映画「モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン(Mona Lisa and the Blood Moon)」
これが長編第3作目というアナ・リリー・アミールポアー(Ana Lily Amirpour)監督。次のタランティーノ(the next Tarantino)と呼ばれ嘱望されているそうですが、この作品を見た限り、どちらかというと「タンジェリン」「フロリダ・プロジェクト」「レッド・ロケット」のショーン・ベイカーに似た味わいでした。ポップな色遣いや選曲のおかげで、底辺の暮らしを扱っていても貧しさより自由さを感じさせてくれる作風。けばけばしくもスタイリッシュでユーモラスな映画です。
物語は精神病院に12年間入院させられていた少女がブラッドムーン(赤い満月)の晩に特殊能力を得て脱走するシーンからスタート。その特殊能力というのは他人を自由に操る力。拘束衣を着せられ、壁にクッションが貼られた個室で隔離されていたモナ・リザ・リーの部屋に女性看護師がやってきて彼女の足の爪を切り始めます。あんたの汚い爪を切って得たカネで私はネイルサロンに行くんだよ、と悪態をつきながら爪ニッパを扱うことから、どうせ何を言ってもわからないだろうという見下した態度がありありと見えます。
しかしその晩のモナ・リザ・リーはそれまでと違いました。看護師を睨みつけると視線の力で彼女を意のままに動かし、握りしめた爪ニッパで自らの腿を何度も突き刺させたのです。恐怖のどん底に陥った看護師は言われるがままにモナ・リザ・リーの拘束を解き、看護師の鍵を使って出て行く彼女を呆然と見送ります。
フロントでは黒人男性の受付係がコーンスナックをむさぼりながらTVを観ていました。モナ・リザ・リーは彼のコーンスナックを奪い、彼が警報ブザーを押したところを見るやいなや、彼を監視モニターの前に移動させ、自ら画面に頭を打ち付けるように仕向けて病院から脱走します。
夜道を歩いて行くと、3人組の男女が車を停めて酒盛りをしていました。映画の観客は何か起こるのではないかと少し緊張するのですが、彼らは意外に良い若者たちで、モナ・リザ・リーに缶ビールを勧め、女性が指図して、男性の一人が履いていたバスケットシューズをモナ・リザ・リーに与えます。そしてその女性が教えてくれたとおり線路沿いに歩いてニューオーリンズの街に到着します。
この映画の特色は、彼女が出会う、一見、危なそうな人物が実は悪人ではないところ。この3人組に続いて出会うファズも、ヤバそうな雰囲気を醸しつつイイ奴です。彼はコンビニ(Esplanade Food Store)の商品を持ち出そうとしたモナ・リザ・リーの代わりにカネを払ってくれるのですが、世間知らずの彼女につけ込んで酷いことをするのかと思いきや、意外なことに彼女が指図する側になります。
しかしこれで無事に収まったわけではありません。コンビニ前で泥酔した女性3人組に対応していたハロルド巡査が、ファズの車から立ち去った少女が精神病院から脱走して手配されているモナ・リザ・リーだと気付きます。巡査に追われた彼女は特殊能力を使って難を逃れるのですが、これをきかっけに巡査はモナ・リザ・リー確保に執念を燃やすようになります。
次に出会うのが、ダイナー(Ted's Frostop)でトラブルになり、駐車場で暴力沙汰になっていたストリッパーのボニー・ベル。
なぜかわかりませんが、モナ・リザ・リーは件の特殊能力を使って彼女を救います。そのパワーを目の当たりにしたボニー・ベルは、モナ・リザ・リーを使ってカネを稼ごうと自宅に匿い、彼女の幼い息子チャーリーとモナ・リザ・リーが仲良くなります。
これで主要な登場人物が出揃ったわけですが、もう一人印象に残る人物として、ボニー・ベルが働くバーの用心棒スナッキーがいます。序盤から密かに存在感を発揮し続ける彼は、バーボンストリートの場面が終わり、もう出番がなさそうだと思っていると、終盤で再登場してオチを付けます。彼も上に記した“危なそうに見えるけど実はイイ奴”の一人といえるでしょう。
モナ・リザ・リーを追うハロルド巡査に、ボニー・ベルとチャーリーの母子、それにドラッグディーラーのように見えて実はDJというファズが絡んで小気味よく展開していくこの映画、終盤にちょっとスリリングな場面もあり、思いのほか楽しませてくれます。
劇中でファズが言っていたように次作があるのなら、デトロイトへと続いていくのか、ニューオーリンズに戻って来るのか気になるところです。
英国生まれのイラン系米国人という監督自身の出自が関係しているのか、主演は韓国系のチョン・ジョンソ(Jeon Jong-seo)、助演的なボニー・ベルは白人のケイト・ハドソン(Kate Hudson)、ハロルド巡査役は黒人のクレイグ・ロビンソン(Craig Robinson)といった具合に多様な人種構成で撮られた作品です。ファズ役のエド・スクライン(Ed Skrein)はセリフがスラングだらけでどこの人かわかりにくい人ですが、実はロンドン生まれの英国人ラッパーだそう。
スナッキー役のコリー・ロバーツ(Cory Roberts)、精神病院の受付係ローシャ・ワシントン(Rosha Washington)はどちらも米国出身の黒人。しかしワシントンは夜勤の受付でスペイン語のTV番組を見ていることからヒスパニックという設定だと思います。そして忘れていけないのはチャーリー役のエヴァン・ウィッテン(Evan Whitten)で、2010年生まれながら既に多数の出演作がある注目の子役だそうです。
公式サイト
モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン
[仕入れ担当]
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