように見えます。学校にも通っているようですし、友だちと言えるかどうかはともかく、校内でのつきあいもできてきたようです。しかし、ベスがニコラスのベッドマットの下に隠された刃物に気付き、日中から公園で佇んでいるニコラスを見かけ、それをピーターに伝えたことで危ういバランスが崩れ始めます。

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ピーターは大統領選のチームとのミーティングの帰り道に父親の家に立ち寄ります。ワシントンDCにある立派な屋敷で、書斎には大統領と撮った写真が飾られていることから、政権に絡むような仕事をして成功を収めた人物であることが伝わってきます。

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父親から、なぜ以前は嫌っていたワシントンDCに来たのかと聞かれ、大統領選キャンペーンへの参加を要請され、そのミーティングの帰りだと答えます。しかしニコラスが問題を抱えているので断ろうと思っていると言い足すと、それを聞いた父親が怒り始めます。オマエは自分が良い父親だと見せびらかしに来たのかと。

40年前、家族をないがしろにして働いていた父親は、妻、つまりピーターの母親が死の床に伏せっているときも、病室に現れることはありませんでした。

あなたは出張していると言っていたが、トムは前日にディナーを共にしたと言う。この街に戻っているなら見舞いに来るべきだった。そんなグチをいうピーターに対し、50歳にもなってティーンエイジャーのようなことを言ってるんじゃない、大人になれ!と父親は吐き捨てます。

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つまり、妻を軽んじて子どもの信頼を失った父親を持つピーターと、妻を捨てて不倫相手に走った父親を持つニコラスは相似形なのです。言い換えると、ピーターはひどい父親の息子であると同時にひどい父親でもあるわけで、ヒュー・ジャックマン演じるピーターの重要度とこの物語のタイトルの意味がわかってきます。

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ピーターとその父アンソニーと息子ニコラスの父子3代が軸になる物語ですが、ヒュー・ジャックマンとアンソニー・ホプキンスという大ベテランと並んでニコラスを演じたのは、2002年生まれのゼン・マクグラス(Zen McGrath)。長編劇映画への出演は3作目ということですが、視線の揺れだけで演技するような難しい役を好演していました。

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脇を固めるのは、ニコラスの母でありピーターの前妻であるケイトを演じたローラ・ダーン(Laura Dern)と、ピーターの新しい妻であるベスを演じたバネッサ・カービー(Vanessa Kirby)。平静を装いながら精神的負担を滲ませるバネッサ・カービーの演技も良かったと思いますが、やはりローラ・ダーンの尽くしているのに報われない感じのキャラクターが効いています。彼女が誰よりも不憫です。

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些末なことですが面白いと思ったのは、ピーターとベスの子どもである乳児のテオ役で、フェリックス・ゴダード(Felix Goddard)とマックス・ゴダード(Max Goddard)という二人がクレジットされていたこと。おそらく、泣き出したりグズったりといった撮影できない状況に備えて、外見がよく似ている兄弟二人をキャスティングしたのでしょう。

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公式サイト
The Son 息子The Son

[仕入れ担当]

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