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2023年4月17日 (月)

映画「生きる-LIVING」

LIVING 黒澤明監督の名作映画をカズオ・イシグロ(Kazuo Ishiguro)の脚本でリメイクした作品です。こういう触れ込みですから、日本のメディアでも盛んに取り上げられていましたが、良くも悪くもあっさりした映画ですので、期待しすぎると肩すかし食うかも知れません。

主演はビル・ナイ(Bill Nighy)。クリスマス映画の金字塔「ラブアクチュアリー」で広く知られるようになった英国俳優ですが、当時すでに50代半ばで、歳をとってから人気を得た関係で常に老人役を演じている印象です。このブログでも「マリーゴールド・ホテル」とその続編、「パレードへようこそ」「人生はシネマティック!」「マイ・ブックショップ」「親切なロシア料理店」といった出演作を取り上げてきましたが、個人的には「パイレーツ・ロック」の吹っ切れた感じが気に入っています。

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そのビル・ナイが抑え気味の演技で古き良き英国紳士を演じたこの作品。私はオリジナルを観ていませんのでそちらがどうかは知りませんが、本作に限っていえば、カズオ・イシグロらしい英国的な感覚が強く打ち出されていて、前情報がなければ英国映画と勘違いしそうな作品です。物語的な抑揚もなく最後まで静かに展開していきます。

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昔の映画のようなクラシックなタイトルバックに続いて、1953年のロンドンのまちなかの映像で幕開け。ノスタルジックな雰囲気で引っ張りながら、場面は人々が列車の到着を待つ郊外の駅に切り替わります。ホームに立っていた3人の紳士に、やや若い紳士が合流します。彼がこの物語の語り手となる新入りのピーターで、のっけから挨拶に添えたジョークを否定され、昔からの流儀に従うように促されます。

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次の駅で列車を待っているのがビル・ナイ演じるウィリアムズ。ロンドン市役所に勤務する彼ら4人の上司です。ホーム上から帽子に触れて挨拶するだけで、同じ車両に乗り込まないのも慣例らしく、ウォータールー駅で合流してグレーター・ロンドン・カウンシル(GLCC)の庁舎に向かいます。

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ちなみに現在はカウンティ・ホール(County Hall)として知られるこの建物、実は大阪の不動産会社が所有しているそうで、もう公共施設ではありません。駅に隣接しているのになぜ橋を渡って通勤するのかわかりませんが、きっとウェストミンスター橋を映してロンドンらしさを伝たかったのでしょう。

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彼ら市民課の日常は文字通り、お役所仕事です。空爆された跡地を公園にして欲しいと陳情に来た婦人たちを公園課に送り出し、公園課は下水処理の後でしか対応できないとたらい回しにします。勤務初日のピーターがOJT代わりに婦人たちに付き添うのですが、早くも役所内の人間模様に呆れ気味です。

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彼にとって唯一の慰めは、同じ課の向かいの席に座るマーガレットが他の寡黙な人たちとは違って明るく朗らかなこと。しかし彼女も転職を考えているということで、近いうちに光を失い、陰鬱な職場になることが見えています。

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四角四面で絵に描いたような小役人のウィリアムズですが、この日は珍しく早退します。行く先はクリニックで、先ごろ済ませた検査の結果を聞きに行くのです。

結果は、残念ながらということで、余命は6か月程度だと告げられます。自宅に帰って同居する息子夫婦に伝えようとしますが、どうやら彼らとは関係がギクシャクしているようで、うまく話の糸口が見つからないままになってしまいます。

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その翌日、市民課ではウィリアムズの無断欠勤に驚いています。自宅を出ているとわかってさらに驚くのですが、お役所仕事が染みついていますので、そのまま様子を見ようということで落ち着きます。

そのころウィリアムズは自殺しようと睡眠薬を多量に買い込んで海辺の町を訪れていました。ロケ地はワージング(Worthing)のカフェだそうで、自宅がブライトン周辺という設定ですので、ロンドンに向かって北上せず、西に向かったということですね。

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自殺に踏み切れずカフェで一人佇むウィリアムズ。いつものペンシルストライプのスーツがビーチの陽光に馴染みません。ふと店のマダムと常連客の会話に耳を傾けると、常連客が睡眠薬を欲していると知り、彼に薬をあげることにします。

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その常連客はサザーランドという名の作家で、当地にこもって執筆していると言います。大量の睡眠薬を見て事情を訊ねたサザーランドに経緯を話し、彼に誘われて夜遊びに興じることになります。

夜の女に愛用の山高帽を取られ、取り戻そうとするとかえって高く付くので諦めろというサザーランド。代わりに手に入れてくれたフェドーラに被り変えるのですが、伝統的なカッチリしたボーラーハットから小洒落たソフト棒への切り替えは彼の変化の象徴でしょう。パブでスコットランド民謡「ナナカマドの木」を歌うシーンと並んで重要だと思います。

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結局、夜遊びで心が満たされることはなく、ロンドンの街に戻って彷徨うことになるのですが、そこで偶然、マーガレットと出会います。ライオンズ・コーナー・ハウスに転職するので紹介状を書いて欲しいと乞われ、一緒にフォートナム&メイソンのカフェに行き、彼女と話すうちにその陽気で楽天的な性格に魅了されます。残りの人生を全うしようと考えを改めるのです。

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この心情の変化はあっという間に訪れますので、すべてビル・ナイの表現にかかっているわけですが、彼の演技力を以ってしても取って付けた感が否めません。この後も含みをもたせないまま話が進みますので、マーガレットもピーターも重要な役の割に存在感が薄く、家族の描き方も中途半端で、いろいろとチグハグな印象です。

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カズオ・イシグロと親しいというプロデューサーのスティーブン・ウーリーとエリザベス・カールセンは、このところ「追想」「コレット」「帰らない日曜日」と、まだ評価が定まっていない、新しい才能の発掘に燃えているようですが、本作のオリバー・ハーマナス(Oliver Hermanus)もこれが5作目という南アフリカ出身の監督だそうで、日本で公開されるのは初めてだと思います。

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ビル・ナイの他に有名俳優はキャスティングされていませんが、サザーランド役は「オンリー・ゴッド」や「Mank マンク」に出ていたトム・バーク(Tom Burke)、マーガレット役はエイミー・ルー・ウッド(Aimee Lou Wood)、ピーター役はアレックス・シャープ(Alex Sharp)です。

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公式サイト
生きるLIVING

[仕入れ担当]

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